もう一つの物語り【愛染】292 | シンイLove♥魅惑の高麗ライフ

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あくまでも管理人の妄想の世界です。
ご了承の上お読みくださいませ。

 

 

 

 

アジンは物憂げに息を吐くチェ・ヨンを見ていた

 

『ああ…何処までもユ先生を思っているんだ

もしかの時の為に持ち出す事は秘密に

あちらへ無事に着いたときに知らせるつもりなんだ…』

 

「ところでどうやって開けましょうか

お身内の方しか鍵をお持ちではないのでは」

 

アジンにそう言われヨンは胸ポケットから

小さな鍵を取り出すとテーブルに乗せた

 

「しばし拝借して来た

普段は持ち歩いていないので見つからぬと思うが

そしてくどいようだが、くれぐれもウンスには」

 

アジンは置かれた鍵を手に取ると

 

「ご心配なく、細心の注意をはらいます

終わりましたら連絡を差し上げます」

 

幾分ほっとしたような表情のヨン

もう一度胸ポケットから二つ折りの封筒を取り出し

 

「済まん十分かどうかは分からぬが

使って貰えると有り難い」

 

「遠慮すべきところでしょうが

チェ・ヨンさんの意思を尊重しましょう

必要経費としてお預かりさせて頂きます」

 

そう言って封筒を受け取ったアジンに

ヨンは立ち上がると深々と頭を下げた

そして日常は戻り、それぞれにやるべき事をやる

 

翌日マンション一階の仕事部屋

ソファーの上にはヨンのスポーツバックが置かれている

先程から時計をちらちら気にするヨン

 

「あれっそう言えばジノ君遅いわね

何かあったのかしら、私ちょっと外見てくるわ」

 

ばたばたと部屋を出ていくウンス

五分程で戻って来た

 

「見当たらないわ、何か用があって直接帰ったんじゃない

ヨンも行っていいわよ、ジノ君来たら伝えるから」

 

ヨンは静かに立ち上がると

 

「ああ、頼んだ」

 

そう言うとバックを持ち孤児院へと向かった

孤児院に着き体育館に入ると

既に胴着と袴に着替えたジノが壁際に正座していた

ヨンに視線を送る事もなく目を閉じて

ピンと背筋を伸ばしている、一見集中しているようだが

ヨンにはジノの気が乱れているのがわかった

だが敢えて何も言葉はかけずに、いつも通りの練習を始めた

 

ジノは真面目に練習をこなしてはいるが…

結局、最後までジノの様子は変わらず練習を終えた

ヨンの側に駆け寄りじゃれつく事もなく

視線を送って来ることもなかった

ジノが何かを思い煩っている事は確かなようだが

ヨンはそれを聞き出すことはせずそのまま孤児院を後にした

そのヨンの背中をジノは体育館の窓辺から見ていた

 

『師匠…どっか行っちゃうのか』

 

ギュッと唇を噛むと踵を返し図書室へと向かった

そこへやって来たのはキム・ヘジン

あのカンギョに物申した中学三年生

 

「ちょっとジノ、もういい加減にしたら

カンギョさん達はアメリカから来たって聞いたよ

高麗なんて有り得ないし、場所じゃないんだよ

時代が違うの、タイムマシンでもなければ無理よ

ジノもタイムマシンは知ってるよね

そんな物ない事も知ってるでしょう」

 

ジノはヘジンをきっと睨むと

 

「だってトクマン兄ちゃんが言ったんだよ

カンギョに準備しなくていいのかって

高麗に戻るって…確かに言ったんだ」

 

ヘジンは呆れたように座ると

 

「じゃあさ聞くけど、もし本当にタイムマシンがあって

高麗時代に行けるとしたら、ジノはどうするの?

あの人達と高麗に行くとでも言うの?

高麗時代ってどんなか知ってる?

テレビもゲームも車も、な~~~も無いんだよ

エアコンだって無いんだから

冬寒いよジノは寒いの駄目でしょう」

 

ジノは無言で唇を噛んでいる、今にも血が出そうだ

ヘジンは右手を伸ばすと、ジノの頬をつんつんと突く

 

「やめな、血が出るよ…仕方ないから一緒に調べてあげるよ

どんな時代か分かれば変な考えも止められるでしょ

どうせまたカンギョ達の冗談に決まってるって」