An office worker in new yo-ku a place. | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

An office worker in new yo-ku a place.

特殊任務遂行の為、現在山奥にある小さな公共の施設を根城にする生活を続ける日々。
そんな変則勤務体制の中、午前と午後の任務の合間を縫って寂れた温泉地へ車を走らせてみる。

たどり着いたのは、きっと一昔前は観光客で賑わい活気があったに違いない、そんな雰囲気漂う町並み。でも今となっては寂しさを醸し出し閑散としている…そんな場所…。
日曜日だというのにこんな有様では、平日に訪れればきっとさらに哀愁を漂わせているに違いないと悲しいかな思ってしまう・・・。


オレは近くの駐車場に車を駐車し、まるで時が止まったように静まり返った町を歩いてみることにした。
いたるところから温泉地特有の硫黄の香りが漂っている。
十分すぎる風格を持った老舗の温泉宿が多く立ち並ぶ路地を歩いていると、その一角にこじんまりとした公共の入浴施設が混じっているのが目に付いた。


入浴料150円。安い!


せっかくだから一風呂浴びて帰ろうと、オレは駐車場まで戻り車に積んであるタオルを掴み、またいそいそと浴場へと向かう。そうそう、小銭も鷲掴みにして。

立て看板の指示に従い隣接する雑貨屋から入浴券を購入し、『男』の暖簾がかけられた入り口から中へと入る。 無造作に置かれた箱の中に入浴券を放り込んで脱衣所へと向かう。
狭い脱衣所を見渡してみると、作られてからいったいどれだけの年月が経過したのか想像もつかないくらいいたるところが傷んでいるのが目に付き、さらには手入れが行き届いていないのか、若干黴臭さが鼻につく。
オレはさっさと衣服を脱ぎ捨て、タオル片手に浴場へと向かった。
桶で湯船からお湯をすくい、何度か体に浴びてから入浴する。
若干熱めではあるが、体にまとわりつくような重めのお湯は思いのほか心地いい。
オレの他に客はいなく、広い湯船は貸切状態であったので、思いっきり体を伸ばし極楽気分を満喫した。


ふと見ると、男湯と女湯を仕切る壁が目に入る。
温泉や銭湯ってのは、お決まりのように天井付近は仕切られてなく、双方の声なんかが筒抜けだったりするんだけど、ここの仕切りの壁は天井どころの話ではなく、それ以上にヤケに低く見える。
オレは湯船から這い出し、そんな壁の近くまで歩いてみた。



ん?何だコレ!?壁の高さがオレの肩くらいまでしかねーじゃねーか!!



コレは即ちあと数歩壁際に歩み寄れば、向こう側が丸見えだって事を意味している。
幸いなことに今このとき、この空間に存在しているのはオレ一人。
何食わぬ顔で壁に近づく、いや、堂々と近づいたところでその姿を誰かに見られることも無い。
いや、ちょっと待て。もし女湯に誰かが入っていて、そいつと目が合ったりしたらどうする?
しかしさっきから壁の向こう側からは物音ひとつ聞こえてはこない。
そうだ!決してやましい気持ちで覗いてみるんではない。
ただ向こう側がどうなっているのか気になるだけだ。
やましい気持ちなんてこれっぽっちも無い・・・。
でもやっぱ誰かいてくれたらうれしいよねー。
そう、ちょっとだけ、ちょっとだけならよしんば誰かがいたとしても気が付かれることも無いだろう・・・。
そんな葛藤があったが、やはりいい年こいた大人がのぞきなんて悪趣味なことをするわけにはいかないと、オレはまた湯船に浸かった。



そうこうしていると、大学生風の3人組が脱衣所からコチラへ向かってきた。
せっかく貸切だったのになぁと彼らの到来を鬱陶しく思っていると、そのうちのひとりが口を開く。



おっ!向こう側丸見えじゃね?



そうすると、どれどれと3人が一斉に壁際へと近寄る。
何の躊躇もなく壁の向こう側覗き込むヤツラ。
そして・・・。



ギャー!!



3人は何やら見てはいけないおぞましいものでも見たような断末魔の叫びをあげて、それから一切口を聞かなくなった。



間違いを犯さずによかった。
本当によかったと、オレは浴場を後にした。



以上。



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