赤信号 | ko+tamago [コタマゴ]

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赤信号


 いつもの高架下、丸いハザードを灯して停まっている彼の車を確認して小走りになる。短く切りすぎた前髪がなんだかとっても気になって、額に撫で付けながらウィンドーごし覗きこむ。

 気づいたアナタは私を一瞥してドアのロックをコツンと開けた。言いかけた挨拶と浮かべた笑顔を飲み込んで、助手席に素早く身体を滑り込ませる。

 「待った」「ん」「ごめんね」「ん」…必要以上に喋らない、どころか、必要以下も喋らない、だから、気持ちも見えない。でもこれが日常。サイドギアを下ろして滑り始める車。流れる景色を眺めていることしか出来ない。

どこにも行けない私たちだから、狭い世界で気持ちが濃縮する。
だから口も利けない。
言葉で空気を薄めると、きっと希釈熱で溶けてしまうから。

信号が赤に変わって、車が停まる。
「残念。ずっと順調だったのにな」

アナタが言った。何故か泣けた。

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Date: 2003/06/21 a.m.3:30