【その2】微酔なる君との戯れを~一幕~ | 妄想小説?と呼べるのか否か

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艶が~るに関する内容です。

○○
(うーん……一応、頑張りすぎて倒れる様な真似はしないつもりなんだけど……。
寧ろ、花里ちゃんの方が、私より沢山仕事をこなしている訳だし……彼女の方が倒れちゃうんじゃないかなって、いつも思ってるぐらいなんだけどなあ。
それに比べたら、私なんてまだまだだし。だから、花里ちゃんの代わりになれるかなんてわかんないけど……)


まだ人気の少ない島原の街に、箒を掛ける音が響く。
いくら朝晩は涼しい風が吹いているとはいえ、日が昇ってさえしまえば季節は未だ夏のようで、動く背中に汗が伝う。私は懐から手拭いを取り出すと、首筋を拭いながらも青く澄んだ空に目を向けた。


○○
(――…うん。でも今日は、いつもお世話になっている花里ちゃんの分までやるって決めたんだし。とりあえず、迷惑を掛けない程度に頑張らなくちゃ)


そう意気込んで、もう一度箒に視線をやろうとする。すると――……。


坂本 龍馬
「――お?そこにおるのは○○かや?」
結城 翔太
「どうしたんだ?空なんか見上げて」


ふいに、後ろから声を掛けられて振り返る。そこにいたのは、龍馬さんと翔太くんだった。


○○
「あ……おはようございます。お早いですね、龍馬さんも、翔太くんも」
坂本 龍馬
「ちっくと早く目覚めてしもうての。天気も良かったから、散歩に繰り出そうっちゅう話になったんじゃ。……じゃが、早起きして良かったのう?翔太」
結城 翔太
「!!……な、何で俺に振るんですか!」
坂本 龍馬
「いや?ただ単に、翔太もわしと同じような気持ちなんじゃないかと思うちょっただけじゃが……ほうか、違うか」
結城 翔太
「……っ、それは……」
○○
(……同じ気持ち?ってなんだろう……。翔太くんも、何か分かったみたいだけど……)


花里のブログ


楽しそうに笑う龍馬さんと、頬を赤く染めて俯いている翔太くんを交互に見やる。だけど、そんなことをしたところで、答えがわかるはずもなく――……。


結城 翔太
「そ、そういえばさ。○○は掃除の最中だったんだろ?なのに、なんかぼーっとしてなかったか?」


という、翔太くんの言葉で、話は流されてしまった。


○○
「ぼーっとっていうか……。何ていうか、気合いを入れてたの」
結城 翔太
「気合い?」
○○
「うん。今日一日ね、花里ちゃんが祇園に……出張?しに行くことになって。何でも、花里ちゃんの腕に惚れ込んだお客さんが、祇園の揚屋にも来てほしいって言ったらしくて……」
坂本 龍馬
「ほう、それは大抜擢じゃのう」
○○
「そうなんです。だから、花里ちゃんの居ない穴を、他の皆で埋めるようにと秋斉さんに言われて……。私は花里ちゃんと同じ菖蒲さん付の新造ですから、それなりに負担が増えるかもしれないとも言われて。だからそれに向けて気合を入れようかと思って……」
坂本 龍馬
「……○○はまっこと仕事熱心じゃのう。じゃが、それで体を壊さんとええが……。
わしにも何か手伝えることがあれば、すぐに言うんじゃぞ」


龍馬さんの温かくて大きな掌が、私の頭をぽんぽんと撫でる。
たったそれだけの事なのに、心臓は跳ね上がって、自然と頬が熱くなるのが分かる。


○○
「あ、ありがとうございます……」

坂本 龍馬
「……○○が笑顔でいてくれれば、わしはそれでええが。だから、その力にわしがなれるのなら、礼はひとっつもいらんぜよ」


屈託のない温かな笑顔で見つめられながらそう言われてしまうと、流石にもう顔を上げることなど出来やしない。
とくとくと胸が高鳴るのを感じて、私は、言葉を口に出すことも出来なかった。


――だけど。


結城 翔太
「……あの、俺、帰った方がいいですか?」


翔太くんの言葉が耳に届いて、慌てて龍馬さんから距離を取る。そうして、見上げた翔太くんの視線は、どこか哀愁を帯びていた。


○○
「そ、そんなことないよ!!えっと……翔太くんは、今日はこの後どこかへ行くの?」
結城 翔太
「え?ああ、今のところは、俺自身は何も予定はないけど……。○○はこの後も忙しいのか?」
○○
「うん、この後秋斉さんにお使いを頼まれてるんだ。だから、さっさと掃除を終わらせちゃおうと思って」
結城 翔太
「そっか。……でも、○○は昔から一つの物事に集中すると、周りも自分も見えなくなるんだからさ。……あんまり無理、するなよ」
○○
「うん。ありがとう、翔太く……っ!?」


瞬間。指先がきゅっと掴まれる感覚がして、自分の手元に視線を移す。


結城 翔太
「……もし、困ったことがあったらいつでも言って。すぐに○○の元へ行くから」


するとそこには、目元を朱色に染め、視線を逸らした翔太くんが、私の指先を覆うようにして握りしめていた。
……あまり人前でそういうことをしない彼なのに、珍しくそんなことをするものだから、驚いて指先を抜こうとする。
だけど、ほんの少しだけ力が強まったその掌から、逃れることは出来なかった。


○○
「あ……の、翔太く」
坂本 龍馬
「……なんじゃ。おまんがわしの目の前で、そがなことするのも珍しいの」
結城 翔太
「!!」


龍馬さんの声と共に、翔太くんの掌がいとも簡単に離される。
だけど、指先は熱を持ったまま、なんだか痺れているような感じがして、意識がわすかばかりだけど、そこに集まる。


坂本 龍馬
「ヤキモチか?翔太」
結城 翔太
「……っ!!ああもう、掃除の邪魔になるから早く行きましょうよ!○○、またな!」
○○
「え?あ、うん!気をつけてね」
坂本 龍馬
「そ、そこまで押さんでもええじゃろうが……。じゃあの、○○」
○○
「はい、また!」


翔太くんに後ろから押されながら、龍馬さんと翔太くんは私に背を向けて歩いて行く。
私は二人が見えなくなるまで見送ると、再び箒を動かし始めたのだった。






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