風のかたちⅡ -6ページ目

有期雇用の未来--近未来事業PG雇用WS@本郷三丁目

家のお嬢にゃーがもって帰った090709東大社研赤門総合棟での催しの資料と記録。

http://das.iss.u-tokyo.ac.jp/future/koyou.html

佐藤博樹先生、荻野さん@トヨタのレジュメ、報告・質疑記録は、論点満載、一読三嘆、不謹慎な表現だが面白いというか面白すぎというか。こういう催しの記録は、社研HPで是非公開すべきだと思うほど。


佐藤先生報告は、資料をみるだけで予想通りリクルートW研の090707報告がもとネタ。

https://www.works-i.com/pdf/koyou_style001.pdf

そのうちのテーマ2、テーマ3のうち直接雇用・有期契約雇用--除く派遣労働--にかかわる以下のような法政策的提言


●雇用の安定化をはかることができる、新たな正規社員モデルを提示する
 現在の非正規雇用よりも、雇用が安定する新たな正規社員モデルを提示する。

 そのために、「特約のついた期間の定めのない労働契約」について、特約にもとづく解雇は、労働

 契約法第16条(特に整理解雇の4要素)の適用において、権利濫用にあたらないと法解釈すべき

 である。ここでいう特約とは、勤務地や職種等に対する合理的な限定が付されている場合において、

 その勤務先や職種等での仕事の継続ができなくなった場合は、解雇でるというものである。


報告は、これの基礎になる実証研究の知見を与えて、提言の有効性を説明するものだ。例によって、要領よく具体的で分かりやすい。


荻野さんのは、レジュメをみただけでも冒頭から超論争的--日本型雇用システムはおかしいか?、自由主義者からの批判、社民主義者からの批判、意外に似ている「解決策」--等等、現場で聞いたらさぞ面白かったことだろう。


それで、最初の佐藤先生報告&質疑だが、日本の雇用社会の近未来において実現可能性があり有益な提案と思える。だが、佐藤先生ご本人が「荒削り」といっているように、具体化するための論点は少なくない--仮に立法措置によらず、判例法理にまかすとすれば、例えば、特約付き正社員が、事業所の閉鎖のため特約に基づき解雇されたが

・近傍には同じような事業を行う事業所がある、

・あるいは、その事業所の特約付き職種はなくなったが他事業所には存在する、

・あるいは当初は当該事業所限りの雇用を特約に認めたが雇用継続可能なら近隣地域への配置換えも

 受容すると主張した

等等の場合はどうなるかる。


さらに別の要素を加えて、その社員は組合員であり、労働組合は、特約付き契約の「特約」は解雇の「客観的、合理的理由」に当たらず解雇権濫用になるとして異議を申し立て、当該社員とともに争う姿勢を明らかにした・・・なんてときはどうなるのか。


そういう仮想論点が様々に浮上するだけでも、問題提起の価値はある。それは個別労働関係にとどまらず、集団的労使関係の問題にも広がりうるからだ。


企業内に居すくまらされて、そこで爛熟せざるをえない労使関係・労働組合が、非正規問題であればスローガン的に取り上げておわれるところ、特約付正社員が現実に多数発生したとき、うえのような問題が生じたときにはどうするのだろうか。言い換えれば、従来型正社員組合のウイングがひろがるのかもしれない、基盤の乏しい従業員代表制なんてものがその名に近づくきっかけになるのかもしれない等等・・・夢想もできるだけでも面白い。勿論、それだけではない、つっこみどころ満載の研究会だったようだが。


閑話休題

こういう研究会だけに、フィールドも多彩なのに驚く。社研グループ、司会・玄田先生、質問一番手仁田道夫先生、二番手中村圭介先生はよいとして、某調査官@HLW省、松~日本KDR、さらには自ら規制改革会議と名乗ったA藤先生@N大等と、ネオリベ・社民など,ブログ界的には対抗軸風に図式化されやすいメンツがそろっていたらしい。


「正規の解雇規制緩和の議論はなかったのですか」という質問への佐藤先生の答え「経済学者は、一律の解雇規制緩和をいうけど、私(社会学)は多元的にみる」に、間髪入れず、ゲンダラヂオ先生から「経済学者は、ではなく、多くの経済学者は、です」と合いの手がはいった。

そうですよね、ゲンタラヂオ先生は違いますよねわんわん、経済学者だけど。ワン公的には、質問者ではないA藤@規制改革会議先生に向けた答えと合いの手だったように思えたりもする。


リクルートW研 登録型労働者派遣に関する提言

hamachan先生もご紹介のリクワ研報告「正規・非正規二元論を超えて-雇用問題の残された課題」はコンパクトで、法律論も含めた論点整理がされていてとってもグーにみえます

http://www.works-i.com/flow/survey/koyou_style001.html


テーマ1 臨時・非正規雇用者向けセーフティネット~所得保障と職業訓練を

      セットとした仕組みの構築

テーマ2 常用・非正規雇用者の処遇~新たな正規社員モデルと能力開発

      プログラム

テーマ3 非正規雇用者の契約更新と終了に関するルール~予見可能な雇止

      めルールの構築


と、ぱらぱらみても異存なし・・・テーマ4にきたところで、ちょっと引っかかったので一言。



「登録型労働者派遣制度~労働者派遣の位置づけの見直しと派遣元・派遣先責任の明確」

派遣制度は、重要な社会的機能も存在する。それは、

①企業(派遣先)と登録者を迅速にマッチングする機能、

②派遣元事業主が派遣労働者の交渉を代理する機能、

③職業訓練機能、

④RPO(Recruitment Process Outsourcing/募集や選考、雇用管理の代行)機能、

⑤雇用の創出機能、

などである。マッチング機能だけであれば職業紹介と近いものの、労働者派遣制度が持つ職業訓練機能やRPO機能は、他に代替するところがない。



登録型の労働者派遣においても、労働者派遣制度の社会的機能が存在することを考慮すると、登録型労働者派遣制度の禁止は適切ではない。


個人的には、「他に代替するところがない」といっている「③職業訓練機能」は、常用型派遣(技術者等)に限定的、例外的にみられる機能と理解。登録型派遣にはそのような機能は、法律の建前はともかく、見いだしがたいと思っている。リクワ研の上記評価は過大評価だろう。登録型禁止に反対!!というのなら、制度を労働者にとっても積極的な意味のあるものに改善していく姿勢を明確にしたほうがいい。せめてこれいくらいは踏み込むとか・・・




固有の訓練機能の充実を期待しがたい登録型労働者派遣の現状からは職業紹介との違いが見いだしがたい。派遣制度に期待されていた訓練機能を現実の者とするために、業界出資(必要に応じ政府出資も)による訓練基金の創設、派遣社員の主体的な能力開発を支援する制度-キャリアカウンセリング等をうけるための能力評価休暇、職業訓練をうけるための職業訓練個人休暇等--の創設、などに取り組む必要がある。



働き続けられるという見通しが大切・・・法セミ座談会の続き

「法学セミナー」6月号の座談会「労働の未来を語る」(大内伸哉・労働法、大杉謙一・会社法、大竹文雄・労働経済学、柳川範之・法と経済学)


大竹 有期雇用契約の反復更新で雇用保障が強まる判例法理があります。それがあると企業側は有期契約

  反復更新をせずに、たとえば1期2年半で雇用契約をうち切る・・・そうすると企業は非正規労働者を訓練

  するインセンティブを一切もちません。労働者にとっても2年半で雇用契約がうち切られることが分かって

  ますから、その企業のための訓練を受けるインセンティブはない。・・・派遣も同じです。派遣の雇用契約期

  間の上限(派遣期間の上限のこと?)を厳しくするほどに、同じ現象が起こってきます。

大内 有期契約は何度反復更新されても、いつでもうち切れるようにしたほうがよいというお考え・・・。


しつこいようだけど、例の座談会。大竹先生の批判の矛先は、ちょっとずれているのではないか。また、それは有期契約の法規制についての誤解、実態への認識不足から来ているのではないか。規制の強化と聞くと、反射神経的にネガティブな理屈をいってみたくなる、なんてことではないと思うが。


ワン公のささやかな経験では、非正規の人たちは、有期契約と派遣とをとわず、勤め初めもその後も、ちゃんとした人がずっと多数派なのだ。そして、多くの人は「契約を継続してもらいたい」という気持ち--理由は「この会社が(何らかの理由で)コンビニエント」、「契約が切れたら次が不安」など一様ではないたろう--があるから、しっかりやろうということになるのだし、そんな中で幅広い仕事への意欲、言い換えたら「基幹化」意欲もみせるのだと推測している。無期契約の正社員の場合が評価・昇進・昇格のサンクションなら、非正社員は、契約継続のサンクションなのだと思う。働いている側のモチベーションは、反復更新有期契約の雇い止めと解雇権濫用法理なんてところとは別のところにあるのだと思う。


雇う立場でいっても、少なくとも労基法14条、労働契約法17条とか告示357号とか法令は遵守するけれど、万一の雇い止めのときを想定して律儀に契約を切るかと言えば、ちがっているのだなあ。先生のいう「有期雇用契約の反復更新で雇用保障が強まる判例法理があります。それがあると企業側は有期契約の反復更新をせずに、たとえば1期2年半で雇用契約をうち切る」は、事実としても、ごく一部にあてはまるだけであること。


この話は、厚生労働省「有期契約労働者の雇用管理の改善に関する研究会報告書」(平成20年7月)の事業所調査結果をみてもはっきりしているのじゃないか(ワン公のところだけじゃないと)。


 ○いずれの就業形態も更新回数「3~5回」が最も多いが、その他パート、短時間パートでは「11 回以上」な

   どの更新回数が多い割合が高くなっている。

 ○3回以上の更新の比率は、契約社員(最上列)58.3%、嘱託社員(2列目)7.13%、その他パート(3列目)

  68.5%、短時間パート(最下列)66.5%

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凡例 青色=1回、濃黄=2回、薄黄=3-5回、水色=6-10回、白色=11回以上、赤=不明

 

働く側の気持ちの話:上記厚生労働省報告によれば、多くの有期契約労働者は、今の会社で働き続けることを望んでいる--反復更新がありうることを前提にしているのであって、大竹先生の言うような事態は想定されていないのだろう--。また、有期契約労働者は、雇用の安定が仕事に意欲的に取り組むうえで重要と感じている。つまり、ここで働き続けられるという安心が働く人のモラルにはとても大切。それは、正社員と同じことなのだ。


 ○契約更新を希望する人の割合は5割以上で、今後継続して勤めたい期間が5年超の割合も高い。さらに

  「正社員化希望」を合わせれば、契約社員75.3%、嘱託69.1%、その他パート72.4%、短時間パート

   66.6%が「現在の会社」での勤務継続を望んでいる。この数字は、景気拡大期にあった平成16年のも

   ので、雇用不安から契約の継続を望んだわけではないと思われる。

 ○現在の会社で働き続けることを希望する人は、仕事に意欲的に取り組むうえで重要なこととして、「希望す

  る仕事・労働条件での雇用契約の更新」、「勤務先で希望するだけ勤め続けられること」を挙げる割合が非

  常に高い(85.6%)


これからは、有期契約の反復更新を機械的に制限したりすれば、働く意欲が損なわれるだろうことが容易に想像されるが、少なくとも現在の法規制のもとでは、大竹先生がいうようなことは、実態として存在しないか、あってもレアなケースと思われる。


事情に変化なかりせば働き続けてほしいと思う人もいるとして、職場や事業所をめぐる環境は、ときに北風、ときに土砂降りになることもある(だから、かつての東芝柳町工場だかみたいに、あなたさえ良ければ何時までも働いてもらうからとは口にはしないが)。問題は、それ以上に、長く働いてもらうほど「正社員」との差とかに不満とか納得できない思いがたまっていくらしいこと。


そこで彼(彼女)らが同じ職場で働き続けるのを難しくするいくつかのパターン--例えば、キャリアの行き止まり感、意欲の低下、人間関係の悪化など、雇う側でも見過ごしにしずらいパターンが現れることがある。業績悪化での雇い止めとは別の非正規の人たちが突き当たる壁みたいなものといったらいいだろうか。


本当は、働いてもらっている限りは、外部市場的に納得・満足のいく処遇、正社員との比較でも内部公正原則に照らして納得のいく処遇、もっといえば、業績とか職能に応じて変わっていく、改善していく形が望ましいと思うのだが、その機運は、少なくとも我が社には薄い。

大竹先生、お話の趣旨が・・・?

「法学セミナー」6月号の座談会「労働の未来を語る」(大内伸哉・労働法、大杉謙一・会社法、大竹文雄・労働経済学、柳川範之・法と経済学)


「歴史的な経済変動のなか、労働保護規制の強化が主張されるようになっている。これは同時に、企業の負担を増す方向へと、雇用をめぐるルールの変更が求められていることを示す。」という問題意識に、大竹、柳川両先生だし・・・と。


柳川先生は、労務屋さん評「労働研究者ではない経済学者によくみられる論調」に尽きる。すっごい優秀な先生と百も承知の上<まっ、ご勝手に>と。問題は、影響力抜群なだけに、大竹先生だろう。例によって「経済学的思考のセンス」満載ながら、ワン公には、ン?と引っかかるところも一つ二つ。


目新しいと思ったのは、有期雇用契約の反復更新に解雇権濫用法理を類推適用することで企業・労働者双方の訓練インセンティブを阻害としているとしているところ。有期契約はいつでもうち切り可能--期間満了なのか期間途中かは発言からは分からない--ならば、労働者・企業ともに訓練インセンティブが働くようになるという発想だ。

 

大竹 有期雇用契約の反復更新で雇用保障が強まる判例法理があります。それがあると企業側は有期契約

  の反復更新をせずに、たとえば1期2年半で雇用契約をうち切る・・・そうすると企業は非正規労働者を訓練

  するインセンティブを一切もちません。労働者にとっても2年半で雇用契約がうち切られることが分かって

  ますから、その企業のための訓練を受けるインセンティブはない。・・・派遣も同じです。派遣の雇用契約期

  間の上限(派遣期間の上限のこと?)を厳しくするほどに、同じ現象が起こってきます。

大内 有期契約は何度反復更新されても、いつでもうち切れるようにしたほうがよいというお考え・・・。

大竹 むしろそうして、労働に応じた賃金の支払いがなされるような競争的条件の整備をしておけば、訓練の

  インセンティブを殺ぐことはなかった。

大杉 「労働に応じた賃金」は、徐々に上がっていくイメージですか。

大竹 わかりません。訓練に応じて生産性がいつまでもあがるタイプの職場でなければ、途中で止まってもよ

  いでしょう。少なくとも訓練をして生産性が上がったら賃金を上げざるを得ないような環境を整備する必要が

  ある。

大内 そういう賃金制度は実現できますか。

大竹 私は、正社員にも期限付きの形態を増やしていくことで、同じようなことが実現可能だと思います。 


有期雇用契約とひとくくりに仰るけど、直用なら、究極有期の「日雇い」、所謂「パート・アルバイト」所謂「契約社員」「嘱託社員」・「期間工」、最長5年契約可能な「専門的知識等」の者(労基法14条1項)まで幅がある。


間接雇用の派遣も登録型は有期雇用契約だが派遣の雇用契約期間の上限(派遣期間の上限のこと?)を厳しくするほどに、同じ現象が起こってきます。」論外。例えばJILPTの小野研究員のDPがまとめた先行研究や、派遣元ヒアリングは、派遣期間の上限がある製造業派遣だけでなく、上限のない26業務についても雇う側又は使用者側に訓練インセンティブが働かない事情が読みとれる。何を根拠にいっているのか分からない。 http://www.jil.go.jp/institute/discussion/2009/09-03.htm


訓練インセンティブや雇い止めとの関わりで「専門的知識等」の者、「日雇い」を除外しても、残る有期契約の類型毎に、雇い止め規制がなければ訓練インセンティブが高まるとまでいえるのか。雇用の実情からそんな因果関係は見いだしづらいのではないか。


雇う側には、労働者類型別に事情・心配りに違いがある。きれいな言葉で言えば雇用ポートフォリオとか雇用の量的管理だが、この辺の理論的整理--いわゆる人的資源の企業業特殊性--、それから実証は少なくない。ずっぱりとリアリティを感ずる図式を示せば、平野先生@神戸のこれ。大阪府事業所調査・事業所長が回答の結果からプロットしたものだ。


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人的資源特殊性=企業固有のノウハウ、組織都合への拘束性等、業務不確実性=マルチタスク、他部署との調整等の2軸上では、雇う側は、特にパート、派遣に対しては、企業固有のノウハウ、業務の幅広い経験の必要性が低い仕事=もともと訓練インセンティブが乏しい種類の仕事を委ねる。請負社員は、契約の性質上から使用者側に訓練も含めた労務管理全般の責任はない(安全衛生関連の指揮命令を除く)。契約社員だけが、正規と非正規の中間形(ハイブリッド)として他の非正規とは質的な違いを感じさせ、訓練インセンティブも他と同一に議論できないのではないか。


雇う側の訓練インセンティブは、雇い止め規制との関係ではなく、企業組織内の仕事・責任の分化との関係でとらえるのが自然ではないか。また、雇う側の訓練インセンティブが雇い止め規制を緩和して高まるという実証も寡聞にして聞かない。座談会でも、上に引用した箇所とは別のところで、大杉先生@中央大・会社法が次のように指摘したのに、大竹先生はノーアンサーだったようにみえる。


大杉 雇い止めや解雇を容易にすることで雇い入れが円滑になる効果はあるように思います(が)・・・雇用しや

 すくすることで本当にその人達に技能が付くのか、という疑問も感じます。失われた10年で若い人たちが非

 正規に追いやられた結果、技能集積の場から遠ざけられてしまったという結果はある。しかし法制度を変えて

 エントリーしやすくなると、非正規社員にも技能蓄積のチャンスが従来より増えるという因果関係は本当にあ

 るのか。この点、どう考えればよいのでしょうか。


大竹先生の話には、「反復更新自由・雇い止め自由」のほかに「生産性に応じた賃金」「有期契約正社員」まで出てくる。日経新聞への派遣切りに関する寄稿をみるかぎり、非正規の雇用の安定、能力・処遇向上といった視線もあり、そうしたことを可能にする雇用社会のイメージもお持ちなのかも。そして、そのイメージは、玄田先生の言う『非正規の人材化・正規の仕事化』、hamachan先生の言う『非正規のメンバー化、正規のジョブ化』とも通底しているのかも、と感じたりもするのだが、まず解雇等の規制緩和と結びつけて考えようとする「思考のセンス」だけは何とかならないのかと思う


オイラ的には、労務屋さんのいう「正社員の中間的形態」--地域限定とか事業限定とかだ。ただし、単なる雇用契約期間の上限の緩和・10年化等が先行する議論には疑問あり--は検討に値すると思う。ハイブリッド型に位置づけられるような雇用形態からの移行は現実感があるし、実際の事例もあるはず。また、非正規の企業内での働き方に照らせば、均衡又は均等処遇というものを考える方が先だろう。雇い止め規制云々は、それらとの絡みで必要ならば取り上げるものという感覚だ。というのは、


平野先生のもう一つのプロット-働く側のデータからのプロットをみれば、雇う側がイメージする以上に、企業特殊熟練の方向によっていて、働く側には企業特殊化への意欲が感じ取れるからだ。また、こういう意欲は、現行の有期契約に関する法規制--雇い止めについての判例法理や契約法17条や大臣告示357号等--がプラスの方向で作用している可能性もあるのかもしれないとさえ思う。

 平野先生曰く

 「非正規労働者は、事業所が求めている以上に企業特殊技能の取得に意欲的である。」

 「企業は、高い意欲を持つ非正規労働者を十分に活用していない・・・ことを示唆し、意欲に報いる均等処遇

 を施せば生産性を向上させる可能性を示している」

 詳しくは、「あつはなつい・・・蔦の絡まるチャペルのある大学」

  http://ameblo.jp/hidamari2679/entry-10123626108.html


風のかたちⅡ


雇う側がこういう働く側の意欲にたいして相対的に冷淡である理由のなかに、仮に法規制の存在があるのだとしたら、つまり、経営者が、非正規の皆さんが意欲的でも、契約期間が過ぎれば終わりの関係なのだからと考え、実際にもそうしているのなら、その限りで規制の是非を議論したらよい。初めに規制緩和ありきではない。実際のところ、日本には反復更新自体についてEU的な法規制はないし、均等処遇原則もない。企業は、そういう規制の緩さを享受する方向で非正規を雇用している。大竹先生のいうような、有期契約の上限期間内でやとって更新さえしない過剰コンプライアンス企業「企業側は有期契約の反復更新をせずに、たとえば1期2年半で雇用契約をうち切る」って、ほんとうにあるのかぁ??と思う。

ことしの労働経済白書--雇用安定・人材育成の雇用システム 補論

今年の労働経済白書のココロは、「雇用安定機能と人材育成機能を備えた雇用システムの構築に向けて」だと勝手に解釈して、日本の雇用システムのこれからを考える手がかりになりそうに思える言葉を、補論として引用。仁田・久本編のほうを引くべきなのだが、平野先生@神戸の書評から。代用というのではなく、一つの独立した著作物としての平野先生の言葉として。


平野光俊 書評/仁田道夫・久本憲夫編『日本的雇用システム』日本労働研究雑誌No.588

 ・・・振り返れば1992年から2003年までの10年あまり、金融引き締めに続く株価と地価の下落およ

 び需要縮減と供給過剰によって日本経済は停滞した(いわゆる失われた10年)。このとき本書の編

 者ひとりである仁田道夫氏が言うように「日本の大企業経営者の多くは、この経済危機を経験し

 た後にも、なお解雇回避の社会的契約の全面的放棄には消極的であった」(46頁)。しかし、今回の

 世界同時不況期にあっても、経営者は雇用維持の方針を継続するであろうか、あるいは経済収縮の

 インパクトは経営者の雇用維持の規範を弛緩させてしまうのであろうか。この不況を経たあと雇用シ

 ステムはどのように変容するのであろうか。これらの解答を得るには、「日本」の雇用システムの現

 代に至る生成と変容の歴史を丁寧に振り返り、そこに見いだされる「日本的」雇用システムの制度

 的叡智を再確認することが肝要となるに違いない。・・・

 ・・・第1章「雇用の量的管理」(仁田道夫)は、正社員の長期安定雇用(言い換えれば終身雇用)

 主義の生成と定着そして弛緩の過程を、企業の解雇回避慣行の歴史的変遷から明らかにしようと

 する。ここで取り上げるシステムは「雇用の量的管理」である。終身雇用といっても市場経済である

 以上は、雇用調整は不可能である。問題は雇用調整の有無ではなく、その仕方にこそ長期安定雇

 用主義の変容が現れるからである。

  分析は前史(第2次対戦以前の時期)から始まる・・・が、容易に労働者を解雇しないという意味で

 の終身雇用慣行が成立するのは1960年前後となる・・・50年代に続発した解雇反対争議(日鋼室蘭

 争議と三井三池争議)が、指名解雇を避け人員整理が必要な場合でも希望退職によって解決すると

 いう慣行の嚆矢となったこと、そして1955年に設立された日本生産性本部が労使協力を基調とする

 生産性三原則を普及したことから、次第に労使間で終身雇用概念の社会的契約が根付いていった

 ことが跡づけられる。

  後半では、終身雇用を支える雇用の量的管理の仕方を「雇用ポートフォリオ・システム」として捕捉

 し、その歴史的変遷が論じられる。ここでは非正規の雇用調整に関わる役割も分析の俎上にのる・・

 非正規を含めた雇用ポートフォリオ・システムの変遷を分析することが、正社員の雇用保障の仕方の

 変容を明らかにすることにつながる・・・我が国の雇用の世界にポートフォリオという言葉が初めて登

 場したのは1995年の日経連の報告においてである。しかし、考えてみればこれ以前から、日本の企

 業は様々の類型の人材を様々な組み合わせで活用してきた。とすれば「日経連主唱の雇用ポートフ

 ォリオ・システムは、常にある雇用ポートフォリオ・システムの90年代型の特殊モデルに過ぎない」

 (47頁)。そして平成雇用不況期は日経連の雇用ポートフォリオの具現化の時期であった。

  その中で「従来型の正社員はリストラに直面して数が減り、成果主義導入など処遇面での変化も

 起きたが、再編された日本的雇用システムの中においても、雇用面での基本的位置づけは変わら

 ぬまま中心的存在として存続することになった」(71頁)のである。しかし今後はどうであろうか。

 ※ボールド体は責・ワン公


平野先生の最後の一言「しかし今後はどうであろうか」は、やけに意味深に感じられる。単に先のことは不知という意味か、それとも、正社員の位置づけすら変わりうるという兆しを既に感じていらっしゃるのか。