ケン太「三か月ほど、時間空いちゃったけど…」
諏訪「す、すまん。 これには理由がだな…」
ケン太「いいよいいよ、サクッと始めよ」
神崎「な、なんだかあっさり許すのね」
諏訪「なんか気味が悪いな」
…
諏訪「さて、今回は…」
ケン太「『スサノオを祀ってる神社の多くが、なぜ『木瓜紋』を神紋としているか?』についてだよ」
諏訪「そうだったな」
神崎「なぜなんです?」
諏訪「うん。今回はまず、木瓜紋の起源についての世間一般の説を、先に解説しようか」
ケン太「世間的には、どう解釈されているの?」
諏訪「一般には、
1バラ科の花の木瓜(ボケ)から
2御簾の帽額(もこう)の文様から
3キュウリ(胡瓜)の切り口から
…辺りの三つのどれか…とされているね」
ケン太「ふ~ん。 このどれかなの?」
諏訪「まず、少なくとも1ではない」
ケン太「へ? なんで?」
諏訪「木瓜紋は、奈良時代には既に使われているのに対し、『木瓜(ぼけ)』は生薬として、平安時代に遣唐使で輸入されたものだからね」
ケン太「へ~」
神崎「…では、先生の見解はどうなんですか?」
諏訪「うん、一つ一つ否定するより、一気に否定した方が早いな」
神崎「…と、言いますと?」
諏訪「古代史研究科の福永晋三氏のサイトから、一文を引用させてもらおうか」
……「木瓜は、松かさの開いた方向から見た形じゃないか。」と投げかけて来られた。彼もまた、木瓜紋に執着していた。私が間髪入れずに答えた。
「そうだ。松ぼっくりだ。松ぼっくいともいうし、木瓜の漢音はボックヮだ。古くは呉音でモッケ、すなわちもっこと呼び、次がボックヮでぼっくい→ぼっくりとなり、元の意味が薄れたから、松ぼっくいになったんだ。元々もっこだけで松かさのことだったんだ。」
各種の国語辞典に当たった。もはや、どれも珍説にしか見えなかった。もっともおかしかったのは「松ふぐり」の転化説。詳細は言わぬが花。元来松かさであるとの説はついに見当たらなかった。だが、この元来松かさ説は、何より実物を見つめ、多種多様の木瓜紋と比べるとき、あまりにも直接的・具体的で、論証は蛇足にさえ思われるほどであった。ぜひ、読者も松かさを手にしていただきたい。百聞は一見に如かずの好例である。
ケン太「何とっ!? 木瓜は松ぼっくりを正面から見た文様!!」
神崎「言われてみれば、確かにそう見えなくも…」
諏訪「ちなみに、つい最近ウィキの「ボケ」の項にも、この見解を書き足した奴がいるな」
ケン太「なんで(最近)って判るの?」
諏訪「以前、俺が調べた時には書いてなかったからだ」
ケン太「ふ~ん……でもさ、その松ぼっくりの紋とスサノオと、何の関係があるの?」
諏訪「ついでだから、よっかかってしまおうか。 福永氏曰く…」
古代製鉄では、砂鉄と松(現代のコークスに当たる)が原料であった。山でも海岸でも松林の近くに製鉄所があったといっても過言ではなかろう。「松」の紋章は古代製鉄に係わりの深い氏族が考えられる
神崎「製鉄に、松が使われるんですね!」
諏訪「うん、江戸期に書かれた『鉄山秘書』にも、たたらの炉で鉄を製錬するのに用いる大炭や、鍛治に使う小炭には共に松を使うのが良いと書かれてるな」
ケン太「え~っと、…先生?」
諏訪「なんだね」
ケン太「だから、スサノオとの関係は?」
神崎「あら? まだ判らないの?」
諏訪「スサノオが治めた古代出雲は、鉄の一大生産地だったんだよ」
ケン太「そうだったんだ!?」
神崎「鉄の生産地を治めたスサノオを祀る神社が、製鉄に必要な松を意味する『木瓜』を神紋とする…」
ケン太「辻褄が合うね」
神崎「では、これで解決ですね」
諏訪「おいおい、今回これで解決したら、福永氏の説に寄り掛かっただけではないか」
ケン太「違うの?」
諏訪「仮にも歴史探偵を名乗る、この諏訪欧一郎を甘く見ないでほしいな」
神崎「仕事は遅いですけどね」
諏訪「やかましい。 …確かに福永氏の【『木瓜=松ぼっくり』の文様】という見解は、俺も正しいと考えている」
ケン太「では、何が問題なの?」
諏訪「松ぼっくりの(ぼっくり)が、(もっこう)になったという点だけは、違うと思う」
神崎「では、先生の御見解をお願いします」
諏訪「うん。 では、まず2人はこの字が読めるかな?」
枩
神崎「えっと……」
ケン太「…わかんね」
諏訪「実は、これは『松』の旧字で、やはり(まつ)なんだが、おそらくこの『枩』自体が松ぼっくりを象った字だと考えられる」
ケン太「よく見てみると、両方とも、『木』と『公』を使った字だね」
諏訪「そう、そしてこの二字を、木瓜と並べてみると…」
木 木
公 瓜
神崎「あら?」
ケン太「どったの?」
神崎「なんと言うか…【公】と【瓜】の字の作りが似て…」
諏訪「その通り!」
ケン太「おー、なるほど」
諏訪「俺は、当初【公】と書かれていたものが、時代を経てどっかのタイミングで【瓜】と間違われ、誤って後世に伝わったもの…と考えているんだ」
ケン太「それで「木公(松)」が「木瓜」になったって事?」
諏訪「そうだな、厳密には縦書きだから枩が…という事になるが」
神崎「字は判りました。 …では、(もっこう)の読みはどっから来たんですか?」
諏訪「ハハハ…、【木】に【公】を音読みしたら、何と読む?」
木
公
ケン太「もく……こう… …っ!? 【もっこう】!!!!」
諏訪「そういう事。 たぶん、この推理は間違ってないはずだ」
神崎「えっ、これ大発見じゃないんですか! スゴイスゴイ!!」
諏訪「歴史探偵を見直したかな?」
2人「はいっ!」
諏訪「では神崎君、織田老犬斎さんに連絡してくれ」
神崎「はい!」
………
諏訪「それにしても、3ヶ月ぶりの更新で、ケン太君に嫌味を言われなかったのは意外だったな」
ケン太「僕だって、嫌味を言いたくて言ってる訳じゃないよ」
神崎「怪しいわね、何か隠し事でもあるんじゃない?」
ケン太「隠し事じゃないけど……一つ、お願いが…」
諏訪「………要件を聞こう」
ケン太「…おいで」
子猫「ニャー」
神崎「まぁ、可愛い! あら、メスね」
ケン太「うちでは飼えないんで…」
神崎「ここで飼いましょう先生! この子可愛い!」
諏訪「……ちゃんと面倒見るんだぞ」
神崎「っ! はい、先生!! ところでケン太君、この子の名前は?」
ケン太「犬千代だよ!」
諏訪「ネコやがな!」
神崎「メスやがな!」
犬千代「ニャー」
~終~