短編です。まだまだ二人が想いを繋げる前段階の、しかも結構昔のお話として書いたモノです。

自分の気持ちには気付いてないのに、だけれど相手が気になるそんな二人の言葉の伝え合い。
【正きも(深心編)】よりも先に書いたお話なので、やはり久々綴りに四苦八苦しておりますが……

緩い目で読み流して下されば、幸いです。






【VOICE―イェソンside―】




 

 身体は疲れているというのに何故、自分はこんなにも眠れない……?


思ったのは僅か数秒。



嗚呼そうだ………今日はまだ、アイツの姿を見ていない。だから俺は、眠れない………



眠れぬ夜を過ごす闇。その都度行き着く結論に、自分は大概やられているなと……開けた窓の隙間から流れる風へと息を流した。









アイツの姿を最後に見たのは何時だった?
ボンヤリそんな事を思う。

確かあれは……昨日の昼か?

たかだか其れだけの、空いた距離。

(バカだろ………大丈夫か………俺?)

思った瞬間、自嘲の息が漏れる。
たかだか一日と少しの時間。それなのに、自分は既に眠れぬ時間の到来だ。
こんな風になったのは何時からだろう?
思うのも、一瞬。
もう何度となく自答した問い。

姿を追い始めたのはアイツがアノ大事故から復活した少し後………
前々から不眠に悩んではいたけれど。
その姿を見るまで眠れなくなった。
息をして、喋って笑って怒って悩んで落ち込んで………そんなアイツを見ると何故だか安心する自分が居た。


そう………どんな感情であろうとも。
生きているからこそ……その感覚が落とされる………
生きているからこそ、数多の想いが広がっていく………

(生きている………そうだ………………)




生きている。




その五文字がイェソンの心の中へと深く響く。

彼は、息をしている。
感情があって、笑って怒って疲れて悲しんで。
思った事を言葉で伝えて………

そう行き当たった瞬間。
またも漆黒の闇夜が心の中へと広がっていく。



(大丈夫………………大丈………夫)



カタカタと震え始める手を押さえ付ける。そのまま胸へと押し付けて、震えるな、と…

(やっぱバカだろ、俺………)

あの日あの時あの瞬間。

心へと堕ちた酷く冷たい大きな水が蘇る。
大変な事故が起きた。
危ない状況かもしれない……
覚悟を決めなければ、いけないかもと………

そんな馬鹿な話があるだろうか?
そうなる少し前までは、バカを言って笑って怒って他愛のナイ何時もと同じそんな時間を過ごしていたというのに、だ。


誰が?

何で、そんな事に?

何かのドッキリ番組の、冗談だろ?

そんな………



そんな事




シンジナイ




(現実だっただろ……バカか俺は………)




いい加減昔の記憶に堕ちる自分に反吐が出る。


生きろと願った想いは今。
届いたんだとそんな幻想を抱かずとも、現に彼等の時を刻む。
願いよりも彼等の力の成せる技。
自力でこの地へ戻って来たのだ……それは自分が願ったから等と、そんな烏滸がましい事は思っていないし。
そんな事は判っているけれど。


堕ち続ける思考の中、一つの存在を告げる音が室内へと大きく響いた。


途端に煩く鳴り始める心臓の音を、大きな呼吸一つで何とか治めようと試みながら。三度と鳴らずに押したボタンで、想う相手と今が繋がる。




『おはようございます、ヒョン。』

「…………まだ夜中だお前の朝は深夜4時か?」

『こんな時間に直ぐ電話に出る貴方に言われたくは、ないんですけど?』

「……………寝てるとこ、起こすなっての。」

『だから、おはようございます。でしょう……?』



クスクス笑う相手に思わず瞳を閉じる。
だってきっとコイツは、自分が眠れぬ夜を過ごしていると知っているから。
だからこうして会えぬ夜には違う形で姿を見せてくれるのだ。

『僕、疲れてます。』

「……………ああ……」

『疲れました………ヒョン。』

「……………ん……………」

頑張った、よな?

(生きる事を、今日もお前は頑張った…)

『……もっと。』

「………お前は何時も、頑張ってる。」

(当たり前の様に生きる事を、何時も頑張ってる。)

『…もっと。』

「…………毎日、毎日……頑張ってる。」

(そうだ毎日、頑張り過ぎる程に)

『もっと…もっと。』

「……………………頑張り過ぎだ…ばか。」




生きる事が当たり前なこの世界で。だけどそんな当たり前なんて、本当は存在しない。




「頑張り過ぎなんだよ…何時も……」




生きる事は、奇跡に近い事だ。
当たり前の様に息をして、動いて喋って瞳を開いて……そんな当たり前だと認識している事だって。
本当は………



本当はとても奇跡に近い事。



『………甘やかし過ぎですよ、貴方は。』



少しの間を置いて機械越しに。だけれどとても柔らかな音でもって、相手はそんな事を伝えてくる。

「……お前がもっとって言ったんだろ、バカ。」

『言いましたよ?だって……』

「何だよ。」

『僕は……………皆の大切で可愛過ぎる誰からも甘やかされて当然な末っ子で』

「……ッ…少し黙っとけ。」


言えばクスクス笑う相手。
毎度こんな形で通話を進めて楽しむ相手。そんな楽しそうな顔が目に浮かぶのだから、自分も大概この弟の術中に嵌っているなと思ってしまう。

そうして闇沼へと引き摺り込まれていた脚を引っ張り出されたら、この戯言の終わりを告げるサインが静かに落とされる。


『今日も朝から仕事でしょう?』

そろそろちゃんと、寝て下さい。

「……………俺のスケジュール把握する暇があるなら、一食分の飯でも増やしてもっと太れ…バカ。」

『鬼デスカ貴方ハ』

最近太ったと気にしている事を敢えて言ってやる。
それも何時もの、二人のバカなやり取り。

『じゃあ、僕は寝ます。』

「…………ああ。」

『起きたらまた、頑張りますから。』

「……………………ん。」

(また、生きる事を頑張ってくれ……)

『だから貴方も。ね………?』

「……俺?」

『貴方も……………次に僕と逢うまで、頑張ってください。』

「…………………」

『ご飯を食べて。ちゃんと生活しながら僕と逢うまでの日を…………沢山たくさん寝て、頑張ってください。』


「………言われなくてもちゃんとっ」

『ちゃんと。寝て下さいね?』

「ッ………………じゃあなっ!」



こんな事。初めて言われたそんな言葉の羅列たち。
慌てて切った通話だけれど、何時もの様に闇沼へとまた深みに嵌る感覚は…………ナイ。 


「俺の方が、年上なのにな………」

何故だろう?どうしてこうも、心が落ち着く?
大切な大切な、自分の弟。
落とし掛けたその灯火を自ら大きく燃やした、かけがえのないの無い存在。


「……………………………………………ねむ……」


一度は失いかけた大切な弟。だからこそ、その存在がこの目に一日と映らぬ日があると心が騒めく。そう思って、だから眠れぬ夜を過ごしていたと思っていたのに、だ………

何か違う胸の熱さを、ほんの少し。
本当に微々たる熱さを、胸に感じた……そんな気がするけれど。




「……………寝れ、………そ………………」




それが何なのかは今はまだ解らないまま。


キュヒョンの居ないそんな夜を。
この日初めてイェソンは。

眠れず過ごす事の無いまま、意識を飛ばして優しい光へ深く深く意識を堕とした。




※まだ想いの通い合う前の二人。というか兄さんギュ氏の事を好きだとすら気付いてませんよね何すか天然で仕事に疲れてヘトヘトな人へと通話させちゃうその感じとかとかねーーーっ!!(どーした
ここからきっと、二人の新たな時が刻まれますがソレは皆様のご想像にお任せします←ビバ放置っ

正きも(深心・その後)です。

ちょいと長くなり過ぎたので、その後という形でことの真祖を書きたいなぁと(え
何で兄さんがあんな形で優男さんへと接したのかとか、実はこんな形で裏では動いてたんだよー。とかとか?(どんなだよ
それを気軽に読んで頂ければな、と。

それでは参りましょうっ!!
結局纏める能力皆無はその後に頼るって毎度ながらの流れだよっ!それも安定判ってるからだいじょぶバチコイ二人と共に笑ってやるよーーーーっ!!なーんて言って下さる、どんな二人も大好きだと言って下さる方はどぞっ!!





『んで?結局どーにかなったんだろ?』

そうぶっきらぼうに告げてくる声に、機械越しからでも判る見目麗しいその顔が呆れ具合となっている事を容易に想像出来て。
それに一つ返事でだけ返す。
そうしながら手元の珈琲を片手にリビングを抜け、朝から生憎の雨となったその空を冊子越しに緩り眺め見た。





【正しい気持ちの伝え方(深心・後日談)】






『いい加減、俺を巻き込むんじゃねぇよ……』

ったく……。
そうブツブツ言う声に珈琲を一口静かに啜ってから、苦笑で以てソレに返した。
尚も続くだろうと思われた苦言は、しかし次に放たれた声音で終止符が打たれた事を悟る。

『ま、お前等の状況知れっから…たまにゃあ良いけどな?』

フッと笑う音が聞こえた。それは心の底から自分達を想い笑んでくれている、その音。
こうやって何だかんだ言いながら、彼は自分達を見守ってくれているのだ。
その事に少しの擽ったさと、そして感謝の意が胸から湧き上がる。


にしても、と受話器越しに、また相手の声が上げる。

『アイツより先に、まさかお前から相談来るとは思わなかったけどな……』

ジョンウナ?


そう自分の名を呼ばれて。
それまで眺めていた空から目を離し、イェソンは足元へと並べられたサボテン達へと視線を落とした。



キュヒョンがヒチョルへと連絡を取るその数週間前。実はイェソンは、キュヒョンよりも先に今回の騒動となる悩みをヒチョルへと相談していたのだ。

結婚してから数年。イェソンは兄や他の仲間達へとキュヒョンの事で相談するなど皆無に近く、毎日をポヤリポヤリと緩やかに過ごしていた。それ程に毎日が幸せで楽しくて。喧嘩もしたり悩む事だってあったけれど。
それでも誰かの力を借りようとまで思考が向くことは無かった。

だが今回。そう今回ばかりは兄へと助けを求めたのだイェソンは。
そのキッカケになったのは、ご近所さんとの井戸端会議なのだけれど……


それは買い物からの帰り道。ぽてぽて歩いていたら呼び止められた数人の奥様会合。そうなるとイェソンもまた奥様であり、ご近所付き合いもせねばと輪に加わる事となり……
そこで聞いた、それぞれの旦那様の話しの数々。

「だって……」

あの時の奥様方の会話を聞いて、ふと疑問が湧き上がったのを思い出す。

「キュヒョナがずっと、優しいから。」

そう。優し過ぎて……だから疑問が浮かんだ。

彼はいつ、ストレスを発散してる?
大きな声で怒鳴ったり。
八つ当たりしたり疲労を全面に出してみたり…
愚痴を言ったり機嫌が悪かったり何も手伝わず無視を決め込んだり………
そんな世の奥様方の愚痴を聞いて。だから余計に疑問に思った。

「キュヒョナの色々が………無かったから。」


彼は自分へと、そういった姿を見せた事が皆無に近かった。何処の旦那もそんなモノだと納得する彼女達に、ならばもしかすると……キュヒョンは自分にそんな姿を隠しているのかもしれない……
だから悩んで悩んでヒチョルへと、相談した。


『………俺みたいなアイツが見たいってのが、余計だけどな。』


やれやれと。ヒチョルが肩を竦める姿が見える気がする。それにもやっぱり苦笑のまま。だってヒチョルは自然体の己を何時だって臆すること無く見せている。イェソンはペタリ床板へと座るとタンコマサボテンへと指をちょいちょい優しく触れた。

だから、今回のこの相談は……

「ヒョンじゃなきゃ、だめ。」

それにヒチョルは思わず携帯越しで良かったと胸を撫で下ろした。だってこんな風に自分じゃなきゃ駄目だなんて言われたら、嬉しくてニヤけた顔が見えてしまうじゃないか。



『んで?見れたのかよ……お前の欲しいモンは?』

不意に言われてイェソンは片手に持ったままの珈琲カップをコトリ床へと静かに置いた。
そのまま思い出されたあの日あの時の情景に、思わず口許を押さえてしまう。

『……………言わなくて良いわ…』

つーか絶対言うな言ったら今すぐキュヒョンを殴るぞマジで。

「…………だめ。」

それにはむー。と、何時ものイェソンお得意唇突き出しながらの膨れっ面よろしく。大切な旦那様を殴るだなんて許さない、と父親と成り代わったヒチョルへ小さな牽制一つ。携帯越しなので見えていない事はこの際置いておこう。

「俺の旦那様……殴っちゃ………や。」


ヒチョルのアドバイスでキュヒョンを追い込む事にイェソンは見事成功した。
ヒチョルは言ったのだ。小さな苛々を積み重ねれば、その内必ず爆発すると。
幸か不幸か今のキュヒョンは仕事が結構忙しい。
ならばソコに小さな嫌を積み重ねれば、必ず優しさだけでは無いモノが現れる。

『やった事がガキだけどな……』

自分のアドバイスを受けてまさか子供の様な悪戯を仕出かすとは流石のヒチョルも思わなかったと彼は笑う。その内堪りかねたキュヒョンから自分へと連絡が来る筈だから、そうしたら最終手段を使えとイェソンは言われていたのだ。

そして、見事ヒチョルの言う通りとなった訳なのだが。

「…やり過ぎた、かな……?」

ポツリ言うイェソンにヒチョルはまた笑う。
どれだけお前達は互いを心配し合うのかと……



『気ぃ使い過ぎたらな……その内それに押し潰されるって、知ってるか?』



相手の事を思う余り、自身の想いを留めすぎるのは……それは違うと。



『お前等は、それでどうにかなる程、薄くねーだろ………?』



「………………ッ…だから、ヒョンじゃなきゃ……」



そう。今回のこの相談は、だからヒチョルでなければ駄目だったのだ。こうして自分達を誰よりも理解し時には優しさだけでは無い叱咤と共に見護ってくれている。
そんな彼を、イェソンは知っているから。


『こら……泣いても俺は慰めねーぞ?』


ヒチョルは尚も言う。泣くならば、ちゃんと慰めてくれる相手が傍に居る時に、と。

それに一つ笑ってイェソンは緩り頭上を見上げるのだ。



「だいじょうぶ…………もう、いるもん………」



『………………………オイこら……』



待て待てそりゃどーいう事だと突っ込みを入れようとするヒチョルへと、それまで聞こえていた声とは明らかに異なる声が音を成す。



「僕を嵌めるなんて……酷いですよ?」



お義父さん?



『…………気色悪り……』


ヒチョルの返しも何のその。未だ自分を見上げるその瞳へと、おはようのキスを一つ。

『つーか何でお前が知ってんだよ……』

きっとゲンナリ顔だろう受話器越しの相手に、キュヒョンは人の悪い笑みを浮かべて楽しそうに言うのだ。

「貴方達の教育の、賜物でしょう?」

『……………おめぇも再教育してやろうか?』

「それ、楽しみに待ってても良いですか?」

『……やっぱ嫁にやるんじゃ無かった…』

盛大な溜息と共に漏らされた言葉。本心では無い、ヒチョルの優しい嘘の一つ。



「………ありがとうございました……ヒチョリヒョン。」

告げながら、よいしょとイェソンの真後ろへと腰を下ろす。最近では共に居る時必ずそこが定位置なのだ。


『……何かあったら、何時でも聞いてやる。』


「……………」


『なーんてな……?』


そんな言葉で通話は切れた。無音となった携帯を耳から外して、キュヒョンはその口元へと笑みを浮かべる。自分達の兄であり、父親の様な存在である彼は……きっとどんなに忙しくとも、自分達の事となれば駆け付けてくれるだろう。

なんたって…


「……はよ………旦那様。」

なんたって、馬鹿正直な程想いを伝える事に全力になれるそんな愛しの奥様を。育て上げた、そんな優しい彼だから。

「おはようございます……僕の奥様…」




「これ……僕の珈琲でしょう?」

イェソンがコクリコクリと飲んでいるモノへと、カップを取り上げながらそう告げてやれば。

「………俺の。」

苦味で眉間に皺が寄りながら。そんな風に言う唇へとごめんなさいのキスを一つ。

「今日は寝坊、しちゃいました。」

「……………疲れてる?」


自分の背へと寄り掛かりながら、イェソンは伺う様にちろり顔を上げてくる。
それに一つの笑みと共に、キュヒョンは肩を竦めてみせて。


「疲れてるから………甘やかして下さい。」


「………ん。」


コテリ一つ小首を傾げたその後で。
はい、とぽふぽふ膝を叩いて花開く様な笑顔を一つ。


「……僕を、甘やかし過ぎです。」


「甘やかすの……俺、得意。」


ニッコリ笑顔は誰もを魅了して止まない。そんな風に受け入れられたら、甘えない訳にはいかないじゃないか。


「ヒチョリヒョンが、怒ってましたよ?」

今回の計画をイェソンが素直にキュヒョンへと伝えた事に怒っていると。そう告げてみても彼は何処までも
澄んだ瞳でコテリ小首を一つ傾げて。



「そんなの……ヒョンは判ってるもん。」



自分がキュヒョンへと真相を告げる事すらヒチョルはきっと想定済みだ。
当たり前の様に言うから、キュヒョンはこの日初めてヒチョルへと同情の念を抱いてしまった。
この息子は、本当に手強い。



静かに降り行く雨音は、優しい静寂を与える琴葉。
その音へと耳を傾けながら、二人は今日も今日とて優しい音を奏でていく。

「タンコマ達に、挨拶は?」

「した………けど…」

病院は、嫌だから。

「いっぱいは、しない。」

「あの時の事、聞いてたんですか?」

盗み聞きは、いけません。

「…だって、前は焼きもち、した………」


……………………


「やっぱり貴方は、欲しがり過ぎです。」


「……………や?」



「………『や』じゃ………ない。」



そうして二人の口許へと今日もまた、笑顔が花咲く。

そんな二人の、緩やかな日々。




※おまけというか、番外か?こんな事があったんですねぇ……ってか兄さん計画全て優男に言っちゃうとかやぱーり安定ぽややんさん?(笑)
こんな二人が私はやっぱり好きなのですな。
昔の彼等と出逢えたかはね……皆様へと、お任せしますっ(待て
それでは、また。




四話目です。
これにてこのお話、やっと完結致します微エロありーな展開ですがそりゃもうアタクシ胡蝶が書いたモノですからね?在って当たり前的な?(どんなだ

それでは参りましょうっ!!
久し振りにて長々お話続いたけども、それも軽く鼻で笑って許したるっ!!なーんて言って下さるギュイェだけでなく私にさえも砂糖よりも極甘バチコイやんやんしたるよって方はどぞっ!!←





煌々と灯りが広がる大きなリビングの、その中心部へと置かれたやはり大きなソファの上。

そこへと気怠げに背を預けたキュヒョンは、目前で震える身体を静かに眺めていた。





【正しい気持ちの伝え方(深心・後編)】







「ほら……ちゃんと上げないと、服……汚れちゃいますよ……?」


クスリ笑む姿は何時もと変わらぬ優しい彼と同じなのに。その瞳はだが、冷たいまま………


「まだ動ける、でしょう……?」


座るキュヒョンの上。その上へと跨る形で大きく脚を広げて、震える身体はそのままに……
イェソンは止まらぬ涙のまま目前の愛して止まない彼へと、視線を注ぐ。


「も………ッ……ァ…………う、ごけな」


「服………上げなくて良いんですか…?」


告げる言葉すら拒絶で以て聞く耳すら今の彼………キュヒョンには、持てない。



キュヒョンと付き合う遥か前。ユノが着ていた服を貰い、それが大切なのだとイェソンは言った。
だから捨てる事はしない、と………

その言葉と表情。そして行動全てがキュヒョンは、許せなかった。
普段の彼ならば、それなら仕方ないかと笑って流していただろう小さな事柄。

だけれど今のキュヒョンには、その事ですら許せないのだ。



「止まってますよ……」


サラリ……剥き出しの腰を緩く撫でて、その手のまま太股を軽く叩く。
そうすれば嫌でもイェソンの身体は小さく上下し始めて。

こんな事をもう二時間は繰り返しているだろうか?
昼も互いを長く激しく貪ったのだ。いい加減イェソンの身体は限界にきていた。
自身の体重を支える膝が、疲労で感覚を失い始める。同時にキュヒョン自身を受け入れている場所ですら、痺れを起こして熱さと痛みを訴えていた。



「も………………ゥ……ッ…………」



漏れるのはそんな言葉だけ。イェソンは既に限界を何度となく超えている。なのに許す事はまだ……出来ない。


「僕はね………この数日…………考えていました…」


人工の光は普段の倍以上に白い肌を際立たせる。
ボンヤリそんな事を思いながら、キュヒョンは目前の綺麗な腹部の線を指で辿っていく。


「貴方は何を………僕へ訴えているのかっ、て…」


イェソンの謎の行動。その訴えが、何なのか。
判らぬ事柄に酷く頭を悩ませた。


「だけど………」 


スゥ………腹部から、そのまま剥き出しとなったイェソン自身へと長い指が辿られる。
その感触にキュヒョン自身を受け入れていた場所がヒクリと蠢き、それにキュヒョンは少し眉根を顰め………だが、それだけ。


「だけど………ね?」



もういい加減、疲れた。



「大好きな相手のソレを着て………感じますか……?」



言われた事にイェソンは、それまでどうにか動かしていた腰をとうとう止めてしまった。
それでもキュヒョンの言葉は、止まない。


「ソレを着ながら抱かれるって………どんな気分…?」


大切だから。大事だから捨てたくないのだと、そうイェソンが告げたユノから貰った宝物。


「貴方が嫌がるから、僕はソレに触る事すら………出来ない。」


言いながら、それでもキュヒョンの笑みは崩れないまま。


「ねぇヒョン………」


僕は……



「僕は何時まで…貴方に優しくすれば、いい……?」



告げられた言葉。その瞬間に、イェソンの瞳からハラハラと大粒の涙が零れ落ちた。
無言のままのその涙は、だが今のキュヒョンには何一つ響く事など、無い。


「……服……上げて……?」


泣いて緩んだ腕の力が腰元まで落ちている。それを指摘すれば、ゆるゆると上がる服と震えた小さな白い拳。キュヒョンは言ったのだ。


『そんなに大切なら、それを着たままで……』


だからと上着だけを着た形でイェソンはキュヒョンへと抱かれていた。そうして尚、キュヒョンはクスリ笑いながら、言った。


『汚したくないなら……ソレ、上げないと………ね?』


それにイェソンは力の入らなくなった手で、どうにか裾を託し上げて言われるままにその身を揺れ動かせていた。だがそれももう、限界。



パサリ落ちた裾と腕に、キュヒョンは未だ冷めたままの視線を目前の身体へと向ける。
その身体はグラリと一度揺れて、崩れ落ちる寸前でどうにか力を込めた手でもって。
キュヒョンの寄り掛かる背もたれへとイェソンはその手を掛けた。


「もう………限界?」


未だ崩れぬ笑顔はそのまま。目前となった白い頬へとキュヒョンの冷えた手が添えられる。
その手の感触に上げられた顔は、苦痛と非難を込めたモノだと思っていたのに。異常なまでの色香を伴い、それは未だ止まらぬ涙とは掛け離れた……その表情。



「…………ヒョ」



声を上げかけたキュヒョンの唇は、今度はイェソンの噛み付く様なキスと共に掻き消された。






「お返し………」



カリッ……。小さな音と共に走った痛み。それはキュヒョンがイェソンへと付けた傷と同じ場所。
口内へと広がる血の味に、キュヒョンの冷静な思考が一つ戻っていく。


「お、れに………いつまで優しく、すれば……いいかっ、て…………?」


落ちる声は普段の彼より、遥かに低く静かな音葉。


「そんな…の…………いま直ぐ…」


止めればいい。


「…………ヒョン………?」


イェソンの言葉にまた一つ、キュヒョンの冷静な思考が戻っていく。


「お、れは…………」



俺は………



「優しい、だけの………キュヒョナは、」



そんなキュヒョンは。



「いらない…………」



告げられた言葉に、それまで向けていた冷えた瞳が一気に熱を帯びる。
それを目前で見詰めていたイェソンは、未だ息の整わないまま。だけれど今まで見たどんな彼よりも、妖艶かつ誰もを魅了する強い眼差しで以て。


「いまのキュヒョナ、が………」



俺は、欲しい。



「……………ッ………………締めすぎ、です……」


苛立ちと子供じみた嫉妬へと思考が呑まれて。そんな自分をキュヒョンは何処か冷静な部分で最低だと。そう思っていた。だから敢えて自分からは彼に触れずに行為を続けて。
なのにどうだろう?目前の未だ涙の止まらぬ愛しいこの世で唯一無二の存在は、それを欲しいと…
そう言うのだ。


「最近、意地悪……してたの……」

何でなのか、判るかと。

「………判らないから、貴方に酷い事をした……」


告げられた言葉に仄かに笑って。その笑みすらも今はイェソンの色香を増長させるものでしかない。


「二年前………サボテン。」


謎解きか何かなのか?そんな事をヒチョル辺りが聞いたらツッコミそうな問い掛けなのだけれど。
キュヒョンは久しくイェソンの本当に欲しいモノが判り、だがそれでも信じられないという眼差しでイェソンを見詰める。

それに違わずイェソンはまた、誰もを魅了するその笑みでもって赤く熟れた唇を開くのだ。


「怒って、焼き…もち………するキュヒョナ、が…」


そうどんな形でだっていい。激しく自分を求める、
愛して止まぬ旦那様が。


自分へと、嫉妬や怒りを剥き出しにして感情のまま想いを伝えてくれる愛しい彼が。


「いまのキュヒョナが…………欲しかった…」


言葉と同時に近付いてきた唇。噛まれて傷の付いた唇が未だに疼き痛みを告げている。
なのに、触れ合った瞬間その痛みは痺れと甘さに瞬時に変わり。同時にまたキュヒョン自身を受け入れていた場所が強い締め付けを引き起こすから、嫌でもこれが現実なのだと思い知らされる。


「怒ってるだけじゃ、だめ。」


怒っているだけでは、あの時のあの激し過ぎる熱には到底敵わない。となれば、後は一つ……


「…なら…………」

これは………態と……?


これ。とは、言わずと知れたイェソンの宝物であるユノから貰った大切な服。


「だったら………….」


だめ………?



コテリ。こんな場面でも、それをするのかこの人は……キュヒョンは心の中で盛大に息を吐き出した。

イェソンの近頃の行動。それはあの二年前の、自分がバカみたいに嫉妬したあの時感じたアノ熱をまた感じたかったから……

そしてその激情を、イェソンへとぶつけて欲しかった。
そういう事ではないか。


「ばか、ですね………」


敢えて告げたそんな言葉。そんなモノを求める彼も、そしてそれに翻弄されて本気で嫉妬までした、自分自身も。


「ん……ばか……」


でもと、イェソンは言う。


「【ばか】じゃ……………だめ…?」


自分は【ばか】だから。だから時折感じたくなるのだあの時の様な、激しい熱を。


「……………なら僕も……やっぱり【ばか】ですね…」


そんな貴方が。


「今の貴方が………今までで一番欲しいと、思う。」


その言葉へとイェソンはここ数日では久しく見なくなった本当に幸せそうな。心の底からの笑みで以て、キュヒョンの唇へと自分のソレを触れ合わせた。


イェソンの本当に欲しいモノ。それは、キュヒョンの優しさ以外。
共に暮らす中で彼はどんどんと寛容になっていく。それは周りは元よりイェソンですら感じる事で。だからこそ、イェソンは彼……愛しいこの世で唯一無二の存在を心配したのだ心の底から。

人は優しさだけでは、必ず崩れる。他の感情だって、在って良いのだなのにソレを最近では殆ど見せなくなったキュヒョン。だからこそ、二年前のあの時の様な感情だっていい。どんな感情でもいいから、彼の強い想いを欲しいと……だからこんな馬鹿げた事をしたのだイェソンは………


「キュヒョナが、大事………」


角度を変えて、深くなるキスの合間にイェソンが言う。


「大事、だから………」


だから、嫉妬だって苛立ちだって。怒りや哀しみその心全てを。


「俺に…………ちょうだい?」


自分の様に我儘になればいい。怒って泣いて笑って拗ねて嫉妬して……

その全てを………


「……………受け止めて、あげる。」


「………………………何時からこんなに、強くなったんだか………」



言葉とは、こうも力のある物だっただろうか?
気持ちを正しく伝える術を持っている筈なのに……何故人はこうも正しく使えず日々を浪費しているのだろう?思った事の全てを伝えるべきでは、勿論ない。だが、正しく気持ちを伝えないと……心が崩れてしまう時が、ある。今回の自分の様に、だ。

それをこの目前の相手は。愛して止まぬ奥様は、違えず伝えてくれたのだ。


少し強引な、だけれど大事な【正しい気持ちの伝え方】を。



「我儘、言って良いですか………?」

「………ん。」

「………その服、脱いで下さい。」

「………………や。」



「…………………………なら覚悟は、良いですね…?」



「……………………やっぱ、脱」

「もう、遅い。」



深まる笑みは互いの心が一層強く繋がった証。
こうやって、また一つの大切が増えていく。それが二人の深い想いの伝え方。




※長ーーーーーーーいっ!!そしてまさかの兄さん誘い受けというね(撃沈)結末は出来ていたのに結局思い描いた終わりとは違うという……そして微エロ落ちね(汗)やはりこの二人には、敵いません。お付き合い下さった方、長々ありがとうございました。