あれだけ注意したにも関わらず、浴室でも翔ちゃんにスキにされた俺は結局その日の講義を欠席する羽目に陥っていた。
翌日になってもダメージがとれない。
俺がもっと毅然と拒否しないと…
こんな事を繰り返していたらとんでもないことになりそうで、奇妙な不安の様な感情が湧き上がっていた。
『大野っ?』
大きな木の下の石の椅子に腰かけていた俺を青木が覗き込む。
『まだ顔色悪いみたいだけど、大丈夫なの…?』
「ああ…熱は下がったから…。」
青木には熱が出たことにして欠席の連絡を入れておいた。
今日は昨日の分のノートを写させてもらえることになっていたが、体がだるくて仕方がない。
『今日も休んだ方が良かったんじゃない…?』
「でも…受けないと分からないところもあるし…。」
『まあ、休むと評価が下がるからね…ひとまずノートはコピーとってあげるから今日の講義だけ乗り越えよう。」
励ますようにそんな事を言いながら俺の横に腰かける。
本当に親切ないい奴だ。
俺は彼女の肩に頭を預けて瞼を閉じた。
青木が知り合いと簡単に言葉を交わすのが遠くに聞こえてくる。
俺は心地よくってそのまま瞼を閉じていた。
『なんか、心配だな…。』
視線を感じる。
<来年は留学するんでしょ…?>
『そうだよ。私が留学したら大野の事頼むわ。』
そんな会話が聞こえてくる。
そうだった。
この頼りになる友達はいずれアメリカに旅立ってしまうんだった。
寂しいな…
だが、自分のやりたいことのために頑張る友人を応援したい。
そんな複雑な気持ちを持て余しながら、心地よさに身を預けていた。
◆◆◆◆◆ 翔
俺は親父と話が支度でサクライの本社を訪れいたが、入れ違いになって会えずじまいになっていた。
飛び込みの方が捕まるかと思ったのに、仕事に追われて会社にも姿がない。
「これからのスケジュールを教えて貰えませんか…?」
『そうおっしゃられても…。』
セキュリティーは厳しい。
いくら息子でも教えられないらしい。
「どうしても相談したいことがあるんです。」
『こちらから連絡を入れてみますからお待ち願えませんか…?』
仕方がない。
俺は長椅子に腰かけると、どっかりと座って待つことにした。
もっと早く会いに来るべきだった。
家にはほとんど帰宅してる様子がない。
これ幸いだと好きにさせて貰っていたが、肝心な事を忘れていた。
あの約束。
親父が勝手に反故にするとは思えないけど、一回きちんと念を押してい置きたい。
じゃなきゃ…
考えると嫌な事ばかり浮かんでくる。
ダメだ…
智くんは…
≪翔さん。≫
顔を上げると、そこに国分さんが立っていた。