ジャニーさんにはかなわない。
オレね、自慢じゃないけどバク転できないんですよ。
つーかさ、ジャニーズだって30過ぎたらバク転なんて滅多にしないわけじゃないですか。
想像してごらんなさいよ。
ジャニーさんがバク転してるところを。
いや待て、ジャニーさんて数々の武勇伝をメディアでささやかれているが、その姿って露出したの見たことねーな。
ちょっと想像するの難しいな。
ま、いいか。
そんでね、今度は自慢なんだけどオレ、バク宙はできんのよ。
いや正確には昔はできたのよ。
そもそもバク転ってさ、結構練習しないでやろうとすると手首骨折したり首痛めたりと、なにかと大変じゃない?
バク転上級者の指導がないままにやろうとすると、無傷では済まないっていうのかな。
それに比べてバク宙はさ、ちょっとジャンプ力に自信があるヤツだと、意外と簡単に出来ちゃう。
ほら、オレも若い頃はジャンプ力に自信があったから何気にマットの上でやってみたらあっさり出来ちゃったのよね、当時。
このところ、何をどう頑張っても体重は減らないし、下腹部は凹む素振りを全く見せないもんだから無駄な努力はやめようと思ったわけ。
つーか、もうこの年齢に到達するとビジュアルなんてどうでもいいんだよ。
いやいや開き直りとかじゃなくマジで。
本気って書いてマジでよ。
でもさ、太っていることが災いして、己の行動に何らかの制限が発生するのは納得がいかないのよ。
特に若い頃、めっちゃ機敏だった記憶が残っているだけに、自分の動きがニブイって感じたり誰かに思われたりするのって精神的に苦痛だと感じるんだよね。
だからオレはさ、身軽なデブを目指そうと最近思っているんだよね。
身軽なデブ。
言うのは簡単だが、第三者に「あの人ってデブだけど身軽だよね」と言わせるのにはどうすればいいのだろうか。
オレは考えた。
マジで3日くらい酒を絶ち己の体からアルコールの類を完全除去して考えた。
そして冴えに冴えた頭に一つの案が浮かぶ。
「この体でバク宙を華麗にキメたら、身軽だって証明できるんじゃねーか!?」
よし、さっそくやってみよう。
確か最後にバク宙をやったのが浪人時代のことだから、たった1●年前のことだし不可能なことはないと、自宅の庭でトライ!
「うわ、恐ぇぇぇーー」
もうね、間違いなく首の骨がお釈迦になるのを察したね。
せめてやわらかい布団とか、もっとやわらかいマットの上じゃないと確実に死ぬと即座に察したオレってかっこいいと思ったね。
そんでその日の挑戦は烈火のごとくあきらめた。
なんならこの一連の出来事は全て無かったことにしようと心に誓った。
でね、その数日後、たまたま高校時代の陸上部時分の同級生と一緒に飲んだんだよ。
「100mはお前の方が早かったが、50mなら負けなかった」
とか何とか盛り上がり、つい調子に乗ったオレは、先日のバク宙問題について口を滑らせる。
「つーかさ、オレとか今でも高跳び用のあのゴツいマットの上ならバク宙とか余裕でできるし。でもこの歳になるとそんな機会もなかなか無いからそれを証明できないから残念だ」
そう言って直ぐ、オレはしまった!と思った。
何故ならその友人は市内の中学で教鞭をとり、しかも陸上部の顧問をしているってことを忘れていたことに気付いたからだ。
案の定……
「おうおう、それなら来週の土曜にウチの中学に来いよ。マット用意して待ってるから。ついでにウチの部員に高跳び教えてやってくれよ」
もうね、オレの命もあとわずか……と思ったね。
でもオレも男だ、二言はねーってところを見せてやろうじゃねーかと腹をくくった。
でね、先日本当に友人の勤務地である中学校を訪問したんだよ。
「おいユキオ、やめとけって」
そんな友の言葉には耳を貸さず、オレはマットの上に仁王立ちになる。
オレはできる!オレ身軽だっ、わはは!
そう暗示をかけて、渾身ジャンプをすべく大地を両足で蹴った。
あら、あっさりバク宙成功!
調子に乗ったオレはマットから降りて再度トライ。
またしても成功。
やべぇ、オレ身軽なデブ確定じゃん。
わはっは、オレは軽い軽い!
オレは身軽だ!オレは凄い!
そういって何度も何度も宙を舞った。
がしかし、翌朝オレの体に異変が起きた。
膝が痛い。
足首が痛い。
肩が痛い。
アレもこれも痛い……。
特に膝へのダメージは深刻で、マジでベットから降りることができない。
結果オレは仕事を休み、病院へとまっしぐらとなりました。
つーか、今度は膝への負担を軽減すべく、マジで体重を落とす努力をします。
もっと確実に宙を舞えるように。
いや、もう二度とバク宙とかしない方が身のためだな。
もう、ただのデブでいいや。
そんな感じで。