赤い彗星降臨(前編) ~軽ナンバー1の悲劇~ | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

赤い彗星降臨(前編) ~軽ナンバー1の悲劇~

いつもより少しだけ遅く起きた休日の朝。
まだハッキリと目覚めていない体を引きずりながら、オレはテーブルの上に無造作に置かれたタバコを掴み台所へと向かう。
冷蔵庫から缶コーヒーを取り出し、苛立つほどに快晴の表へと足を向け、庭先に腰を下ろしタバコに火を付けた。
必要以上に冷えた缶コーヒーのプルタブを、鈍い音とともにこじ開けて一気に胃の中に流し込むと、半開きの目が徐々に全開になっていくのが分かった…。
あぁ、天気いいなぁ…。
時刻は午前9時、オレは今日一日何をして過ごそうかなぁと紫煙を燻らせながら考えてみた。
ぼけーっと庭先を眺めていると、ひどく汚れた愛車軽ナンバー1の無残な姿がオレの視界に飛び込んできた。
どうやらこれで午前中の予定は決まったようだ。



洗車でもするか・・・。



本来鈍い妖艶な光を放つ黒のボディーは、無残にも泥にまみれツートンカラーと化し見る影も無い状態である。
オレは愛車の側まで歩み寄り、そのボディーに軽く触れてみる。
汚れだけではない、よく見れば無数の細かい傷があることをはじめて知った。
日頃無茶な運転ばかりしているからなぁと深く反省し、今日はワックスもかけてやろうと心に誓った。


さて、洗車の道具やらワックスやらはどこに積んであったかなぁと運転席のドアに手を掛けると、なにやらちょっとした異変に気がついた。どこからとも無く油というかオイルというか、とにかくそんな感じの異様な臭いが車の周りに立ち込めているのだ。
オレはその臭いの元がどこにあるのか確認すべく、エンジンルームの下を覗き込んでみた。



これだ!



原因はすぐに分かった。オイル漏れだ…。
昨日オイル交換したばかりの我が愛車、原因は火を見るよりも明らかだ。
確実にオイル交換作業を行った車屋にミスがあったに違いない。

早速その車屋に電話して文句のひとつも言ってやりたいところだが、そうも行かない事情がある。

専業農家の我が家には、軽トラだったりワゴンだったという作業用の貨物車両が4台ありまして、商売道具でもあるこれらの車両の整備に関する全てにおいて、親父の友人が経営する○○自動車っていう小規模な販売店に任せてあるので、今回オレの愛車軽ナンバー1も親父の顔を立ててそこに預けたのだ。


ため息交じりで○○自動車に電話し事情を告げる。



ユキオさん、本当にごめんなさい。すぐに車とりに行かせますから!



受話器の向こう側で○○自動車の社長がバツの悪そうな声で言う。
だから嫌だったんだ、そんなワケの分からない車屋に愛車を預けるなんて…。
でもね、そこはアレですよ。
専業農家に嫁ぎ、マスオ的生活を送る男の定めって言うんでしょうか、郷に入っては郷に従えって言うべきか、とにかく親父の顔があるもんですから、声を大にして文句のひとつも言うことができない。
通常であれば相手に付け入る隙など与えずに、不平不満苦情罵声という名のミサイル連続、且つ水平発射の総攻撃を加えてやるところなんだが、今回ばかりは大目に見てやることにしとく・・・。


さて、程なくしてつなぎ姿の整備員らしき男が軽トラに乗り登場する。
オレは事情を説明し、文句のひとつを言うでもなく笑顔で愛車のキーを彼に手渡した。
正面から車の腹を覗き込み患部を覗き込むと、彼はパッキンの咬み合わせが悪いんだなと判断し、そのことをオレに告げる。
とにかくすぐに直るからちょっとだけ車を預からせてくれってことだった。
ちょっとだけラッキーだったのは、この車屋、オイル交換だろうが車検だろうが、一度車を預けるとワックスがけ込みで洗車完了させ返してくれるってこと。手間が省けたってことだ。



んじゃお預かりしマース。



と一言残しオレの愛車を持っていく整備員らしき男。
さて、これでまた休日の過ごし方を考えなければならないなぁ・・・と我が愛車を見送ったその時



どがったーん!



オレの愛車軽ナンバー1が断末魔の叫びを上げた。
ダッシュで音がした方へと向かうと、そこには側溝にはまり抜け出せなくなっている、見るも無残な我が愛車の姿があった。
オレは目を疑った。
駆動輪が溝にはまっていて、明らかに脱出不可能であることは容易に想像できる状況にもかかわらず、運転席の整備員らしき男はアクセル全開で脱出を試みようとしている。腹をつかえてアクセルを踏み込むたびにズルズルと引きずっていて、被害状況はさらに拡大しようとしているのはとても否定できやしないのである。
まぁね、でもそこはアレですよ。
オレも大人なもんですから、笑顔で運転席に近づき、やさしく諭してあげましたよ。車壊れちゃうでしょと・・・。
ところがね、この腐れ整備員らしき男ときたら悪ぶれるでもなく



大丈夫ですよー。今抜け出せますからー。



なんてさらりと言うモンですから、超が付くほどに温厚で名の通った31歳サラリーマンのオレ様も堪忍袋とかその他、忍たま二つくらいを収納してる乱太郎印のアレ袋とかの緒だとかが、ぶちぶちと切れる音が聞こえてきまして、整備員らしきクソガキを運転席から引っ張り出して外からこの状況を確認させてやりましたよ。
そうしましたら、絶妙なタイミングで黒く妖艶な輝きを放つ液体(エンジンオイル)がどっぱどぱとあふれ出してきまして、もうね、オレの車は死亡確定となりました・・・。
更に時間が経過すること30分、○○自動車の社長が直々にレッカー車に搭乗して参上しまして、我が愛車軽ナンバー1の救出に取り掛かる。ここでオイル漏れの原因がオイルパンの損傷だと発覚する始末ですよ…。


○○自動車の社長がいうには部品の取り寄せから修理まで、どんなに急いでも3~4日の時間を要するとのことである。
とにかくね、もうどうでもいい感じになってきちゃったもんですから、事を荒立てるようなことはぜずに、その間の代車用意してくれればそれでよしってことにしましたよ。
あぁ、なんて大人なんだ、オレって・・・。


で、代車なんですが、マニュアル車でもいいですか?


とか


二人乗りでもいいですか?


なんて○○自動車の社長がオレに聞いてくるもんですから、オレは話の流れから察するに、あぁ軽トラなんだろうなぁと思いましたよ。
つーか、整備員のクソガキが乗ってきた軽トラをそのまま置いていかれるんだろうなと思いましたよ。


ところが、程なくして届いた代車を見てオレは絶句した。
小気味よい重低音を響かせてやってきた車は真っ赤なスポーツタイプの車だったのだ…。




赤い彗星





次回、赤い彗星降臨(後編) ~タイムアタック~ を、こうご期待!(期待はずれ感濃厚!)



ランキング
 ↑ 弾幕薄いぞ!何やってんのランキング。
  どうぞよろしく。