子宮移植で妊娠に成功! | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

「子宮移植で妊娠に成功」というタイトルの論文が発表されました。
下記の記事でご紹介したトルコのアクデニズ大学病院からの論文です。
2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」
2013.4.13「ヒト子宮移植に成功した女性が妊娠」
去年の春のことでしたので、いよいよ出産かと思ったのですが、違いました。

Fertil Steril 2013; 100: 1358(トルコ)(2013.4.27投稿、2013.6.14受理)
要約:アクデニズ大学病院では、ロキタンスキー症候群の女性で、自らの空腸を用いた造膣術(膣形成術)を行った女性を、子宮移植のレシピエントとして登録しています。交通事故で脳死となったドナー(22歳)の子宮を、HLAのタイプが一致したレシピエント(当時21歳、現在23歳)に移植しました(詳細は、2013.3.7「☆ヒト子宮移植の成功」を参照してください)。術後1年は移植した子宮の拒絶反応がないか確認期間とし、その後、採卵、受精、胚移植を行いました。なお、生理周期も順調で性交も通常通り可能です。
採卵① Antagonist法、採卵数10個、MII卵6個、day 3G1胚3個凍結
採卵② Long法、採卵数12個、MII卵9個、day 3G1胚5個凍結
血栓症による拒絶反応のリスクを評価するために、血栓傾向の有無の検査を子宮移植前に行ったところ、高ホモシステイン血症(MTHFR変異C677T)が認められました。したがって、胚移植の際には、子宮の拒絶反応を防ぐ免疫抑制剤(プレドニゾロン10mg、アザチオプリン50mg、タクロリムス3mg)の他に、低分子へパリン(4000単位)を用いました。
胚移植① hCG 35.7→化学流産
胚移植② 胎芽確認(2.8mm)→流産→流産胎児染色体検査正常(46,XX)

解説:ロキタンスキー症候群の女性は、生まれつき膣と(機能する)子宮がありませんが、卵巣は正常に機能しています。これまでは、「サロゲート(代理母)」しか妊娠する方法はありませんでした。また、子宮癌、子宮筋腫、子宮腺筋症、産後の子宮出血などにより子宮摘出をせざるを得ない方や、子宮無形成や子宮低形成(生まれつき機能しない子宮)の方も同様に、「サロゲート(代理母)」しか手段がありません。しかし、日本を含め多くの国では、「サロゲート(代理母)」を禁止しています(20131.22「世界のドナー卵子&代理母事情」を参照してください)。本論文のようなヒト脳死子宮移植が行われると、「サロゲート(代理母)」問題の多くは解決されるでしょう。動物では、子宮移植による自然妊娠•出産がラットと羊で報告されていますが、その他の動物(猿、豚など)では自然妊娠は認められていません。卵管閉鎖や腹腔内癒着が生じるためと考えられています。

流産胎児染色体検査が46,XXであったことについては、母体細胞の混入も否定できません。今回の妊娠は残念な結果になってしまいましたが、妊娠を継続し出産して初めて子宮移植が現実のものとなるわけですから、これからも注目していたいと思います。