理知的な輝きを放つ アンセルメの〝第九〟 通を納得させる、フランス的な実験精神にあふれた演奏 | 恋、ソープ嬢こばとの愛され組曲

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アマデウスレコード
9thブログ
    SP音源で聴くモーツァルトはじめました。

アンセルメの胸の内で熱い奔流が滾っている。それが透けて見えるから感動するのだろう。

レコードは第3楽章を、7分と、8分に分けている。A面の最後は和音でストップ。その和音から始まるB面の演奏は、前半に対して、遅いテンポから徐々に元の速度に達していく。

 

 

クライバーと比べると対極。ここには、フルトヴェングラー的な思い入れは一切ありません。かと言ってトスカニーニの力業もなく、明らかに後年のピリオド演奏につながっていくような即物的解釈で貫かれた引き締まった演奏ですが、アンセルメは最後の最後まで劇場の人でした。フランス的な実験精神にあふれた演奏ながら行き着く先は、聞き手へのサービス精神に帰結しています。

 

ベートーヴェン=ドイツ=重厚と考える向きには、アンセルメのベートーヴェンなど選択肢のひとつにも入らないかもしれないが、これはまことに傾聴に値する録音であり、広く推奨したい。
アンセルメの演奏を一言で説明するなら「理知の光に照らされたベートーヴェン」と言うことができる。

オケの響きは、とても軽やか。弦の音色は明るく、管もオーボエやホルンを筆頭に鼻にかかったフランス風の音。
それらが、アンセルメの颯爽としたテンポの中で伸び伸びと歌っている。
しかし、決して感覚的、即興的に流した演奏ではなく、不意に訪れる大小のテンポの変化や全体のバランスの妙には油断がならない。
これほど考え抜かれた演奏でありながら、いっさいの理屈っぽさを思わせない点に芸の深さがある。
(福島章恭著「交響曲CD 絶対の名盤」)

 

テンポの変化、音色の入れ替え。力こぶ。弦と管の陣取り合戦。第1楽章から盛り沢山。至るところがモザイクが張り巡らされている。数学者でもあるアンセルメが、張り巡らせた伏線を、最後の一音で決着を結ぶ。

 

 

フレーズを短く刻む ― 弓を倒して、弓のスピードを速く、弓圧を軽く弾く ― 弦楽器はフランス・スタイル。木管楽器のカラフルな響きは声部の動きが手に取るように見える面白い効果があり、最終楽章の、合唱が登場する直前の穏やかな音楽は、木管、金管のハーモニーでアルルの女を思わせる。ファゴットのパートを吹いているのはバソンでしょう。 高音の搾り出すような音。中音域でビブラートがかかったときの、まるでサキソフォーンのような甘い音色。ベートーヴェンの鮮烈なアイデア豊富な管弦楽法に、くわえて色彩美をもたらしている。楽譜の改変はワインガルトナーのそれを準拠したものですが、第4楽章オーケストラ部分のみの歓喜の主題全合奏部分のトランペット、ホルンにかなりの加筆があります。合唱は若々しく、ティンパニも多彩な技の連続で、爽快感ある演奏。オーケストラは音程が不正確だったり、縦の線がずれていたりといった乱れもありますが、アンセルメならではのテンポ設定のうまさが光る明晰さ、明るいカラフルな響きのなかにも陰影をくっきりとつけていて、フレンチスタイルの鄙びたバソンの響きも古典的な雰囲気にうまく合っていました。

1959年4月2日、ヴィクトリア・ホールにて録音。
Ninth
by Ludwig van Beethoven;
Ernest Ansermet; Joan Sutherland; Norma Procter; Anton Dermota; Arnold van Mill
London Records (CS 6143 / CS.6143)
1960