さよならモウチャン | 新生館 男女数人四季物語

新生館 男女数人四季物語

名古屋市守山区の
有料老人ホーム『新生館』のブログです♪


 私は一昨年まで三重県の志摩市の志摩新生館に5年間赴任してまして~

週に一度は愛知県に戻って、また行くという生活で、おおむね入居者の方々と一緒に生活をしていたのです。その楽しさかストレスのせいか、20キロも太ってしまいました。会う人会う人に大きくなったねえ~と子どものようにいわれ続けています。

 志摩新生館は海が近く、山に囲まれていて、駅も近く、ほどほどに便利で、程ほどに不便な場所なのですが、高齢者の皆さんは、子どもの頃にかえったように自然相手に楽しんでおられます。

新生館個性派代表の社長が、何故この地にもう一つの新生館を開設したのか誰にもわからないのですが、社長いわく、空気が美味しいし、夏は涼しく、冬は暖かいから、ここに決めたといっています。

 良かれ悪しかれ、そこを気にいってくださった都会の方や地元の方で今もにぎやかに暮らしています。

ただ、都会の元気な方々は、80歳を越えても、冒険心旺盛で、海辺の散歩や山の中の散歩がとても楽しいらしく、魚やカニ、虫、木の実や野菜なんかを採ったり、もらったり、地元の方との交流もさかんです。

 たまに、落し物を一緒に探しにいくと崖の途中にあったりすると、いったいどうしてこんな危険な場所におちるのか?問いただすことも時々あるのです。そんな時は、竹の子を掘っていて、夢中になって落ちたとか、いろいろ言われます。とにかく危険なことはやめて下さいねとつい口うるさくなってしまうのです。みなさん分別のある大人のような顔して心は完全にいたずらっ子モードなんです。

 夏になるとそこら辺をごぞごぞカニが歩きます。そのカニを何とか捕まえて、やめて下さいといっても聞いてくれず、部屋に持ち込んで飼っていて、結局自分がうるさくて寝られないから、逃がすなんて事もありました。そんな方々は怪我や体調不良も、すぐに言ってくれません。とりあえず自分で内緒で治そうとされるので、こちらにみつかった時は、大変です。何故、もっと早く言わないんですか?とお説教です。しかし、やましいことだらけなので、何とか見つからずにすませようと、日々職員と変なやりとりを繰り広げておられるのです。

 そんな凸凹な志摩新生館に、更に彩りをくわえてくれたのが、5匹の子猫たちです。なぜか私の行く場所には猫がやってきます。

 2年前の夏の早朝、子猫の不安なみゃ―みゃ―いう声が聞こえてきたのです。私は自分の冷蔵庫からコンデンスミルク(たまたまあった)を持ち出して、声のする場所にいきました。駐車場の車の下です。白地に斑点のちび猫がいました。おびえていたので、ミルクを路面に出して遠ざかるとぺろぺろなめに出てきて、それがピーちゃんとの最初の出会いでした。

 仕事の時間を迎えて、入居者やスタッフにも伝え、みんなで見ていると、もう一匹出てくるではないですか。その2匹はそっくりなので、ザ・ピーナッツということで、ピーとナッツになりました。どちらもオスのようです。次の日シマシマのシマちゃんが現れ、また次の日、白黒のモウチャンが、そして最後に般若の面のようなハンニャが出てきて、合計5匹のちび猫たちです。

 散歩好きな人たちが、何日か前から、山から声が聞こえていたとか、山の中の猫を飼っている家の子だとかいってましたが、例のごとく餌は私持ちで、カリカリと缶詰を食べ始めました。5匹は若干大きさも違い、モウチャンが一番お兄さんのようでした。すべてオス猫です。何で集団で捨てられたのか分かりませんが、猫好きな私は、勝手に使ってないお風呂場を猫部屋にして、大切に育てていたのです。モウたちも心得たもんで、介護猫として少々荒っぽくなでられてもおとなしくしてくれていました。あまり猫好きでない方も、毎日甘えて、一緒に山の散歩についてくるので、いつしか大好きになって、アイドル的な存在になりました。認知症の方も動物はわかるので、触ったり、見ているだけで落ち着いておられます。

 しかし、志摩の自然は外猫には大変なようで。あるときハンニャの背中からお尻の皮がベロッとむけてなくなってしまったり、なにか強力なボンドみたいなものからはがれて逃げてきたようでした。海辺を夜車が走るのでその道でピーちゃんがひかれたりして、結局2年の間に、モウチャン意外の猫がいなくなってしまいました。モウチャンも立派なオス猫なのでケンカが多いようで、怪我をしてくることも多くなりました。

 私も月に一度は志摩にいくのですが、以前のようにべったりできなくなり、でも相変わらず餌ももらいみんなに可愛がられていたのですが、先月行ったときに、体調が悪くなって箱の中に寝ていたモウチャンが、私を見るなり起き上がろうとして、でも起き上がれず手を差し伸べて話しかけていたら、15分くらいで亡くなってしまったのです。怪我して体調が悪いことは聞いていたのですが、こんなに悪いとは知らず、カールとリンゴに家を買ったときに、もう一つモウチャンの家も買っていたのを持っていったときでした。

 みんなも驚いて、涙を流すお年寄りもいました。私もショックで、モウチャンたちの生きていく環境の厳しさを改めて思い知りました。海や山や、いろんな動物のいる中で、同格に小柄な猫たちが生きるのがどれほど大変なことなのかと。でも、自然が大好きで、危なくてもそこへ行きたいモウチャンたちを、私たちは止められませんでした。楽しさもあるけど、危険も沢山あることを、入居のみなさんにもモウチャンの死を見て勉強してもらいました。モウチャンはもういませんんが、毎日みんなを見守れる、目の前の花壇の椿の根元に埋葬しました。みんなも、お墓参りをしてくれています。

 モウチャンは短い猫生だったけど、一生懸命生きていたのを私たちはみんな知っているし、忘れません。これからも志摩新生館のみなさんを見守っていておくれ~たのむよ~モウチャン!!。