※妄想のお話です。
改めて書くことにしたので目標を掲げます。
一話を短めにまとめ一日一投稿、を目指して頑張りたいと思います。笑
昨日書き忘れましたが切ない系です!
私的にはハッピーエンドですけど感じ方は人それぞれかもしれないと思い出した今日この頃…←
山風出版。
そこで取り扱っている雑誌『Miyabi』が俺の所属する部署だ。
情報誌として結構有名だったけど、最近は海外の雑誌が多数進出してきて売り上げが下火。
アイドル情報、ファッション、占い、釣りやアウトドアキャンプの情報だったり…
引いては俺ら社員が下手くそなコラム書いてみたり。
とにかく必死で色んなことに挑戦してきたけど上手く数字は伸びず。
だから人気者をレギュラーとして取り込みそのファン層を獲得したい、というのが今回の狙い。
エッセイスト兼イラストレーターの『Sakura』はその独特のタッチや考え方、捉え方など
若者からお年寄りまで幅広いファンを抱えている。
だけどSakura先生は自主出版でしか仕事をしない変わり者で、どれだけ大手が高い報酬を出しても断っていたともっぱらの噂だ。
取材すら受けることがないし謎だらけの人だった。
うちが打診したのは毎月のイラスト付きのエッセイ。
なるべく報酬は高めにしたけど、大手が積んだ大金からしたら雀の涙程度だろう。
それ位ダメもとで代理人を務める男に手紙を送ったんだけど、まさかのOKで。
(本人については謎だらけだったけど、代理人だけは窓口として自著の最後のページに毎回記載されていたからコンタクトをとることが出来た。)
日時を指定された手紙が送られてきた時はいたずらじゃないかと疑った程。
まぁ例えいたずらだったとしても、この共作に社運をかけているんだからただただチャンスにしがみつくしかない。
そう思って出向いたのが、あの桜の木の下だった。
「…わかりました!じゃこの内容で進めてみます~。」
「ありがとうございます。すみません、無理言ってしまって。」
一通り打ち合わせが終わり一息つく。
小さな喫茶店には角テーブルが5つと、カウンター席5つ。
俺らが座ったのは大野さんのお気に入りの席らしい、奥から二番目のテーブルだ。
客はカウンターに1人いるけど、店内にかかるオルゴールのせいで俺らの声は届いていない。
『喫茶シオン』。
大野さんの行きつけの店らしい。
蔦に囲まれた小さな外観からは想像できない程天井が高い。
窓の外が蔦で見えないためか外の世界と遮断されて時の流れがどこかゆっくりしているような、不思議な空間だ。
落ち着くからよくここでかいてる、と言ってた意味がよくわかる。
『昔』一緒に住んでた家によく似てるから。
まぁただひとつ気になることは
「お待たせしましたぁ?こちら濃いめのココアとカフェラテになりまぁす?」
この独特の店主の発音だ。
ものすごい耳障り。
同い年くらいに見えるけど実際いくつなんだろうか。
父親が亡くなり若くして店を継いだらしいその男は、丸でも四角でもない、三角形の眼鏡をしている。
若く見えるのにちょび髭を生やしていることも気になって仕方がない。
全てが違和感。
それに濃いめのココアはもはや液体ではなくドロドロだ。
だけど大野さんは満足そうにそれを啜る。
「は~おいし~。…桜井さん、カフェラテ好きなの?」
「あ、そうなんです。ブラックも飲むんですけど、カフェラテが多くて。」
「じゃぁ~…ねぇマスター。」
マスターと呼ばれた語尾の気になる男がはぁぃ?と独特の返事をする。
「シナモン持ってきて~。」
「わかりましたぁ~?」
シナモン?と聞くと、そう、と大野さんが嬉しそうに頷く。
「きっと気に入るよ。シナモン。おいしーもん。」
…それは人によるのではないだろうか。
シナモンなんてハイカラなもん(?)あんま口にしたことない。
…もんもん言ってんなさっきから。
「どぉぞぉ?」
「ありがと。」
ほら、と渡され、仕方なくそのシナモン?を口に…
「ちょっ!?桜井さん、それ食べるもんじゃない!!」
………え、どゆこと??
きょとんとすると、大野さんが噴き出す。
「ぷっ…んふふふ…、それね、かきまぜんの!カフェラテを!」
笑いながら大野さんが言う。
え、マドラーってこと?
半信半疑で3周させ、ゆっくりと口に運ぶと…
「……うんんんんんんっめ!!!ナニコレ!?」
風味が格段に上がって、優しい香りがまろやかなカフェオレとマッチする!
え~俺こんな味好きだったんだ!
シナモンの香りが苦手だと思ってたのに!
ていうか、粉じゃないんだシナモンって!
「んふふ。好きだと思った。」
大野さんが嬉しそうに笑って、ドキッと心臓が跳ねる。
そういうところ。
ほんと、変わらない。
いつも教科書では習わないような、俺の知らないことを教えてくれるんだ。
やっぱり趣味が合うね、って笑ってくれるんだ。
嬉しそうに、どこか気恥ずかしそうにはにかみながら。
…まぁ
そう言いながら、期待させていつもあなたは壁を作ってしまうんだけど。
一定線を絶対超えさせない、『拒絶』という壁を。
「良かった、気に入ってもらえて。そういや話戻るけどさ…。無理言ったのはこちらこそだよ。」
「…?どういうことですか?」
無理を言ったのはどう考えてもうちの方。
こんなあまり有名ではない出版社にどうしてこんな人気者が?と発案者である俺ですら疑問だし、
社内の人間は未だにSakuraが本物か半信半疑なレベルだ。
「休みなのに、こんな早朝に来てもらっちゃって。」
ああ、と納得する。
確かに今日は休日で朝一番の電車に乗ってきた。
珍しいなと思ったんだ。
大体こういう在宅で作業する職業の方は夕方や夜などを指定して、陽に当たりたがらない人が多い。
大野さんも肌は白いし、あまり日中でも歩いているようには見えない。
「この後何か予定でも?」
「うん。んふふ…この後時間ある?」
「あ、大丈夫ですが…」
「でーと、しよっか♪」
………へっ??