傀儡と政と私。 | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

傀儡と政と私。

『昔はよかったとかなんとか、しみじみと言ってくれるな』
 
などと誰かがシャウトするのを、うんうんと頷きながら聞いてはみたものの、人は古き良き時代を時折思い出しては涙するものであります。
懐古主義……なんてのを否定する輩もいますが、過去を振り返らずに前だけ向いて明るい未来へまっしぐら!なんてのは不可能だ。
いや、言い切っちゃうとなんやかんやと語弊が生じるかもしれないので言い直す。
過去を振り返らずに前だけ向いて明るい未来へまっしぐら!ってちょっと難しいよね。
うん、これでいいだろう。
 
とにかくね、前に進もうと思った時、新たに何かを生み出そうと思った時にその指針となり比較対象とするのは、先陣のお偉いさんの残した痕跡だったり過去の自分の残した功績だったりするのは間違いないだろう。
それらを目標とし、より良いものを目指し時折後ろを振り返ってみることも必要でしょ。
「つーかそれって懐古主義とは言わないんじゃねーか」と言わないでください。
話が終わっちゃうから。
 
閑話休題。
 
引っ越しを間近に控えているオレは、このところ暇を見つけては家中の片付けに精を出している。
「これは必要、あ、これはもう捨てようか?」
などと、元グラビアアイドルで健全な青少年の夜のお供にして、一昔二昔前の中高生の下半身強化運動に大いなる貢献を果たし、今や日本の国政にまでその力を見せつける、仕分けと男性の下半身傀儡のスペシャリスト蓮○よろしく、オレはばっさばっさと不要な物を切って捨てる。
これ捨てるのもったいないな……なんて思いは、仕分けの達人としてもプライドが許さないので迷ったら斬る。
ざっくりと。
 
ある時、古びれた見慣れぬダンボールを発見しそれを開封する。
そこに入れられた数冊の古い大学ノートの一冊手に取りページを捲る。
そして言葉を失う。
 
『全国の頂点に俺は立つ!』
 
なんだこれ?
お前は手足がゴムみたいに伸びる麦わら帽子を愛用するいかれた海賊か?と突っ込みたくなるようなフレーズがその見開きにデカデカと書かれていた。
はやる気持ちを押し殺しながらゆっくりとページを捲ってみると、懐かしい記憶が蘇ってくる。
これはオレが高校生の頃使っていた、自主トレ記録日記だ。
当時けっこう本気になって部活動をしていたオレは、夢はでっかく全国制覇を目指していた。そのためには学校での練習では物足りず人一倍自主トレに精を出していて、これはその頃の記憶だ。
 
○月×日
朝……ランニング5km
    腕立て100回×3、腹筋100回×3
夜……穴ジャンプ100回
    腕立て100回×3、腹筋100回×3
    背筋100回×3
※今朝のランニングに時間をかけすぎたため、電車に乗り遅れ遅刻。ちんたら走ってる場合じゃないと自覚する。
 
 
とまぁこんなことが延々と書かれていた。
結局、井の中の何とかレベルから脱却できず、全国の舞台ではコテンパンにされたのは忘れられない苦い思い出ではある。
 
懐かしさついでに当時のアルバムを引っ張り出して眺めてみた。
あの頃の仲間たちと屈託無い笑顔を見せる自分がいる。
何故か上半身裸で。
つーか、部活の練習の時に撮影された写真は、自分を含めみんなが裸だ。
まぁ、男子校だったということと、特に夏場の練習はTシャツなど着ていたところで吸収しきれないほどの汗を掻いたから、いつもこんな感じだったと思い起こす。
そして何より、皆誰に見られても恥ずかしくないくらいに体が鍛え上げられていて、腹筋なんて70個くらいに割れてボコボコだった。
 
オレはふと着ていたシャツを脱ぎ棄てて、姿見の前に仁王立ちになる。
その両手に腹回りへこびりついた贅肉を掴んで……。
 
 
あの頃の自分に戻れたなら。
今のオレがあの頃のように直向きになり、目標に向かって努力することができたなら……。
 
 
 
そうしてオレは翌日から走りだした。
あの頃のようにとはいかないまでも、仕事帰りのランニングとわずかばかりの筋トレを始めた。
とりあえず5kgの減量を目的とし、オレは動き出した。
超久々の運動はすぐにオレの体に悲鳴を上げさせて、強く心に誓ったはずの目標を打ち砕こうとする。
だけど疲れたら休み、休んだらまた走り出すことを繰り返し、何とか1ヶ月継続することができた……。
 
そしてオレは体重計に乗る。
己の努力がきっと報われたに違いないと、懐疑心の欠片も持たず飛び乗る。
が、無情にも体重計の針が示したのは、1ヶ月前のそれと全く同じ個所であった……。
 
ま、こんなもんだよねー。
つーか、食事制限とか一切してなかったし。
酒の量、特にビールの摂取量なんてのは、走った日の方がめっちゃ多くなってたしね。だって、汗かいた後のビールって滅法うまいじゃない?
そもそも、食いもんとか飲み物を制限するくらいなら、今の体型でいいしさ。
 
でも、なんだかんだいって、運動をすることの心地よさを思い出したオレは、その後も地道にメニューをこなし続けた。
  
その後も体に何ら変化が見られないまま月日だけが流れたある日、オレはちょいとドジを踏んでしまい結構酷い怪我を負ってしまう。
数十針縫う羽目となり、医者からは怪我の治りに多大な影響を及ぼすからと10日ほどの強制禁酒を課せられた。
くそがっ!
本来なら医者の言うことなど無視するのだが、さすがに痛みには勝てず大人しく従った。
すると……
 
「おや?体重が5kg減ってるじゃない!?」
 
怪我の影響でランニングはおろか筋トレすらも全くできなかったのに、ほんの1週間足らずで体重が一気に落ちた。
まさに怪我の功名とはこのことだ。
 
冷静になって減量の理由を考えてみた。
それは、毎日のビール摂取量が尋常ではなかったんだと理解する。
元来食が細いオレが巨大化する理由、それは酒だった。
ついでに完全体を誇っていたあの頃のオレと今のオレの違いはなんだったのか。
 
それは、あの頃は未成年、そして今は非の打ちどころのない成年、むしろおっさんだということだ。
そうだ、あの頃だって堂々と酒が飲めたのならあんな体を維持できたはずがない!従って今の自分と比べたってしょうがないじゃないかと結論に至った。
 
酒さえ我慢すれば痩せる!
さぁ、これで如何にすれば完全体を取り戻せるかは分かったと、今宵もオレは7本目の缶ビールの蓋をブシュっと空けながら日記を綴る。
 
つまるところ、変わったのは体型だけじゃない。
時の流れと共に根性も尖った所を失い、丸くなり我慢することを忘れたのだ。つーか我慢する気がないだけか。
あ、変わっていないのは○舫が今でもオレにとっては夜のグラビアアイドルであるのは間違いない。
あぁ蓮○さん、夜な夜な僕の生気を吸い取るだけではなく、どうか贅肉と汚れた根性も仕分けてくださいな。 
 
ま、久々だからこんなもんだろ。
 

 
 
そんな感じで。