大島真寿美『ピエタ』(ポプラ文庫)

何年か前、たぶん単行本が出たタイミングでの書評を見たんだと思いますが、そのときから気になっていた作品です。未読の作家さんの初挑戦が単行本、っていうのはさすがにハードルが高いので、文庫化!祝!ありがとうございます^^

18世紀ヴェネツィア。舞台となるピエタ慈善院では、親が育てられずに捨てる赤ん坊を受け入れています。語り手であるエミーリア自身もピエタ育ち。今や中年にさしかかり、ピエタの事務方として信頼されているエミーリアが、ピエタの音楽、とりわけ少女だったエミーリアたちに合奏のよろこびを教えてくれた恩師ヴィヴァルディの生涯について語り、探り、たどりつく物語です。

先生としての顔。自分たちには見せなかった、べつの顔。見つからない楽譜。

文体がエミーリアの人柄を反映していて、だいぶ丁寧。たとえばいっしょにピエタで音楽を教わった理事の孫娘、とても裕福なヴェロニカに対して、エミーリアは幼なじみではあっても敬語を崩しませんし、地の文も礼儀正しく、おだやかに進んでいきます。物語の内容と文体、両方があいまってとても心地がよい作品だと思います(敬語と助詞が文法的に疑わしい部分は、確かにあるけれども)。

クライマックスで歌われる旋律、祈りに満ちて痛いくらい澄んだ響きに、目の前には紙と文字しかないんだけど音楽が琴線をそよがす風のように吹き抜けて、疲れや淀みが浄化されるのを感じました。こういうことがあるから物語はふしぎよねー


([お]4-3)ピエタ (ポプラ文庫 日本文学)/大島 真寿美

¥734
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いま真央ちゃんのドキュメンタリー見ていたら挿入歌としてリベラのあの神々しいソプラノが聞こえてきて泣きました。


(3年くらい前まで真央ちゃんの演技にそれほど魅力を感じていなかったのですがここ数年は目を奪われる踊りっぷり、さらにソチオリンピックのフリーあれは翌日仕事にもかかわらず真夜中テレビで見て滂沱たる涙、彼女は本当に努力の人ですね。向上心のカタマリのような人。おみごとです)


音楽はもちろん音楽としてすごい力をもっているけれども、文脈が加わるとなお感情をゆさぶりますね。


交響曲ヒロシマの作曲者問題について、なんだか全然さわがれなくなったけど(余談ですが私がいちばん引いたのはゴーストライター側の誰かが「高橋選手がこの件に心を乱されることなく試合に臨めるよう願っています」みたいなことをいけしゃあしゃあと発言していたこと。オリンピック直前の時期にかき回しておいて何を今さら、ととても不思議に思いました。もっとずっと前から存在した“問題”をこの時期に公開するって悪意しか感じられないわ)、曲自体の魅力……とくに終盤の暗闇に光がさしてくる救いのようなあの旋律、だけじゃなく私は無意識のうちにそこに「現代のベートーヴェンが苦難を乗り越えて生み出した楽曲」という文脈を付け加えて感動を上乗せしていたのかなあ。わからないけど。


ともあれ。今週あった嫌なこと、いらだち、ちっちゃい自分、などなどを圧倒的な力で押し流して浄化してくれる音楽のありがたい効能に今夜もまたお世話になります。一つひとつは音の粒なのに不思議ねえ。


キコさんの新しいメリーゴーランドを興味深く聴いています。でもCDは音質がいい代わり、ライブのときより伸びとか臨場感に限界があってやっぱり生で聴きたくなってしまいます。