注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
あなたと始める物語は。37
〜 Leak out ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作
それから数日後、私のここでの最初のお休み前日。
夕飯時に珍しく全員が集まった時のことだった。
誰から聞いたのか、京介くんが尋ねる。
「愛優香、明日はお休みだって?」
「うん。 ポトフと他に幾つか料理を作ってあるから、適当に食べ―――」
「みんなで遊びに行こ」
「―――へ?」
ニコニコ顔の彼の突拍子もない提案に一瞬思考が停止する。
が。
一緒に遊ぶとは言っても、アクティビティはいろいろあれど水着を持ってきてないからバナナボートなどの水濡れ系はNGだ。
となると、島内の食べ比べとか景勝地巡りとかになるけれど。
そんなのでいいのかしら。
「明日の午後、ちょうどパラセーリング空いてるんだってさ」
「それって海の上を飛ぶやつでしょ? 水着必要なんじゃないの? 私、持ってきてないわよ」
すると、亮太くんが前のめりになって言う。
「持ってきてないならボクが買ってあげる! とびっきりなやつね! あーちゃんは絶対にそれ着て!」
「―――ぶっ…ゴホゴホッ…。
と、ととととびっきりなヤツって!」
亮太くんの言葉に翔くんが噴飯したけれど、どんなデザインを想像したのだろう。
青年男子がグラドルレベルのものを想像しても不思議ではないけど、勝手に想像して実物を見て勝手にショックを受けて勝手に憐れむのは止めてほしいなぁ。
まぁ、女として生まれたからには着られるものなら着てみたい気はするけど。
……着られるものなら、ですけど。
「翔ちゃんのえっちー」
「はぁっ?! お、お前がとびっきりなのなんて言うから…!」
「翔、どんな水着を想像したんだよ」
「ど、どどどんなのって…!」
「あはは、落ち着けって」
「―――はい、そこまで。
確か、水着もしくは濡れてもいい服ってあったから、水着じゃなくてもいいハズだぞ?」
翔くんをからかい始めた二人を止めるべく口を挟んだ一磨くんの言葉で、亮太くんが私をもからかっていたことに気付く。
「え、そうなの?
…亮太くーん????」
「なんでバラすんだよー。
でもさー、どうせなら買っちゃってもよくない? そしたらここのプールでも泳げるんだし」
「万が一にも海に落ちた時のことを考えたら水着の方がいいと思う。
それに、参加できるアクティビティも増えるし買っといた方が」
おや、普段は興味なさそうな義人くんまで私の水着購入に賛成とは。
でも言われてみればそうなのか…な?
この数日の間に、何となく1日のスケジュールが掴めてきた。
彼らの食事の用意と衣類の洗濯をする以外、ハッキリ言ってすることがない。
共有部分の掃除にしてもロボット掃除機を走らせてるし、バスルームの掃除だって大したことない。
仕事の手伝いはもちろん出来ない。
とどのつまり、上手く時間を使えば自由時間がかなりあるのだ。
とはいえ、誰かが作詞の仕事をしてる時にここのプールで遊ぶのは気が引ける。
それで昨日は島内循環バスに乗って近くまで行って来たのだけれど。
「あーちゃーん、やろー。 人助けと思ってさー」
「人助け?」
「そそ。 作詞、なーんも浮かばなくってー」
「それ、マズいんじゃ」
「だからこそのアクティビティじゃん! 空から景色を見たら何か思いつくかもしれないし!」
「亮太、必死だな…」
「ま、分からないでもないけどね。
実はオレもまだなーんにも思い浮かばないんだよねー。 亮太くんと同じくね」
「堂々と言うことかよ」
「ああ、それで。
でもそれまで何にも浮かばなかったのに、気分転換とかでいきなりフレーズが閃くこともあるよな」
彼らの言葉を聞きながらそういうものなのかと思い、京介くんの提案を了承することにした。
「分かった。 そこまで言うなら」
「やった!」
「じゃあ、予約入れるね」
チーフさんも閃きのためならアクティビティをいくらでも使って構わないとも言ってたしね。
作詞について私が口を挟めるはずもなく、一緒に行動することが本当に彼らの助けになるのかは神のみぞ知るだけれど。
そんなこんなで翌日の午前中はホテル近くのマリンショップで水着と酔い止めの薬を調達し、私とWaveのみんなでパラセーリングの船がでるマリーナへと向かった。
ちなみに、亮太くんは水着を買ってくれると言っていたが、彼が選んだやつは固辞した。
…アラサー女子にアレはキツい。
てか、亮太くんはああいうのが好みなんだろうか。
なーんかわざとらしい勧め方をしてたけれどさ。
結局はボタニカルアートのフィットネス水着とビタミンカラーのラッシュガードを自分で購入。
亮太くんは色気がないと不満タラタラだったけれどアイドルでもセクシー俳優でもないんだから別に色気は要らんでしょ。
そうして迎えに来てくれたバスに乗って十数分、目的地に到着する。
今回参加するパラセーリングは1回の出港で受け付けるのは3組までらしく、客は私たちしか居なかったために船はすぐに出ることに。
フライトポイントに着くまでの間、パラセーリング用のハーネスを装着してもらいながら全員で注意点などのレクチャーを受けて―――。
「じゃ、愛優香、行こっか」
「うん」
乗船前に決めたとおり、私と京介くんが最初にフライトする。
それからスタッフさんに支えられながら後方のデッキに移動し、二人並んでパラセーリングのタンデムバーに装着された。
「愛優香、怖くない?」
「怖くないって言ったら嘘になるよ。 初めてだもん。 …ほら、見て? ちょっと手が震えてる」
笑いながら武者震いしてる手のひらを向けると、京介くんは「同じ」と言いながら自分のそれを見せてくれた。
二人で笑い合った次の瞬間。
「3、2、1、go!」
「「!!!!」」
スタッフさんの声と同時にデッキから身体がフワリと浮き、後ろへと引っ張られた。
速度を上げて海を滑走するボートと風を受けるパラシュートが私たちを空へと導く。
風の力でグングンと高度が上がっていく中、生まれて初めてのパラセーリングで空中から見下ろす海はこれまでに見たことがないほどキレイで―――。
「すごいね!」
「すげぇ…」
私たちは同時に感嘆の声を挙げた。
眼下に広がるのは、濃藍、紺青、瑠璃紺、群青、紺碧、縹色、浅葱色といったあらゆる《あお》を携えた海。
それは何処までも続いていて。
「すごいすごい…! 海を独り占めしてるみたい!」
「オレも居るから、二人占め、だね」
「…ああ! ホント、そうね!」
子どもが口にするような言葉を肯定しつつ私は笑う。
この世に二人しかしないような錯覚を起こしながら私たちは僅か数分間の旅を終えたのだった―――。
〜 to be continued 〜