マリナ・デル・レイで独立記念日の前夜祭。 | 赤木太陽の徒然なるままに。

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 LAの空港でニューヨーク帰りの小泉クンと合流した。

 

 小泉クンとは少年サンデーの読者投稿ページ『青春学園』を5年以上も連載続けるライターの小泉リュウジクンのこと。彼との付き合いは古く10年にもなる。彼らがライターユニット『ストロウドッグス』の名前でバリバリ活躍していたころにさかのぼる。その回想はいずれに機会に。


 その小泉クンは単身でニューヨークへ赴き、ミシュランの3つ星レストランをすべて回るという計画で滞りなく実行。どうせ、アメリカにいるんなら……と、たいしてNYは近くもないのにその後、LAで落ち合う約束をしていたのだった。


 昨日はハリウッドの二つ星店でひとりでディナー。今日は日系人ガイドを雇って、ハリウッドとビバリーヒルズの観光をしていたんだという。


 で、この日本人ガイドがやたらと話好きだったらしく、いろんな下世話な誘いや金儲けの話などをしてきたらしいのだが、いちばん驚いたのは昨夜まで俺や小泉クンが泊っていたダウンタウンの某ホテルの裏には、なんとあの三浦和義さんが自殺された警察署があったというのだ。


 じつは俺と小泉クンは三浦さんと一時親しくしていたことがあった。気さくでジョークも得意な三浦さんとの時間はいつも楽しいもので、気軽にビジネスの話なんかもできる雰囲気作りしていただいたものだった。


 そこであんまりにも三浦さんとの会合が楽しいもんだから、俺と小泉クンで、若手クリエイターと三浦さんが定期的にお茶する会――三浦会(仮称)――を作ろうと相成ったわけである。



 結局、その後、その会は実行されることなく、今に至るわけだが、そんな当時のことを思い出すくらい、今日は小泉クンといろんなことを語り合っていたマリナ・デル・レイ・マリオットの一室。


 22時――。いろいろと語り合っていると、外が騒がしい。1階ロビーに降りてみると、裏庭にバーが特設され、さらに暖炉が炊かれたリビングソファがずらりと並べられている。そして適度な音量のハウス・ミュージック。


 現在、アメリカは連休中で、明日は独立記念日。LAでも人気のリゾート地には、年に一度のお祭りを祝うために 

休日を贅沢に思いっきり楽しみにきたアメリカ人が集まっていたのだ。


 聞けば小泉クンは明日は近くのリッツ・カールトンに移り、たまりにたまった原稿書きに集中するらしい。……って、おい。どんだけセレブな物書きなんだよ!


 アメリカで観たバラエティ番組での話。この番組は一般素人によるゴングショーで、優勝者には1ミリオン(約1億円)が狙える決勝大会への参加権が与えられる、というのが趣旨。参加者は単なる歌自慢から趣味を披露するだけの人まで多種多様。ひとりではなく、家族で参加することも認められるというじつにアメリカ的なファミリーバラエティープログラムだった。


 ここでアメリカ人のジョークはキツイなぁと思ったのが、ある中年男性がオペラを披露した場面だ。


 まずこの番組には、あるフォーマット(お約束)があり、出演素人が自分の芸を披露する前には1分程度の自己紹介のコーナーがあるのだが、そこでは必ず出演する素人たちが判で押したように自信満々に尊大にやたらと自分を大きく見せようとアピールするのだ。その影響で、その後の審査がどんだけハードルが上がるかも考えずに。


 アメリカ人ってバカだなぁ、と思ってしまうのだが、何せ国民の半分はニューヨークの場所を知らないというお国柄。他人のこと、他国のことには関心はなく、自分が目立てればそれで十分というのが彼らの性質なのだろう。当然ながら、その後に披露する持ち芸がイマイチな場合、観客席から凄まじいまでのブーイングが飛ぶことになる。


 で、その中年男性。アラバマ州から来た田舎風情で、やはり他の出演者と同様にやたらと自分をアピールする。「今世紀最大の歌手がやって来たぞ!」とか「俺の声には人間はおろか動物たちもさえずりを止めて聞き入るだろう」とか「観客席に座っている君たちは幸せ者だ。なぜなら俺のステージを観れるのだから」とか、思いつく限りの最大級の自画自賛を始めたのだ。


 そして、歌の披露。彼が歌ったのはオペラだったのだが、スーザン・ボイルには似ても似つかない「素人が無理してオペラ風に歌ってウケ狙いをしている風」の歌唱力しか持っていなかったのだ。当然ながら、場内はドン引きした空気になり、観客からは一斉に大ブーイングが飛んだ。だが、当の本人はどうして自分がブーイングを受けているのか本気で理解できないようで両手を広げて「なぜ?」のポーズをしていた。


 歌い終えてから発した審査員の言葉が奮っていた。


「本当につまらない男だ。それもアラバマ州で一番のね」


「君はノドに湿布したほうがいい。こんなに胸糞悪い気分になったのは初めてだ」


 もう罵詈雑言の嵐。それも思いつく限りの侮辱的な言葉が続けられる。当の中年男性は唖然とした表情でそれらの暴言を受け止めている。その光景を見て観客は大爆笑。


 この番組、じつはここまでがフォーマットになっていたのだ。他の出演者もだいたい同じパターン。面白いのが優勝した4人連れのファミリーだけは自己紹介のときはやたらと謙虚で、「今日のこの日のために家族全員で練習を重ねてきました」と真摯な態度を見せつけるのだ。このコントラストが見事で本当に面白い番組に仕上がっていた。


 ハリウッドスターの豪邸が立ち並ぶビバリーヒルズの通りにさしかかったあたりで、小泉クンは日系人ガイドにこう言われたらしい。


「このへんにはトム・クルーズも住んでるだけど、あいつはいい奴だぜ。挨拶すると気軽に応えてくれるからな。でも、二流半くらいの連中はダメだな。そういう奴に限って自分はスター気取りなんだよ」


 この番組スタッフがこんなアメリカ人気質を自虐的に皮肉って番組を制作しているんだとしたら凄い。