夢への道程 | トナカイの独り言

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独り言です。トナカイの…。

 もう十年くらい前になるが、『矛盾』というテレビ番組に出演したことがある。
 この時の『矛盾』は、十一歳 VS 五十五歳という設定だった。
 体力の上り坂にある十一歳の平均値と、下り坂にある五十五歳の平均値が同じだということで、水泳バタフライ種目で十一歳の日本チャンピオンと対決することになったのだ。

 わたしは五十五歳代のチャンピオンで、確か五十六歳か五十七歳の時だったと思う。

 

 

 写真はレース直前、十一歳のチャンピオンと握手しているところ。
 レースにおけるわたしのタイムは三十秒前半で、高校三年の時とほぼ同じだった。

 

 水泳や陸上のように、明確にタイムで結果の出るスポーツは、潔いと同時に残酷である。
 十一歳から登り始めたタイムは、いつしか落ち始めるのだから。
 

 水泳に限って言えば、これまでのところわたしのピークは五十七歳だったように思う。この年、日本記録まであと百分の二秒というところまで迫ることができた。五十メートルのバタフライもふつうに二十九秒台で泳ぐことができた。五十メートル自由形で記録されたピークは五十四歳だが、五十七歳の時ならこれを上回れたとも信じられる。

 

 そんな五十七歳から、難病に患り、手術した経緯もあるが、記録はゆっくりと落ちて行った。やがてコロナ禍となり、三年というもの水泳大会から離れてしまった。コロナ禍であっても、スキーシーズン以外は泳いできたけれど、技術練習に留まることが多く、肉体的限界に迫るような練習はしていなかった。

 

 その理由の一つとして、コロナ禍はスキーに集中できた・・・・・ということがある。
 指導だけでなく、スキー技術の再確認にも集中できた。だから、スキーがとてもおもしろかったのだ。

 今年の春、スキーシーズンが終わり、ふたたび泳ぎはじめた時、ふとこんなことを思った。

 「とことん泳げるのは、いったいあとどれくらいだろう?」

 

 スキーに比べると、水泳は圧倒的にフィジカルへの負担が大きい。筋力や瞬発力だけでなく、心肺機能にも大きな負担がかかる。要するに本格的な練習をしたら、とても辛いスポーツなのである。トレーニング中の心拍数など、スキーとは比較にならない。二百を超えることもたびたびである。

 そんな苦しい水泳の練習に心身を注ぎ込めるのは、あとどれくらいなのだろうか・・・・・・。そう思った。

 そして、数ヶ月ではあるけれど、「思い切り泳いでみたい!」と感じた。

 ジャパンマスターズに出場するためには、エントリータイムを設定する必要がある。そのため、六月末に中高生の大会にエントリーした。
 自分では中学三年に出したくらいのタイムで泳げるだろうと思っていたが、なんと中学二年の時のタイムに終わってしまった。予想より一秒以上も遅かったのだ。最後の数メートルはまさに鉛の体となり、腕も足も動かなかった。
 やはり苦しい練習が、まったく足りていなかった。
 ・・・・ということでこの大会以降、五十メートルのインターバルを中心に練習を再開。
 七月二十七日の今日、泳いだ日数も四十四日となった。

 今週末、長野県選手権に参加する。
 今度は中高生だけでなく、大学生や一般も含む無差別級の大会である。出場者中、最高年齢でもある。
 高齢になってからの練習が、どこまで通用するのか、正直わたしにはわからない。素晴らしいスイマーでもあった故・平先生が言っていたように、自分の体で人体実験するより他がないのである。

 今回の練習にあたって、これまでの水泳トレーニングと変えたところがある。これまでは水泳のストローク数に合わせて、単純で辛いウェイトトレーニングを中心にやっていたけれど、今回は瞬発力や爆発力を増すようなトレーニングを中心に置いたのだ。だから、ウェイトにもおもしろさが出てきた。やはり楽しめないトレーニングは続かないし、効果も少ないと感じるから。

 

 正直に書くと、土曜日に予定されている五十メートル・バタフライは、まだ泳ぎ切る自信がない。しかし、日曜日の五十メートル・自由形では、なんとか中学三年の時のタイムを出したいと願っている。欲を言うなら高校一年くらいのタイムまで上げたいと思う。ちなみに高二の時のタイムがでれば、それは年令別の日本新記録となる。
 どこまでできるのか、まったくわからないけれど、やってみれば結果が出て、自分の立ち位置がわかる。
 できる限りのことをやって、思い切り泳いでみたい。
 

 わたしの周りには神がかった人が何人もいる。
 なかでも水泳の世界チャンピオンで世界記録保持者の松本弘さん(八十六歳)は飛び抜けている。彼の人生における最高記録は、バタフライなら七十二歳の時なのだ。自由形に到っては七十五歳でピークをむかえている。
 もしこうした松本さんのような方を知らなかったら「年だから」と、とうに諦めてしまったかもしれない。しかし、松本さんや沖浦さん(パワーリフティング世界チャンピオン)という素晴らしい人たちと直接触れ合い、一緒に練習もさせていただけると、その凄さがどこからもたらされているのかを、少しだけ知ることができる。
 彼らが、単にスーパーマンだからではないことがよく分かる。
 強い意志と継続される努力が、彼らの結果をもたらしている事実を、知ることができる。

 彼らの年まで、まだまだわたしには残されている。どこまで近づけるかはわからないけれど、精一杯やってみたいと思う。


 

 写真はメインで練習している S'ウエルネス小谷 のプール。