カナダ靴Dack's代表モデル 新旧比較 | shoesaddictのブログ

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米国古靴に関するブログです

古靴関連でここのところ注目されている話題と言えば、個人的にはなおけんたさんが紹介されていたグリセリン保湿と、Dack's、Hartt、Machaleなどのカナダ靴でしょうか。

今回は、後者のカナダ靴、その中でもDack'sについて記したいと思います。

先ずは下写真をご覧下さい。
アンテロープの皮革を用いたホールカットの色違いです。



Dack'sはカナダ靴の中では出物が多い方とはいえ、米国靴のメジャーどころに比して極端に珠数が少なく、同じモデルに何度も出会う可能性は高くありません。
そうしたなか、例外的に頻繁に目にするのがこのモデルではないでしょうか。
同社の代表モデルと言っても差支えないのかもしれません。



さて、この2ペアはアッパーの色を除いて全く同じ仕様に見えるかもしれませんが、そのクオリティには少なからぬ差が見て取れます。



向かって左が黒のペアのインソールロゴ、右が茶のペアのものです。
前者には「Finest Quality」と記されており、後者には「Bespoke Quality」と銘打たれています。
そして、茶のペアについては、「ANS 150 YEAR = 150周年」の記載があります。
創業150周年にあたる1984年生産という見方も出来るかもしれませんが、このタイプのロゴは発見されるDack'sのペアにおいて相当な比率を占めるため、150周年以降しばらく採用されていたのかもしれません。

ところで、前述の「Finest Quality」と「Bespoke Quality」とは何なのでしょうか。
根拠等は後述しますが、品質は茶のペアの方が上ですので、両者はグレード名で「Bespoke Quality」が上位であるとの見方も出来ます。
ただ、グレードを跨ぐほどのクオリティ差はないように感じますので、両者は同等レベルではあるもののグレード名が変更になっただけとも考えられます。
前者の「Finest Quality」のロゴのペアの方が年代が新しく、その分クオリティが下がっただけなのかもしれませんね。

因みに、150周年ロゴの中央に記載されている「CHAUSSURES」とはフランス語で「履物」といった意味のようです。

それでは両者のディテールを眺めつつクオリティ差について検証していきましょう。



先ずは、ライニングの踵部分。
ブラックのペアがスウェードの切り替えしになっているのに対し、ブラウンのペアはライニング全体がスムースレザー仕様になっています。
ブラックのペアの使用は若干高級感が欠ける印象です。



ライニングの革質についても、ブラックのペアは後年のFlorsheim Imperialのような硬質で加工感のある皮革が用いられているのに対し、ブラウンのペアのほうはしっとりとした手触りです。

革質以外の大きな相違点はサイズ/ウィズ表記です。
ブラックのペアは、米国靴に一般的な「数字+アルファベット」表記が用いられています。
対してブラウンのペアは、カナダ靴に良く見られる数字のみの表記方法が採用されており、三桁の数字の頭一桁がウィズ、後二桁がサイズを表しています。
このペアの表記は「495」ですが、米国表記に直すと「9 1/2 D」です。

余談になりますが、ブラウンのペアを購入した際、出品者は印字上段右側の「7」をサイズ表記だと誤認しており、オークションのタイトルにもその旨を記載していました。
このモデルを探し続けていた私はデッドを発見したことに舞い上がり、慌ててサイズ感の確認メッセージを送りました。
7.5Dがジャストの私は、サイズ7にしては若干大きいという答えを受けて即決。
しかし、落札後に写真をよくよく見ると「495」の文字が。
私の足には確実に大きすぎることが発覚したのでした。
その後ブラックのペアを入手したため、比較記事を書こうと手許に置いていたのですが、お役御免で放出することになりそうです。



インソックに関しては、年代が新しいと思われるブラックのペアはWright等のオーソペディック系のメーカーの靴に見られるようなアーチサポートが採用されています。
なかなか履き心地は良いですが、ブラウンのペアのような一般的なインソックに中底に打たれた釘というディテールも古靴好きの心をくすぐります。



非常に些末ですが、カンヌキ留め下のステッチが僅かに異なっています。
ブラックのペアはギリギリを塗っているのに対し、プラウンのそれは若干ステッチが下に伸びています。
仕様に変更があったというよりは、職人さんの匙加減なのかもしれません。
個人的には後者のルックスが好みですが、靴好き以外の方からしたらどうでも良い違いですね。



踵部分は基本的に同じ仕様ですが、茶のペアが完全に一枚革でアッパーが構成されているのに対し、ブラックのペアは履き口部分が小さな部品で補強されています。
一枚革で作るというこだわりを崩してまで採用されたディテールですので、補強無しでは耐久性に問題があり後世になって改良が加えられたものと推測されますね。



どちらもBILTAITEの釘穴ありの合成ヒールが採用されています。
アウトソールですがは、ブラウンのペアはFloesheimのKenmoorのように釘打ち仕様になっています。


続いてアウトソールの刻印について比較してみましょう。
ブラックのペアには、カナダらしいメイプルリーフを中心に据え、上段に「CUSTOM GRADE」、下段には「NEW BRANSWIC CANADA」と記されています。
ブラウンのペアは、上に「EXTRA GRADE」、下には「MADE IN CANADA」とあります。
こちらもインソック同様に、それぞれ記載されていつグレード名(?)が違いますが、前述のようにその違いに大きな意味はないのかもしれません。

以上、靴好き以外には重箱の隅をつつくような比較でしたが、メーカーの様々な思惑が透けて見えるようで、年代による品質比較は興味深いですね。
球数の多いFlorsheimではその機会も多いですが、それ以外の製靴業者のペアは同モデルの年代違いを入手するのは比較的難しいかと思いますので、この記事が何らかの形で皆様のお役に立てばと思っています。