2000年になってしばらくの頃、人類には新たな性種が誕生していた。最初はごくわずかな人数に現れる現象で、世界的に広がったウイルスのせいで人類は致命的な打撃を受けていた。
特に女性がそのウイルスへの抵抗力が弱く、世界的に人口が激減。
そのせいか、男子の中に妊娠機能を持つものが現れ始めた。
その新な性種別が、「α」「β」「Ω」
「α」は男女ともに体力知性ともに優秀なものが多く、特に女性は男性と同じ生殖機能を持ち、女性やΩの男性も妊娠させることができた。
その「Ω」は妊娠に特化し、男性でも妊娠可能とな新たな性だが、「ヒート」と呼ばれる発情期があるため、社会生活が困難な場面が多くなっていた。
残る「β」が人口を占める割合が一番多く、平凡な人々をさす。
俺たちのグループのメンバーは、全員「β」だと認定されていたが、たびたび体調を崩すようになった智が、医者の勧めで改めて検査したところ、「Ω」だということが判明した。
そして…
「はい。」
『ありがとう。』
俺が差し出したグレープフルーツを智がおいしそうに頬張る。
つわりのせいで、こういったフルーツがメインの食事になっていた。
こんなので栄養は大丈夫なんだろうか…?
心配だが、医者によると、この時期は食べられるもので凌ぐしかないそうだ。
『おいし…。』
嬉しそうな声を上げる。
体がすっかり細くなって痛々しい。
本当に、そのうち食べられるようになるんだろうか…?
心配している俺の目の前に、フォークに刺されたグレープフルーツが差し出された。
『潤も食べな。』
「いや、おれは…。」
そう言って差し出されたフォーク越しに、じっと見つめてくる智を見た。
パクッ…モグモグ…
『ふふっ…。』
あんなの断れるわけないだろ。
「俺はご飯食べるから、全部食べて。」
『うん。』
素直にモグモグと再開する。
俺はソファーから離れてテーブルに腰かけた。
智は今年で41になる。
超高年齢出産だ。
安全を考えて、帝王切開に決まって予定日も決めてあった。
後は手術を無事終えるだけの体力を取り戻すだけだ。
つわりはそのうち収まるとしても、それでも心配は尽きない。
その事を考えると怖くなるから、考えないようにしているものの、ついつい考えてしまう。
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大丈夫だよ…
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なんだってあんなに自信満々なんだろう。
そうなってしまった責任の一端は俺にもある。
当然、まだ見ない子どもより智の安全の方を考えて、何度か子どもを諦めるように説得した時期もあったが、智は頑として首を縦に振らなかった。
母は強しっていうけど…
俺の食事が終わったころには、満足そうにグレープフルーツを平らげた智がニコニコと笑顔を浮かべていた。
『おかわり。』
「クス…わかったよ。」
俺は新しいのを取り出すために立ち上がっていた。