☆ASRM:PGS特集 その2 部分的異常の取り扱い | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ASRM(米国生殖医学会)から発表されたPGS(着床前スクリーニング)特集の第2弾は、部分的異常(partial gain、partial loss)の取り扱いについてです。

 

Fertil Steril 2017; 107: 27(米国)

要約:CGH法からNGS法に変わったことによって、細かい異常が見つかるようになりました。それが、部分的な異常(partial gain、partial loss)です。部分的異常はNGS法では5〜17%に、MDA-WGA法では15〜58%に見られると報告されています。PGS検査会社は、独自の基準を設けて(たとえば異常部分のサイズ)結果報告の備考欄に記載しています。しかし、部分的異常とされたものの中にはアーチファクト(検査などにおける偽の所見)が含まれている可能性があります(偽陽性)。また、PGSでは採取した複数の細胞のDNAを全部混ぜた状態で検査するため、モノソミーとトリソミーが同数含まれている場合やダイソミー(卵子あるいは精子由来の染色体が2本ある場合)の場合は正常と判断されます(偽陰性)。このような偽陽性と偽陰性を判断するのは現状では困難です。部分的異常の真の意義については、PGSデータとその後の妊娠転機を照合して初めて明らかになります。

 

解説:2017.1.24「ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」と今回の「部分的異常」からも明らかなように、PGSは現在発展途上の検査です。モザイク胚も部分的異常胚も多くの健常な赤ちゃんが誕生していますので、全て排除するのは勿体ないことですが、検査精度が向上し細かい異常が見つかるようになって、かえって胚の選択に困惑する事態が生じていることも否定できません。しかし、NGS法より精度に劣るCGH法では、正常と判断された胚に異常胚が含まれていたため、これまで満足のいく妊娠率が得られなかったのではないかと考えられています。PGSのさらなる精度向上と、部分的異常の場合、どの部分は大丈夫でどの部分は大丈夫ではないかなど細かい検討が待たれます。現状では、部分的異常のコメントが少ない胚から優先的に移植するのが良いと考えます。