小樽に到着するまでも。
ほぼほぼ無言だった。
背の高い彼が少し早歩きをするとついていくのに小走りでいかなくてはならない。
そんな光景が何度も繰り返された。
小樽は前日にかなり雪が降ったようで道悪だった。
一件目の工房に到着したのは午後1時過ぎだった。
小樽のガラス工芸は津軽とはまた違って暖かい色合いのものが多い。
初音はスタンダードなグラスを手に取る。
「手に。なじみますね、」
スタッフにそう言うと
「ええ。温かみがあるのが小樽ガラスのいいところですから、」
嬉しそうにそう答えた。
「よかったら。どうぞ、」
そのグラスでお茶を淹れてきてくれた。
「ありがとうございます、」
真緒がそっと口につける。
「・・口当たりも。とてもいいですね。お茶が柔らかく感じます、」
「そうでしょう。 それで。前に頂いた資料を見させていただいたのですが。数量的にちょっと厳しいかもしれません。なにしろ手作りなので。今、仙台のホテルに同じグラスを卸させていただいているものでそれで手一杯な部分もあります、」
「はい。お電話でその件はお伺いしております。確かに・・こういうグラスはそろえるのが一般なのでしょうが。コーヒーのカップなんかもウチはそろえずに一点物でやっていきたいので。もし数量が厳しいと言うのであればできる範囲で、とも考えております。とにかく。いいものをそろえたいので。ブランドはなくとも使っていて心地よいものをということをコンセプトにしています。他のカトラリーもそこに拘って揃えておりますので。」
初音はカフェの完成図の3Dイラストを担当者に見せた。
そして四季の木々が美しい庭の写真も。
「すばらしい・・ですね。この庭だけでもここに来る価値がありそうな。店内もシックで、」
「きっと。素晴らしいカフェレストランになると思っています。オープンになったらご招待させてください、」
彼の横顔の笑顔がとても優しい。
そんな風に思っていたなんて残念です
昨日のあの彼の表情とは全く違う。
彼という人のことを思う時、ここまでどれだけ苦労の連続だったのかと想像する。
でも
大変だった
なんて絶対に言わない人だ。
私にもその顔はきっと見せてくれない。
2件目の工房を回って外に出るとまた雪が降ってきていた。
また初音が先に歩き始めたので真緒は少し慌てて後をついていった。
夕べのうちに降った雪が一度凍った上にまた新雪が積もっている。
その時。
「きゃっ!!1」
小走りに行こうとした真緒が滑って転倒してしまった。
初音は慌てて振り返った。
お互いに相手を怒らせてしまったと思い込む二人。そして真緒が・・
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