泡姫物語2*ソープ嬢の恋* -5ページ目

第2話 /第一章「トモダチ」

一瞬、耳を疑った。


彼が口元に浮かべた笑みで、


侮辱されたことに気がつく。




「そんなこと言われる筋合いないと思いますが。


失礼ですけど、これって、ネズミ講ですよね?」




黙ってるなんてできなかった。




「ちょっと・・・!」





あみちゃんが割って入る。





「何を根拠に・・・失礼だな・・・」




男が立ち上がる。




「こういった手法が、完全にネズミ講だと思うんですが、違いますか?」




堤さんは、チッと舌打ちをして、




「なんでこんなヤツ、紹介すんだよ。」




と吐き捨てるように言い、



その場から立ち去った。




「あ・・・」




と、立ち上がるあみちゃん。




アタシは彼女に問いかける。




「100万・・・払っちゃったの?」





「何であんな言い方するの?ひどいじゃない。」





彼女はひどく興奮していた。





「ごめんね・・・でも、あみちゃんだま・・・」





「騙されてるっていうんでしょ?知ってるよ。そんなの。

でも、それでもいいの!」






そして、その場で泣き崩れた・・・





彼女はこんなに、



弱い子だったろうか・・・




ピンサロで、



私の前に立ちはだかってくれた



あの頃の彼女は、



もういない・・・





周りを気にせず、ひとしきり泣いた後、




「ごめん。」




と言って、カバンの中から何かを取り出す。




「○△メンタルクリニック」




と書かれた薬袋から、



クスリを一粒取り出し、口にほおりこんだ。





「かわいそうとか思ってるんでしょ?


分かってる。分かってるけど、


好きなんだもん。どうしようもないじゃない。」






目の前にいる彼女と、あの頃のアタシが重なる。




痛いほどわかる。



その気持ちが・・・・





初めてのソープで、アタシと同じように不安だった彼女。


初めてついた、指名のお客様が、


堤さんだったそうだ。


何度も何度も、通ってくれる彼に、


彼女は心を許していく・・・


そして、


「俺と付き合ってほしい。」



きっと、それが彼の手口なのだ・・・・



弱っている彼女に、その言葉はてきめんだった。



あれよあれよという間に、契約をさせられ、


大量の商品が、家に送られてきた。


親にも言えず、大学時代の友達や、


昔の友達に連絡をする。


けれど、みんなから断られ、


今度は、お店の子にも、売ろうとしたのだ。




「みんなにバカにされたの。


そうやってモモカちゃんみたいに、ねずみ講だって。


その前日まで、仲良かったのに、


彼氏のこと話したら、寄ってたかって無視された。」




 彼女はイライラしながら話し続ける。




「どんなに商品がいいものだ。って話しても、


聞く耳も持たないの。


だから仕返ししてやったの。」





「盗んだの・・やっぱり、あみちゃんなのね・・・」





彼女は力なく、うなずいた。





「ねえ、モモカちゃん、アタシから商品買って。


あんな風に、彼氏のこと邪険に扱わないで、


一緒に仕事やって。


そうすれば・・・・そうすれば・・・・」





3ヶ月の間に。


アタシの知っているあみちゃんは、


どこへ行ってしまったのだろうか?





「解約できないの?」



「消費者センターに相談したら?」




そういう言葉も、彼女には届かない・・・





かける言葉が無くなり、


やがて、沈黙が訪れる。





「じゃあ。もう会うことはないと思うけど。」




と、あみちゃんが、立ち上がった。




「待って。」




と彼女の手をつかむ。




「関わらないほうがいいよ。


モモカちゃんも、頑張ってね。」




とアタシを振り払い、


テーブルに1000円をほおり投げ、


バイバイと手を振って、行ってしまった・・・





第2話 /第一章「トモダチ」

「モモカちゃん、どうかした?」



とあみちゃんがつぶやく。



「あ・・うん、なんでもない。ごめんね。」




ごまかすしかなかった。


その場で問いただすなんて、


アタシにはできない。




席に着くと、堤さんと仲良さそうにメニューを広げて、



「何食べる~?」



と嬉しそうなあみちゃん。




アタシは、気が動転したままだ。



どうにか、飲み物だけ注文し、



作り笑顔で彼女たちの様子を見ていた。




「久しぶりだよね~モモカちゃん。」




と屈託のない表情で話し始めるあみちゃん。




「お仕事は、まだされてるんですか?」




と堤さんが聞いてくる。



どこまで知ってるんだろう?と身構えると、




「あ・・・ツーちゃんとはお店で知り合ったの。

だから、仕事のこと知ってるんだ。」




とあみちゃんが言った。




「私、ずっと風俗やめたくていたんだけど、

この不況でしょ。仕事も見つからないし、とりあえずソープやってたの。

でもね、ツーちゃんと出会って・・・ね。」




と彼にウインクをしながら、話し続ける。




「ソープもやめようと思えたし、今すごく幸せだし、

ホントよかったって思ってるんだ。」




「そうなんだ・・・」




笑顔を浮かべ、相槌を打つしかない状況・・・




何が何だか分からない。



そもそも、何故、彼氏をここに連れてきたのか・・・



そして、何故、私のサンダルを履いているのか・・・



わざとなのか?



それとも、私のではないのだろうか?




「モモカさんは、他にお仕事とかされてるんですか?」




1人で、悶々と考え込むアタシに、堤さんが質問する。




「え?いや・・・特には。」




「そうですか・・・普通のお仕事とかは、する予定はないんですか?」




その言葉に、すこしムッとする。




「いえ、いずれは戻る予定ですけど。」




「そうですか。」



と言いながら、堤さんは、バッグから、


書類を取り出し、




「お仕事、一緒にしませんか?」




と唐突に、言った。




「へ?」




訳が分からず、あみちゃんのほうを見ると、


うんうん。とうなずいている。




「僕、健康食品の代理店の仕事をしているんです。

彼女にも、この仕事を、手伝ってもらってます。」




「健康食品・・・・?」





堤さんは、満面の笑みで話し続ける。




「今、月にどのくらい稼いでいらっしゃいます?

100万くらい?それ以上?

でも、今のお仕事じゃ、身体にも負担があるでしょうし、

精神的にも辛いですよね。

長く続けられる仕事でもないと思います。

もし、私の紹介するお仕事で、同じくらいの額が稼げるとしたら、

どうですか?」




堤さんは、ボールペンを取り出して、


息つく間もなく、話し続ける。




「仕組みをお話しますね。

ここをご覧になってください。ここが僕らの親会社です。

健康食品の販売を主にしている会社です。

そして、僕がこの会社から、卸値で食品を購入し、

社員である皆さんに、その商品を卸します。

これを、他の方にセールスして頂いて、売るんです。

数多く売れば、それだけの利益が得られます。

商品はものすごくいいものですので、

初期費用は多少かかりますが、すぐにそれ以上の利益が見込めます。」



マシンガンのように話し続ける堤さん・・・


アタシは、その図と、しくみを見てすぐに、


「ネズミ講」だと気がついた。



もしかすると、あみちゃんもこの男に、騙されているのかもしれない。




「初期費用って、どのくらいかかるんですか?」




男は、回りくどい話を繰り返しながら、


なかなか金額を言おうとしない。


もう一度、



「初期費用は?」



と聞き返すと、



「100万ですけど、これはすぐに元が取れます。

この食品は、本当にすぐれているものですから、

皆さん、とても欲しがるんです。

安いくらいですよ。」




と、笑顔のままいった。






「申し訳ないですが、私は借金がすでにたくさんあるので、

その初期費用は用意できません。」





騙されるつもりなど、毛頭なかったが、


アタシは、あみちゃんの手前、そのように答えた。






「ローンもありますよ、でもすぐに、元は取れます!」





もう一度笑顔。





「いえ・・・無理です。」





と言ったアタシに、



堤さんが顔色を曇らせてつぶやいた。





「一生、ソープ嬢でいるつもりですか?」




と・・・







第2話 /第一章「トモダチ」

さすがに、その場で出るわけにはいかず、


アタシは、家に帰るとすぐに電話をかけなおす。



「もしもし。」



少し緊張してかけた電話に、



「もしもし~モモカちゃん!久しぶり~」



前と変わらない、彼女の明るい声。




アタシは、そこで、彼女はやっていない。


と確信した。




「ごめんね~メール返せなくて~

お店めんどくさくなってやめちゃったんだ~

モモカちゃんは頑張ってるんだね~」




同じ戦場で戦っていた友達との会話は


心地がいい。




盗難事件の話はできないまま、



ガールズトークは、2時間経過する。




「ねえ、もしよかったら、明日出勤前にお茶しない?」




明け方になりそうなのを察してか、


あみちゃんが言う。



アタシは、シゴトの前に人に会うと、


出勤しなくなる癖がある。


でも、久しぶりに彼女と会えるなら・・・


と、その誘いを受けた。




盗難事件のこと、話してみようか?


でも、関係ないんだから、話す必要はないか・・・



少しだけ気にしながら、


アタシは次の日、待ち合わせたファミレスへと向かった。




早く出てきたせいか、


彼女はまだ来ていない。


先に席について、メニューを広げた。




ブーブーブー



テーブルに置いた携帯が鳴り出す。




椅子から立ち上がりながら、




「もしもーし」




と電話に出ると、




ちょうど入り口のところで、




「ごめんね~」




とあみちゃんが手を振っている。





その彼女の横には・・・



見知らぬ男性・・・




誰だろう・・・?




彼女は、その男性と一緒にアタシの所まで来て、



「ごめんね~彼氏なの~」



と言った。




「堤です。」



と彼が、手を差し出す。




その差し出された手の意味が分からずに、


戸惑うアタシ。




「もう~ツーちゃんすぐ握手求めるんだから~

やめなよ~モモカちゃんびっくりしてるじゃん~」




あみちゃんが言う。




「あ・・・ごめんなさい。握手ですね。」



と謝ると、



「はじめまして。」



と堤さんは再度、握手を求めてきた。




アタシは、その手を握り、


軽くお辞儀をする。




そして、彼女達の足元に視線を落とした。






え・・・・・?







「ツーちゃん奥入って~」



と、先に席を勧めるあみちゃん。





その間。


アタシは、彼女の足元から、


目が離せなかった・・・・





何で?



どうしてだろう?





その場から動けない・・・




不思議そうに、アタシを見るあみちゃん。






昨日、盗まれたはずの、


アタシのサンダル。




彼女が履いていたのは、


まさにそれだったのだ・・・・