赤い彗星降臨(後編) ~タイムアタック~ | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

赤い彗星降臨(後編) ~タイムアタック~

不慮の事故 に遭い大怪我を負った我が愛車軽ナンバー1。
その修理に要する日数は車屋の話だと3~4日とのこと。
その間の代車として届いたのが、二人乗りでマニュアル(MT)の真っ赤なスポーツタイプの車だったのだ・・・。




赤い彗星



いやーアレですよ。
まさかね、この車が代車としてやってくるなんて夢にも思ってなかったもんですから、度肝抜かれたっていうんですかね、とにかく激しく驚いたわけですよ。

実はこの車、オレが中学生の頃から憧れていて、免許取ったら絶対に手に入れてやると野望を抱いていた車だったんです。
そんで大人になり免許ゲット、実際に車を購入できる身分になったときには、二人乗りなんて実用性なさ過ぎる車に対する興味なんて消え失せていたんですけどね。

まぁ余談ですけど・・・。



さて、愛車軽ナンバー1がピットインしてしまった翌朝、オレはちょっとだけ興奮気味でいつもより早く目を覚ました。

その理由と言ったら、代車としてやって来た二人乗りでマニュアル(MT)の真っ赤なスポーツタイプの車、今朝はコレに乗っての通勤となるからだ。

駅までのおよそ30kmの道のり、そんな通勤コースの今までのタイムレコードは29分ジャスト。

非力極まりない軽ナンバー1がたたき出したこのレコードを、この車ならば確実に更新できるだろうと思ったからだ。


そそくさと身支度を調えて、オレは早速代車、赤い彗星の運転席側のドアを開けた。



なんだこりゃ?



オレは困惑した。激しく困惑した。

そこにはおよそ必要ねぇだろうと思われる後付の、何の役に立つのかワケ分からんメーターの類が4つ程くっついていたのだ。

うーん困った。

まぁあんまり気にすることもないだろと、オレはさっさと運転席に座る。

で、さらに困惑する。

シートベルトの付け方が分からない。

いつもの3点式のシートベルトではなく、この車ときたら生意気にも4点式のベルトが装備されていて、当然のようにバケットシートが積み込まれていた。

うーん、これどうやって装着するんだろうか・・・。

試行錯誤の上何とか装着完了したその姿は、何だかランドセルを背負った小学生のようだったことは否定できません。


さぁコレで準備は万端だ!
オレは高ぶる気持ちを抑えクラッチを一杯に踏み込んでキーを回した。
心地よいエンジンの始動音が響き、まもなく背中から腹の奥に重低音が響いてくる。
ド・ド・ドっと背中に伝わる振動、あぁコレがミッドシップの最大の特徴なのかとオレは驚喜した。
時刻は午前6時30分。
さぁ、タイムアタックの開始だ!
オレはシフトをローにぶち込んで、アクセルを踏み込んだ。



ぶすん・・・。



あれ?なんかエンジンが止まっちゃいましたけど?
うわっ!ダッセーエンストじゃん!?
オレは苦笑いで再度キーを回した。さて仕切り直しだ。
今度はもっと慎重にクラッチ繋ごうと、優しく、そうまるでアレの時のようにソフトなタッチでアクセルとクラッチにつま先で触れた。



ぶすん・・・。



もうね、この車あほか!って話ですよ。
確かにね、最近マニュアル(MT)車って言ったら軽トラくらいしか運転してなかったけど、オレの運転ってそんなにヘタクソだったっけ?って自己嫌悪に陥りそうになりましたよ。
とにかくクラッチのミートポイントがさっぱり分からんのです。
あーだこーだと試行錯誤の結果、何とか走り出した赤い彗星号。
気が付けば5分近いタイムロスがあったようだ。


だが、一度コツを掴んでしまえばもうこっちのモノってなもんで、軽ナンバー1ではありえないラップタイムをたたき出しながら爆走する。
オレが所持する軽ナンバー1、お父さんの4駆ともに視界高め車なので、赤い彗星号の地を這うような位置にあるコックピットを流れ行く景色はとても新鮮だった。
普段ならありえない進入スピードで魔の10連カーブに差し掛かっても、心地よいスキール音を響かせながらガシガシ曲がる。ドンドコ曲がる。ウキャキャキャーと叫び声をあげながら曲がる。とにかく気持ち良くスイスイ走ってくれるのだ。
滑走路を彷彿させるほどの長ーいストレートでは、気が付けばスピードメーターが1●0km/hオーバーを表示していて、前方をちんたら走る邪魔な車は全て追い越しちゃう。ドンドコ追い越しちゃう・・・。



滑走路




程なくして市街地へ突入し、もう追い越しとかは無しだ。
この頃には既に自由自在に操れるようになって、もうエンストなんてのは遠い昔の話である。
あぁ、オレってかっこいい・・・。


駅近くに借りている駐車場に赤い彗星号を駐車しタイムを確認してみる。
31分。
えーと、出発時に5分ほど時間ロスってるから正確には26分。
コースレコードは29分ですので、3分も短縮しちゃってるじゃねーか!
恐るべし赤い彗星号・・・。
でも所詮は参考タイムであって他ならない。
実際は31分の時間が経過しているのだから。



よし!本当の勝負は帰りだ!
赤い彗星号の扱い方が微妙に分かってきているので、本当のタイムアタックは邪魔な車も少ない帰宅時に持ち越すことにして、オレはいつもの電車に乗り込み職場へと向かったのだった・・・。







時刻は午後11時15分。


オレは再び赤い彗星号に火を灯し命を吹き込んでやる。
心地よいエンジンの始動音が響き、まもなく背中から腹の奥にかけて重低音が響いてくる。
さぁ、タイムアタックの再開だ!
オレはライトを点灯させクラッチを一杯に踏み込んだ。
あれ?
何だかやけに暗いライトだな・・・。
運転席から降りて確認してみると、向かって左側のヘッドライトが消えていることが分かった・・・。
くっそー○○自動車めぇー!!きちんと整備してから車持って来いってんだよ。
まぁいいや。あんまり走りには関係ないしね・・・。


ライトのことは気にしないことにしてオレは赤い彗星号を走らせた。
予想通りこの時間になると邪魔な車はほとんど走っていない。
オレは持てる力を十分に発揮し、軽快に車を走らせた。
間違いない。コレはコースレコード更新ペースだ!
各チェックポイントを通過したときのラップタイムが全て大幅に短縮されている。
魔の10連カーブを越えたあたりでは、もしかしたらコースレコード10分くらい短縮しちゃうんじゃねーかって感覚が頭を過ぎる。
よし、あとはもうチェッカーフラッグが振られるのを待つばかりだ・・・。



程なくして滑走路を彷彿させるほどの長ーいストレートに差し掛かると、何やら赤いキラキラした変な棒をこれでもか!って勢いで左右に振っているおっさんが立っているとの情報がオレの視界に飛び込んできた。



やばい!検問だ!!



気が付けばスピードメーターが1●0km/hオーバーを表示している。
万事休す・・。
停車を指示されオレは肩を激しく落としながら運転席側の窓を開けた。
免停、いやもしかしたら免許取り消しの可能性も濃厚だ。
オレは腹をくくった。



こんばんはー。なんで止められたか分かりますかー?



もうね、死ねばいいのにって思ったね。
そんなくだらない問いを投げかけやがって、この警官はオレをなぶり殺すつもりかよ・・・。
どうせアレでしょ?100km/hオーバーくらいしてたんでしょ?
もう分かったから煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・。



ライトひとつ切れてるね。これ整備不良ですよ。



ですって。
なんか状況をうまく理解できていないオレ。
とにかくセーフティだったみたい。
おっと!整備不良で切符切られちゃたまらん!ってことで、この車は代車なんですよーとか、ライトが切れてるなんて知らなかったんですよーなんて言い訳してみる。



んじゃー気をつけて帰ってくださいねー。



なんて笑顔を見送ってくれるお巡りさん。
よかったー。

さ、安全運転で帰ろうっと。


あ!忘れてた!そういえばタイムアタック中だった。
大事な事を思い出したオレは時計に目をやる。



42分31秒・32・33・・・。



結局コースレコード更新ならずでした。
やっぱ安全運転と定期的な点検って大事ですよねー。


とほほ・・・。



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