ああ、また親知らずが痛い。この季節、夏へと向かう気圧の変化が大きな時期になると、奥歯が疼く。片手を頬に当てて痛みをやりすごす。気のせいか、熱を持っているような気もする。
ポーチの中のアスピリン、確か切れちゃってるんだっけ。
脳裏で鞄の中を探りながら寝返りを打つ。狭いベットが軋んで、アナタまで振動が伝わったらしい。夢うつつのまま私を抱きしめ直す。…困った…これじゃクスリ、探すことも出来ない。
「ごめん、ちょっと」
「…どした?」
控えめに声をかけるとアナタが気づいた。
鼻にかかった声が甘さを残して耳に届く。
「親知らずが痛いの」
「ああ、歯でも磨けば?」
そっか、歯、磨けばちょっとはマシになるかな。
緩めた腕から逃げ出して、洗面所へと向かう。素足にフローリングの冷たさが心地良い。鏡に映った私の頬は、掌の熱で紅く染まっている。
洗面台には歯ブラシが1本。
そうだ、この家には私のための歯ブラシは無いんじゃない。
ざぁざぁと流した水を掌ですくって口をゆすいだ。
疼きはなおも強くなる。
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Date: 2003/06/26 p.m.25:00