「家督相続にこだわって争族に発展」 | 『闘う税理士の笑顔経営・笑顔相続・笑顔承継ブログ』

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『楽・優・厳』
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・仕事と自分には厳しく!

今回は2020年12月に発売された書籍
「これだけはやっちゃダメ! 相続対策の「御法度」事例集」
事例集#30で執筆いただいた弁護士・木野 綾子先生をお迎えして、
実際にあった相続事例をご紹介していきます。

 


テーマは

「家督相続にこだわって争族に発展」
いったいどんな内容だったのでしょうか?



■今なお残っている「家督相続」




今回亡くなったのは家督相続の時代に生まれ育った90代の高齢な母親。
家督相続とは、明治時代から昭和の初めごろまで施行されていた相続の方法で
相続人は長男ひとりのみ、そして全ての遺産を相続するのが原則とされていたものです。

今回の問題はその母親が、誰に相談することもなく
家族に内緒で自筆証書遺言を書いてしまっていたというケースです。

相談者は長女。父親は数年前に亡くなっていて、
相続人は長女とその兄である長男の2人です。
2人とも、母親が遺言書を残していることは知ってはいるものの、
その内容については知らずにいました。



ではその遺言には、どのような内容が記されていたのでしょうか?
主に記されていたのは以下の2点です。



①相談者の住んでいる家を兄に相続させる
②両親を介護した相談者に対しては、わずかな財産のみ

相談者である長女は、母親と二世帯住宅に住んでいました。
今現在も継続してその家に住み続けています。
また、高齢で独り身の母親を介護していたのも長女です。
長男は、近所ではあるものの別の場所に住んでいた上に、
介護等の手伝いは全くしていませんでした。

しかし、遺言書に記されていたのは
長女が住んでいる家を長男に相続させ、さらに献身的に両親の介護を
していたにも関わらず、長女にはわずかな財産を残すのみでした。
この条件では、長女の立場に立ったときに納得できないですよね。
どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか?



■相続観と認識のズレが招いた結果





ここで確認しておきたいのが、母の相続観です。

高齢であればあるほど、この家督相続の考え方は
今も根強く残っているのが現状です。
実際にこの相談者の母親も、

・「長男は一家の跡取り」だから、不動産は全て承継するべき

と考えていたと推察できます。
それに、もしも長女が住んでいる家を長男に渡したとしても

・子どもたちは仲が良いので、長男が長女を
 困らせるようなことはしないだろう

といった考えだったことが後から分かったのです。
母親世代は、家族や周りの親戚・地域住民で仲良く暮らしていたという記憶が
残っていたり、昔ながらの「家督を継ぐ長男が一族を守る」という思いから
今なおこのような遺言を残すケースが多々あります。


それでは、この遺言書を確認した子どもたちは
どのような対応を取ったのでしょうか?
まず、双方の認識から確認してみましょう。



長男は
・幼い頃から「跡取り」と言い聞かされてきたので、
 自分が全財産をもらって当然

長女は
・確かに両親は兄を跡取りだと言っていたが、今もう時代は変わった
・両親の介護をしたのは自分で、法定相続分以下はないだろう

以上のような認識のズレがありました。
みなさんも長女の立場になって考えてみてください。
この状態では長男の言い分に納得できないのも当然ですよね。
同居し生活の面倒を見ていた上に、介護まで1人でしていたのでは
法定相続分はもらえて当然、と思うのもしかたないのではないでしょうか。

しかし、実際に遺言書に記載されていたのはその真逆。
さらに「兄妹仲良く」、という母親の願いもむなしく
元々長男と長女の折り合いはよくなかったために、
相談者である長女の要望は聞き入れられることがありませんでした。

その結果、なんと争族に発展。
長男は不動産を明け渡すように訴訟を起こし、
長女は相続遺留分の侵害を訴える事態に。
お互いに弁護士を立て、亡くなった母親から見て孫である
長女の娘の世帯まで巻き込む大騒動に発展してしまったのです。



■なくすべき「認識ギャップ」



このような争族にならないために、注意すべきなのは親子間の認識ギャップです。
例えば、

・「暗黙の了解」があるというのは幻想
・世の中が変わっても、親の価値観は変わりにくい
・「こうなると困る」ことを親は分かっていない
・多くの親は「子供たちは皆仲良し」だと思っている

このどれもが、「伝える」ことを怠っていたケースで
発生しがちな認識ギャップです。
こうならないように、今回のケースであれば




・生前母親に「自分の住む家が兄の物になるのは困る」と
 はっきり伝える
・母親の相続に対する考え方をきちんと確認しておく
・遺言書作成時に、専門家に相談に行かせる

このポイントをしっかり踏んでおくことで、今回の争族は防げた可能性が
高かったのではないのでしょうか。
今回のケースでは、認識の違いや価値観の違い、
そして思い込みがこの事態を引き起こしたと考えられます。




■「伝えること」で争族回避!

このような「争族」に発展させないためにも、
大切なことはきちんと話をして「伝えること」。
どんなに気心知れた家族であっても、他人は他人。
きちんと言葉にすることで、初めて見えてくることがたくさんあるはずです。

相続は考え方・生き方・在り方を、命の証である財産とともに受け渡していくこと。
争族は一番の親不孝です。
このような悲しいケースにならないよう、生前のうちから
相続について話し合い、想いを伝えあうことを大切にしたいものです。