NEJM abstract Xa阻害薬の拮抗薬を開発 | えりっき脳内議事録(えり丸)

えりっき脳内議事録(えり丸)

Diary and memo written by a pathologist.

Andexanet Alfa for the Reversal of Factor Xa Inhibitor Activity.
第Xa因子阻害活性を中和するアンデキサネットα

Siegal DM et al. N Engl J Med. 2015 ;373(25):2413-24.

BACKGROUND Bleeding is a complication of treatment with factor Xa inhibitors, but there are no specific agents for the reversal of the effects of these drugs. Andexanet is designed to reverse the anticoagulant effects of factor Xa inhibitors.

背景: 出血は第Xa因子阻害薬による治療の合併症であるが、これらの薬剤の効果を中和する特異的製剤は存在しない。アンデキサネットは第Xa因子阻害剤の抗凝固活性を中和するようにデザインされている。

METHODS Healthy older volunteers were given 5 mg of apixaban twice daily or 20 mg of rivaroxaban daily. For each factor Xa inhibitor, a two-part randomized placebo-controlled study was conducted to evaluate andexanet administered as a bolus or as a bolus plus a 2-hour infusion. The primary outcome was the mean percent change in anti-factor Xa activity, which is a measure of factor Xa inhibition by the anticoagulant.

方法: 健常で高齢のボランティアにアピキサバン5mgを1日2回または、リバロキサバン20mgを1日1回投与した。それぞれの第Xa因子阻害薬に対して、2部無作為化プラセボ対照化臨床試験を行い、アンデキサネットをボーラス投与またはボーラス投与後2時間持続静注を行い、評価した。主要転帰は抗凝固薬による第Xa因子阻害の指標である抗第Xa因子活性の平均%変化とした。

RESULTS Among the apixaban-treated participants, anti-factor Xa activity was reduced by 94% among those who received an andexanet bolus (24 participants), as compared with 21% among those who received placebo (9 participants) (P<0.001), and unbound apixaban concentration was reduced by 9.3 ng per milliliter versus 1.9 ng per milliliter (P<0.001); thrombin generation was fully restored in 100% versus 11% of the participants (P<0.001) within 2 to 5 minutes. Among the rivaroxaban-treated participants, anti-factor Xa activity was reduced by 92% among those who received an andexanet bolus (27 participants), as compared with 18% among those who received placebo (14 participants) (P<0.001), and unbound rivaroxaban concentration was reduced by 23.4 ng per milliliter versus 4.2 ng per milliliter (P<0.001); thrombin generation was fully restored in 96% versus 7% of the participants (P<0.001). These effects were sustained when andexanet was administered as a bolus plus an infusion. In a subgroup of participants, transient increases in levels of d-dimer and prothrombin fragments 1 and 2 were observed, which resolved within 24 to 72 hours. No serious adverse or thrombotic events were reported.

結果: アピキサバン治療群では、抗第Xa因子活性はアンデキサネットボーラス投与で94%減少したのに対し(n=24)、プラセボ投与で21%減少した(n=9, P値<0.001)。また、非結合型アピキサバン濃度は9.3ng/ml減少したのに対し、1.9ng/mlであった(P値<0.001)。トロンビン合成が2-5分以内に完全に回復した患者の割合は、100%に対し11%であった(P値<0.001)。リバーロキサバン治療群では、抗第Xa因子活性はアンデキサネットボーラス投与群で92%減少し(n=27)、プラセボ投与で18%減少した(n=14, P値<0.001)。非結合型リバーロキサバン濃度は23.4ng/ml減少したのに対し、4.2ng/mlであった(P値<0.001)。トロンビン合成が完全に回復した患者の割合は96%に対し7%であった(P値<0.001)。アンデキサネットをボーラス投与後静注すると、これらの効果が持続した。参加者の亜群では、一時的なdーダイマーとプロトロンビンフラグメント1+2の増加が観察され、24-72時間以内に回復した。重大な有害事象や血栓イベントは報告されなかった。

CONCLUSIONS Andexanet reversed the anticoagulant activity of apixaban and rivaroxaban in older healthy participants within minutes after administration and for the duration of infusion, without evidence of clinical toxic effects. (Funded by Portola Pharmaceuticals and others; ANNEXA-A and ANNEXA-R ClinicalTrials.gov numbers, NCT02207725 and NCT02220725.).

結論: 老年で健康な参加者において、アンデキサネットを投与後数分以内にアピキサバンおよびリバーロキサバンの抗凝固活性は中和され、その効果は静注中は持続した。臨床的な副作用はなかった(Portola Pharmaceuticals他が出資; ANNEXA-A臨床試験: 登録番号NCT02207725, ANNEXA-R臨床試験, 登録番号NCT0220725)。

病理をやり始めて10か月ほどになります。自分は臨床から離れて間もないので臨床に立つ能力はまだ十分あると自負していますが、周囲の老年病理医を見ていると、基本的な臨床知識でさえも欠落していくようです。好意的な推測をすると、知識が欠落するのではなく、臨床知識が全くup dateされない、ということだと思うのですが。専門以外の分野に疎くなるのは致し方ないとは言っても、「ここに書いてある薬品名は全く分からん」などと平気で言ってしまうのは、凄くがっかりします。

我々病理医は全臓器を診ます。「×××といった経過をたどり、○○○という治療をしたのですが、どうも腑に落ちません。病理学的に精査をお願いします。」と臨床から依頼があった場合、臨床経過を理解せずに標本だけでストーリーを組み立てるのはナンセンスです。故に、たとえ病理医であっても、臨床の知識を広く浅くでいいから全科においてup dateする必要があると思います。

そんなわけで、今日はNEJMでも読んでみようかと思い立った次第です。

今日の話題は、抗凝固薬。この系統の薬はひと昔前まではワーファリン一択だったと言っても過言ではないと思います。ワーファリンは効果が発現するまでに約2週刊程度の時間がかかり、かつ、食事の影響を大きく受けるため、採血にて薬の効果をモニタリングする必要があります。モニタリングという煩雑な作業を省略するため、イグザレルトやエリキュースといった薬が開発された経緯があります。現在では、新規の抗凝固薬は市場ではかなり多く処方されています。


抗凝固薬一覧

ただ、これらの新薬には重大な問題が一つありました。ワーファリンに対するビタミンKのような、中和薬が存在しなかったのです。抗凝固薬の特性上、出血という副作用はある程度は避けられず、中和薬が存在しないというのは致命的でした。脳出血のために一時的に薬の作用を中和したい、あるいは、緊急手術のために一時的に薬の作用を中和したい、そういう状況に頻繁に遭遇するからです。今回、効果的な中和薬が開発されたことで、ますますこれらの新規の抗凝固薬が使用されるようになり、ワーファリンは過去の薬となり果てるかもしれませんね。