いずれ産む私のからだ今のうちいろんなかたちの針刺しておく
Yの字の我の宇宙を見せている 立ったままする快楽がある
/岡崎裕美子
針はペニス、宇宙はヴァギナの暗喩だ。エロいなあ。
まだ何もしてゐないのに時代といふ牙が優しくわれ噛み殺す/荻原裕幸
バブル期の狂乱の中に自分を見失うという歌だと思うが、ロスジェネ世代の自分にも突き刺さってくる。
それならば俺はどうなのだ詩人とは少年のままに老いてゆく人/杉﨑恒夫
この定義で自分をはかると、幼稚なうんこの歌を作るわたしは、詩人ということになるな。ほとんど詩に触れたことはないけれど。
さみしくて見にきたひとの気持ちなど海はしつこく尋ねはしない/杉﨑恒夫
人間ならば入水自殺かとか、変な勘繰りするから、寡黙な海と比べたらウザイよねえ。
ナボコフの趣味をにほはせ桜木は夜ごと淫靡にふくらみゆきぬ
蟹二匹鍋に入れつつ「これレノン、これは由紀夫」と前世判ず
/仙波龍英
固有名詞からどんどんイメージを膨らませていくところが、面白い。
『我が闘争』一巻のみ読みそのままに十数年経てまた読む あはれ夜桜
愛しあふ夜もあるらむ墓地裏の花屋の主人とその娘と
ロッカーの犇く涼しきビルのなか人骨あまたならべられたり
/仙波龍英
ヒトラーに近親相姦に人骨と不穏なものの連続。ホラー映画のような地獄感がたまらなく刺激的だ。
緩慢な破滅だ たぶん幾駅か乗り過ごしたが海に着かない/加藤治郎
朝の通勤列車の中で短いうたた寝をしたときに見た夢の歌かな。
ふるえつつ滴を弾く白猫のような乳房を眺めていたり/加藤治郎
性愛の歌。上句の比喩がみずみずしい。