少女だったといつの日か思う時がくるのさ。 | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

少女だったといつの日か思う時がくるのさ。

仕事帰りのランニングを始めて、だいぶ時が経過いたしました。

もちろんダイエットのため、健康のために始めたのだが、まったく体型に変化が見られず、地味にやる気をそがれる。

石の上にも何とかとは言いますが、3年も待ってられない。

体重は落ちてるんだけどなぁ……。

 

まぁいいや。

 

今日もオレは日課のランニングのために定時で職場を後にする。

 

「おいザキ、これとあれとそれと、あとオレの机の上も片付けておいてくれ」

 

本来は山ほどやることがあるのだが、それら全てを部下、ザキに押し付けてオレは帰宅の準備をする。

もちろん、ザキにはこう言い聞かせている。

 

「いいか、これは全てお前が早くいっぱしのサラリーマンになるための試練だ。本当はオレがさっさと片付けてしまいたいのだが、ここは心を鬼にしてお前に託す。いいか、明日までやっとけ。若い時の残業は必ずお前の糧となる。サッカー見てーから帰るとかもってのほかだぞ!」

 

ザキは、ちーっすとお決まりの返事でオレを見送る。

結局翌朝、全てをオレがやり直すことになるのは、今はさほど問題ではない。

くそがっ!

 

 

オレのお気に入りのランニングコースは、市の税金をたんまりつぎ込んで作っちゃいましたって感が否めない運動公園の敷地内だ。

そこには野球場からサッカー場、更には陸上用のトラックからテニスコース、そしてゲートボール用のグランドまで完備された総合運動場だ。

残念なことに、平日の夕方はそこを利用する市民は数えるほどしかいない。

そのひとりがオレって寸法だ。

 

オレを含め2~3人のおっさんが、いつもそこの外周に整備されたランニングコースを走っている。

まぁ体感だからよく分からないが、一周3km弱かと思われます。

走っているとすれ違うのはおっさん。

そしておっさん、おっさん、おっさん……。

減量が目的であるので特に問題ではないのだが、どうせなら素敵なお姉さまのランナーとすれ違いたいと思うのはココだけの話である。

 

だが、そんな加齢臭漂う運動公園内に、正に紅一点ほぼ毎日顔を見せる女性がいる。

彼女はいつもオレより早くそこを走り始め、オレが帰る頃にもまだ走りをやめようとしない本格派のランナーだ。

彼女はいつも陸上用のトラックをひとりひたすら何週もかなりのスピードで走る。

オレはいつも外周コースからその姿を眺め、ため息を漏らす。

とにかく彼女の走りは本格的である。

一応若い頃は陸上部で慣らしたオレの目にも、彼女の走りが尋常ではないことは一目瞭然だ。

 

彼女はいつもランニングキャップを深く被り、明らかにレース用のシューズとランニングシャツとランニングパンツを身に纏い走っている。

そして何より素晴らしいのはその体型だ。

女性らしさを残しつつ、無駄を全てそぎ落としたその体型は見る者全てを魅了する。

 

オレもまるで憧れの目で彼女の姿を時折追った。

 

で、本日、いつもより調子の良かったオレは少しだけ多めに走り、汗だくで車へと戻りいそいそと着替えをしていると、そこへ同じように走り終えた彼女がやって来た。

オレの車の斜め前方に駐車してあるのがどうやら彼女の車らしい。

オレは始めて間近で見る彼女の姿に興奮を覚えた。

やはり近くで見ても正にパーフェクトな体だ。

 

感心して見つめていると、彼女は徐にキャップとサングラスを取る。

それと同時にオレの鼓動は高鳴った。

 

あ、あれ?

 

 

 

思い込みとは恐ろしいものだ。

その走りから勝手に想像していた彼女の年齢とはかけ離れた、正に初老と言っても過言ではない姿がそこにあった。

 

 

そんな感じで……と言いたい所だが、オレは深く反省した。

もう年も年だから昔みたいに本格的に走るなんて不可能だと自分に言い聞かせていたが、明らかにオレより一回り以上年上の彼女の走りを見たら、グダグダ言う暇があったら毎日あと一周走る事から始めるべきだなと。

 

と、いいつつも、今宵も既に片手をオーバーする缶ビールを飲み干す自分に乾杯だ。

 

 

 

以上。