【その3】微酔なる君との戯れを~一幕~ | 妄想小説?と呼べるのか否か

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艶が~るに関する内容です。

○○
(ええと、あとは――……)


掃除を終わらせて、私が次に向かったのは町の方だった。
仕事の増えた私を見るに見かねて、菖蒲さんもお使いを無くしてくれようとしたり、昼見世の準備も、他の新造の子に任せればいいと言ってくれた。

だけど、それじゃあ私の仕事が無くなってしまうからと。そう言うと、菖蒲さんは仕方なさそうに、秋斉さんのついでと称して、私にお使いだけを頼んだのだった。



白い小さな陶器を小脇に抱え、京の町を急ぐ。
陶器の中身は女の人が――今回は菖蒲さんなんだけど――使う口紅で、乾燥を防ぐためにこのような入れ物に入れたり、貝殻の裏面に何度も塗り固めたものを合わせにして、販売されることが一般的なんだそうだ。
本当は、置屋の方に口紅などの化粧品を売りに来る人がいて、そこで購入するのが普通なんだけど……売りに来ていない今日に限って、口紅が切れてしまったと菖蒲さんは言っていた。


○○
(でも、ちゃんと買えたし……落とさないようにしないと。……で、後は――……)


あるお店を見つけるために、きょろきょろと辺りを見渡す。
だけど、その目的の物はなかなか私の視界には入ってこない。


○○
(あれ?こっちで合ってたよね……?……って、あれ?)


人混みに紛れて、一瞬だけど、見覚えのある二人の後ろ姿が目に入る。


○○
(あれって――もしかして……高杉さんと、桝屋さん……だよね?
……!そうだ、二人に聞けばわかるかもしれない)


先程買ったばかりの口紅を落とさないように、しっかりと握りしめながら、慌ててその背中を追いかける。
二人の歩く速度は少し早くて、このままじゃ追いつけない。そう思った瞬間、誰かに追いかけられていると気付いたのか、彼らがちらりと後方を見やったのが分かった。


○○
(あ……気付いてもらえたかな?)


歩みを止めた彼らの元へ駆け寄る。
追いかけているのが私だと気付いたらしく、彼らは、最初は驚いた顔をしていたが、徐々に微笑んでくれているのがわかった。


高杉 晋作
「……誰に追いかけられてるのかと思えば……お前だったのか、○○。
慌てて走り寄るほど、俺に会いたかったのか?」
○○
「え?」
高杉 晋作
「そう照れるな。お前の考えることなど、口に出さなくてもわかる」
○○
「……いえ、あの……少し困ったことがあって。そこでちょうどお二人を見つけたから、追いかけただけなんですけど……」
高杉 晋作
「……………………。……ふん」


少し戸惑ったけど、真実を告げる。
すると、高杉さんは急に不機嫌になって、私に背を向けて歩き始めた。


○○
「ちょ……、どこに行くんですか?」
古高 俊太郎
「ええんや、ほっとき」
○○
「で、でも……」
古高 俊太郎
「ええんどす。……高杉はんは、ただ拗ねてはるだけやから」


くすり、と桝屋さんは笑みを零す。だけど、ふいに紅を抱える手とは反対の手を取り、彼の唇へと近付ける。
指先に微かに触れる彼の唇の感触に、思わず心臓がぎゅっとしてしまったような感覚を覚えて。身動きすら取ることが出来ない。


古高 俊太郎
「……せやけど、その気持ちはわても一緒や」
○○
「…………っ!」
古高 俊太郎
「一言でええから、わてに会いたかったと。そう言うて欲しかったと言うたら……」
○○
「ま、桝屋さん……っ!!」


きゅっと。少しだけ強く握られた掌に、彼の口づけが落とされる。その熱と共に、私の僅かばかりの制止する声が漏れだして。
だけど、その声が耳に届いたのか、高杉さんはぴたりと歩みを止めると、再びこちらへと戻ってきて、桝屋さんの手を払いのけた。


高杉 晋作
「拗ねてなどいない。で、どうした?何を聞きたかったんだ?」
○○
「えっと……その、道を教えて欲しくて」
古高 俊太郎
「道?」
○○
「はい。……実は花里ちゃんの代わりに、秋斉さんからここのお店のお団子を買って来るようにと言われたんですけれど……いまいちお店の場所が分からなくて」
古高 俊太郎
「代わり?花里はんの?」


私は花里ちゃんの事を話しながら、秋斉さんからもらった地図を二人に手渡す。
二人はそれを見つめると、すぐに顔を上げた。


高杉 晋作
「事情はわかった。来い、案内してやる。」
古高 俊太郎
「ここの店やったら、存じてます。さ、○○はん、行きまひょか」




花里のブログ



声が同時に重なる。それと同時に、二人の掌も私の掌に重なって。
あまりに突然のことで、思わず両の掌と、彼らを交互に見つめる。
繋がれた掌から伝わる感触。手の大きさ。絡まる指の長さ。それらは左と右では――当たり前だけど、やっぱり違っていて。なんだか息が詰まった様に、上手く言葉が出てこない。


だけど、そんな私を余所に――


高杉 晋作
「桝屋殿。○○の案内は俺にまかせて、さっさと用事を済ませてきたらどうだ?」
○○
「え!?桝屋さん、用事があったんですか?」
古高 俊太郎
「……へえ。これから高杉はんと共に、人に会う用事があるんどす」
○○
「た、高杉さんだって用事があるんじゃないですか!!だったら、道順だけ教えてもらえれば一人で……」
高杉 晋作
「いいからお前は、黙って手を繋がれて、俺の言うことを聞いていればいい」
○○
「……っ!でっ、でも……大事な用事じゃないんですか?」
古高 俊太郎
「……あんさんと居れる時間の方が、大事やと言うたらあきまへんか?
一人でうろうろして、困って鳴いてはる仔猫を放っておけるほど、わてらは薄情やあらへんのや」
高杉 晋作
「……ほら、行くぞ」


そう言うと、二人は私の手を引いて、目的のお店へと連れて行ってくれたのだった。






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