注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
あなたと始める物語は。39
〜 Leak out ~
★
《ダーリンは芸能人》二次創作
遊歩道に終わりが見えた頃、私は組んでいた腕をそっと離した。
誰が見ているか分からないところでこの状態を続けるのはさすがに良くないと判断したからだ。
もう一度ありがとうと伝えると、京介くんは仕方ないねとでもいうように微笑んだ。
車が通る地方道に出ると同時に視界が広がり、そこから1分ほど歩いて市場方面の停留所に着くと、ホテルに寄ってから下りてきた循環バスが到着。
整理券を取る代わりに交通系ICカードを読み取り機にタッチし、二人でバスの最後尾シートに座った。
利用している市場まではここから50分ほどでそれなりに長く乗るものの、海岸沿いを走るバスの車窓から見える景色は見飽きなくて、到着まであっという間に感じる。
…のだけど。
窓から射し込むお日さまの光を背中に受けていると、バスの振動も相まってか、今日は何故か眠気が襲ってきて。
ウトウトとしていると京介くんは「寝てていいよ」と私の頭を自分の肩にそっと寄せた。
その優しさに抵抗できるはずもなく、私は彼の肩にもたれかかって目を瞑る。
彼が愛用しているオーデコロンの香りの中に汗の匂いなのかほんの少しだけ違うものが混ざって……。
(あ…なんか好き……。
……………………………好き!?)
何気なく心の中で呟いた自分の言葉に疑問を抱いて思わず体を起こした私を見て、京介くんは柔らかく微笑む。
「…どうかした?」
「え、あ、あっ、あのっ」
「何か寝ぼけてる?」
笑いを噛み殺しながらそう尋ねる彼に返す言葉が見つからなくて、私は口をパクパクさせるだけ。
と、そこで不意に車窓の外の見慣れない景色に気付いた。
「……あれ???」
この前バスで来たときにこんなところ通ったっけ?と頭をフル回転させて周りを見回す。
すると、『次は間垣下〜、お降りの方はブザーでお知らせください』と次の停留所のアナウンスが。
「!!!!」
間垣下といえば、市場を3つほど通り過ぎた停留所名だ。
寝過ごしたんだ!
隣に彼がいるからと油断してたのかもしれない。
「なんで起こしてくれなかったの!」
「海、見に行こ」
「は?!」
「ネットで見つけたんだけど、どうやらこの先にめちゃくちゃキレイな夕陽が見えるところがあるらしいよー」
「夕陽!?!? 夕食、間に合わないじゃない!」
飄々とそう言う京介くんに思わず詰め寄る。
彼はいいかもしれないが、私にとって時間通りに夕食を提供しないのは職務怠慢に当たるわけで。
帰る時間によってはメニューを変えなければならないし、それはそれで買って帰る食材も若干違ってくるかもしれないのだ。
「あ、今日は夕陽の時間までは居ないよ。
ちょっと場所を確認したら市場に戻るバスに乗ろ?」
「……そんなすぐにバス来るのかしら」
「逆回りのバスが40分後に出るみたいだから大丈夫」
いつの間にかそこまで調べていたなんて。
兎にも角にも既に市場は通り過ぎているのだし、せっかく彼が調べてくれたのだから行ってみようか。
やっぱり自然豊かなこの土地でさらにすごい景色と言われたら見に行きたいのが本音である。
―――みんな、今晩は手抜きになるかもだけどゴメン。
私は他のメンバーたちに心の中でそう謝るのだった。
それから更に30分後、バスは目的地に到着した。
周りは見渡す限り原っぱで、所々に農機具を収めるような掘っ立て小屋があるのが見える。
京介くんはスマホの地図アプリで場所を確認すると、「こっち」と歩いていく。
岩場の少し険しい道に差し掛かると然りげ無く私の手をとった。
再びの優しさにときめいてしまう自分がいて。
そしてバス停からわずか数十秒歩いて辿り着いた先から見えた景色は―――。
「……う、わ…っ」
筆舌にし難い風景が眼の前に広がっていた。
何処までも続く、空の『青色』と海の『蒼色』。
その色が交わる水平線。
いずれも数日前にパラセーリングをしていた時に見たものとはまた違っている。
ここに来ていろんな景色を見たけれど、どれも甲乙付け難いものだった。
その中でも口コミでここが一番と言われる所以は、恐らくだけど夕陽の素晴らしさなのだろう。
……見てみたい。
真剣にそう思った。
夕陽の時間帯に循環バスで来たとしたら帰りの便はあるのだろうか。
それとも、タクシーで来る?
いろいろと考えていると、京介くんが不意に言う。
「……愛優香の次のお休みの時に夕陽が見られそうなら来ようよ。 オレ、運転するからさ」
空と海をバックにそう言って笑顔を見せた京介くんにまた一瞬見惚れて、私はただ頷く。
―――私、たぶん、彼が好きだ。
漠然とだけどそう思う。
さり気ない優しさとか。
日々過ごす中で芽生えたこの恋心は少しずつ育っていった。
……でもきっと、これ以上は大きくしない方がいいと心のどこかで何かが囁いている気がした。
〜 to be continued 〜