いつかの少年みたいに。 | 明け行く空に…。  ~ひねもすひとり?~

いつかの少年みたいに。

まだ7月も初旬だというのに、本日もいつものように朝から茹だるような暑さに辟易しながらも、文句の一つも口にせずしっかり出勤するオレ。

つーかそれって社会人として当然のことじゃねーか……などという意見は受け付けない。

だってほら、オレって褒められて伸びるタイプなのだから。

とは言っても、オフィス内は必要以上の全力稼働を強いられたクーラーが力を発揮し快適この上ないんですけどね。

 

そんな凍えるような状況下、熱々のコーヒーを啜りながら朝の一時を満喫していると、窓際の上司が徐に口を開く。

 

「おーい、誰かこの資料を大至急届けてきてくれないかー」

 

オレはそんな声など聞こえない素振りでモーニングコーヒーを啜る。

ただひたすらに啜る。

 

「おーい、お前だよお前、つーか今日お前しかいないだろ」

 

まさかとは思いつつも、オレは声の主の方を振り返ってみる。

 

「そ、お前だ」

 

やべぇ、オレか……。

つーかザキの野郎はどこに行ったんだ?

辺りを見渡してもその姿は見えない。

あ、そう言えば、昨日の帰りに面倒くせー仕事をヤツに放り投げて、今日は朝からその処理に向かわせたんだった。

くそがっ!

 

オレは渋々立ち上がり、上司から書類を受け取る。

そしてこれまた渋々車のキーを取り早速外出する準備をする。

時刻は10時。

すでに太陽は容赦のない日差しをこれでもかと降り注ぎ、まだ一歩外に出たばかりのオレのやる気をそぎ落とす。

そしてダメ押しと言わんばかりに、ドアを開けた車の中からは十分に加熱された熱気がオレに向かって襲いかかる。

意を決して素早く運転席に飛び込み、エンジンをかけてエアコンを全開にしまた外へ飛び出す。

煙草に火をつけしばらく日陰で時間を潰した後、再度車に乗り込むと、車内からは程よく熱気が奪われいい具合になっている。

オレは早速荷物を後部座席に放り投げようとドアを開ける。

 

「なんじゃこりゃ?」

 

そこに無造作に置かれた雑誌。

手に取ってみると、およそこんな時間じゃその詳細を口にすることが憚れるような大人向けの雑誌がそこに鎮座していた。

誰だ、会社の車でこんなもん読んでいるやつはっ!

まぁいいや。

 

なんだかんだ言ってエアコンの効いた車内は快適で、さっき飲み干すことが出来なかったコーヒーに代わり、冷たい缶コーヒーを味わいながらドライブを開始する。

 

港町の漁港に隣接された目的の企業への訪問をさっさと済ませたオレは、せっかくだからと船着場まで涼を求めてぶらっと歩いた。

一通り辺りを散策した後、さて帰ろうかと車に戻ろうとすると、ふとある光景が目に付く。

それは無造作に重ねられた網や碇などの漁業資材に、まるで屋根でも掛けるかのように、そして壁を作るかのように置かれた古びたトタンやらベニヤ板の残骸だった。

オレはすぐにそれが何なのかが分かった。

 

「こいつは秘密基地じゃねーか!」

 

子供の頃、まさにここと同じような港町で育ったオレは、幼き頃全く同じような遊びをしたことがある。

なんだか懐かしくなり、草の生い茂ったその場所に足を踏み入れ中を覗き込む。

そこにはおやつを食べた後の残骸や、皆で持ち寄ったと思われる漫画などが散在していた。

 

なんか、懐かしいなぁ……。

そう呟き、まるで昔の自分がそこで仲間と作戦会議をしているような光景を想像してみた。

もう一歩中へ踏み込むと、散らかった漫画に紛れて少しだけ際どい、まぁこんな時間でも口にしても良いような程度の雑誌があるのを見つけた。

 

オレは車へと戻った。

そして、後部座席に置かれた雑誌を手に取りまた秘密基地に戻る。

 

「これはオレからのプレゼントだ、とっとけ」

 

そう呟いて雑誌を基地の中に放り投げ、オレはまた車を走らせ会社へと戻った。

 

 

 

そんな感じで。