@応鐘の実①621「微熱 3」 | 青くんの部屋

青くんの部屋

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俺はわざわざ別室に案内されていた。

国分さんは俺が本社にやって来て、父親に会えないでいることが申し訳ない様子だった。

 

 

『本日は終日こちらに戻らない予定なんです。』

「聞いてる。だらら、場所が分かれば会いに行こうかと思ったんんだけど…無理だよね…?」

 

 

先ほど別の秘書さんに断られたばかりだ。

 

 

「仕事の邪魔をする気はなかったんだけど…。」

『邪魔だなんて…最近あまり本宅へ帰宅されていない様だったので気になっていたんです。』

 

 

国分さんは少し焦っているようだった。

違う。

不満…?

何だろう。

あ…

 

 

「親父は仕事なんだよね…?」

 

 

顔が歪む。

 

 

『小用が合って、お休みを取られるとだけ伺ってます。』

「…女なんだ…?」

『おそらくは…。』

 

 

参ったな…

親父のプライベートに立ち入る気はなかったが、こちらだって急ぐんだ。

 

 

『翔さんは、その方の事を何か伺ってらっしゃいますか…?』

「…いいや。」

『全然ですか…?』

「全くなにも知らない。聞いていない。」

 

 

俺の答えに国分さんは大きくため息をついた。

これは珍しい事だった。

きっとその愛人に対していい印象がないんだろう。

 

 

『差し出がましいんですが…。』

 

 

だが、言いかけておいて躊躇したのか止まった。

 

 

「何…?」

 

 

先を促す。

 

 

「国分さんっ。」

『会長は……その方とご結婚なさるおつもりです。』

 

 

 

 

「え…。」

 

 

さすがに驚いた。

 

 

「国分さんは、その女性に会った事があるの…?」

『いいえ。』

「じゃあ、親父がそう言ったんだ…?」

『そう言ったニュアンスでした。』

 

 

嘘だろ。

信じられない。

愛人を作ってるだけでも信じられなかったのに、結婚だって…?

だが…

親父も年だ。

俺達が大人に成りつつある今、自分の幸せを考えたところで何も言えない。

でも、もしそれが本当なら、いろいろ整理するんじゃないのか…?

跡継ぎ問題や財産問題。

親父の事だ。

きっと前もって整理するに違いない。

やっぱり智くんにもあの話をするに違いない。

ダメだ。

それだけは絶対させない。
 

 

「その女性の住まいってどこですか…?」

『翔さん…。』

「いきなり押し掛けたりしません。でも…親父と話さないといけない事があるんです。待ち伏せて、捕まえます。」

 

 

あの事をもう一度確認しないといけない。

そうしないと俺は安心できないんだ。

 

 

『わかりました。』

「…。」

『少しお待ちください。』

 

 

国分さんは部屋を出て行ってしまった。

俺にこの話をしたのは、彼女だって俺に何か動いてほしかったからに違いない。

だが、申し訳ないが、きっと希望通りに俺は動かない。

再婚を反対する気なんてサラサラなかった。

手に汗がにじんでいた。

俺の目的は一つだ。

 

智くんに、どうあっても、腹違いの兄弟だって事は知られるわけにいかない。

絶対に…