禁じられた餌やり | 日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

野良猫1匹を巡って、いろんな人が関わっている。
それを繋げていくと、町がそのまま「形のないシェルター」になるよ。
小さな町で、sakkiが紡いだ“猫を巡るコミュニティ”のお話

鶴亀宅の隣のパインハウス1階に住んでいる峰リカコさん。


鶴亀さんの「餌やりやめます宣言 」で飢えた猫たちの動線の変化にいち早く気づき、

「我が家の猫と、庭の猫とは親戚です。せめて食べさせてやること位、私が協力します」と言ってくれたのは去年10月でした。


以来半年。おかげで10匹を超える猫たちは、飢えることも命を落とすこともなく、厳しい冬を越えることができました。



しかし、そのリカコさんから苦しいメールが届いたのは、今年3月28日のことでした。


手紙今まで庭の猫たちに餌やりをしていましたが、続けられなくなりました。

敷地の一角に大量の糞が発見され、大家さんから、餌付けをやめてほしいと注意がありました。

大家さんはとても良い人なので、従わざるを得ません。

本当に、お役に立てず申し訳ありません」


数日前、敷地の植栽の手入れのために業者が入ったそうです。そして、

パインハウスのもっとも鶴亀宅から遠い一角の通路に、猫の糞が山のように溜まっているのを発見ショック!あせる


これは凄い、これでは近くの部屋の人は窓も開けられないだろうと最上階へ大家さんを呼びに走り、大騒ぎになったそうです。


その時、リカコさんがベランダに置いていた3段重ねの箱から、

白黒の猫がバラバラと飛び出して行くのを、大家さんは見てしまったそうです。


パインハウスの大家さんはこうして、

自分の経営する賃貸マンションの1階で、賃借人が猫たちに餌を与えていたことに気づいてしまったのです爆弾



           初っ端から凄い画像ですみませんあせる

           ある日マルメロで拾ったウンチの山。車の陰になって気づかなかった花壇に溜まっていたもの。

           猫の糞害はとてもデリケートで、猫におおらかな方でも「ウンチがねむっ」と言うことが多い。

           私は自転車に専用トングとビニール袋を常備していて、見つけたらどこであっても拾う。

           そしてデモンストレーションよろしく、「拾えば、臭くはなくなりますよ」と言うことにしている。

           100均でトングとビニール袋を買って、差し上げることもある。

           毎日拾うようになったら臭くなくなったわ、とたまに言われる。こんなに嬉しいことはない



遊歩道に面した住宅地の一角に、10匹以上の若い猫たちが住み付いていて、糞尿被害がないはずがありまん。

実際、私はTNRを進めながら、鶴亀さん並びの3軒のお宅に何度も通って、お話をしていました。


猫のウンチは、臭いです。放っておいて、またここにしたプンプンビックリマークと腹を立てても、当の猫には通じず、臭いままです。

見つけたら、すぐに箸やトングで拾ってビニール袋に入れて、燃えるゴミの日に出してください。

してほしくない場所には侵入防止策をしてください。


ウンチで困っていても、猫を捕まえて殺してしまうわけにはいかないのです。

でも皆さんのご協力で、これ以上数が増えないようにはなりました。

生き物は、みなウンチをします。どうか、功徳を積んでいると思って毎日拾ってやって下さい。運がつきますよにひひ」などと、

冗談交じりにお願いしていました。


昔から猫だらけの地域だったために、半ば諦めムードがあったのだと思います。

どの方も、「それもそうだわ。良いことを聞いたわニコニコと言って下さり、

むしろ、この一帯で初めての一斉TNRを評価して、ウンチを拾ってくれていました。



しかし、件のパインハウスの一角は盲点でした。


住民のプライバシーを守るために、遊歩道側には立派な囲いがあって、敷地の中を覗くことはできません。

1階の住民でさえ通らない場所です。全くの死角でした。

まさかそこに、段ボール2箱分の糞の山ができていたとは爆弾!!  猫以外、誰もそれを知りませんでした。



こうなってしまった以上、リカコさんにこれ以上頼ってはいけないと私は観念しました。


リカコさんは瀕死の猫を見過ごせずやむなく何匹も家に入れています。でもパインハウスは本来、ペット飼育不可なのです。

大家さんがそれを知りながら目をつぶってくれていたのは、リカコさんご夫婦との良い関係があるからです。

その関係にヒビを入れて、住みづらくしたり、あるいは退去を宣告されるようなことだけは、絶対に避けなければなりません。


私はきっぱり、

手紙今まで、本当にありがとうございました。おかげで子猫も無事冬を越せました。

リカコさんはもう、餌やりをしない方が良いと思います。

私も大家さんに会って、事情を聞いて謝って来ます。

それと、ダメ元で、敷地内のウンチを拾うことを条件に、最低限の給餌を黙認してはもらえないか?聞いてみようと思います。

多分玉砕すると思いますけれど」と返事をしました。


気の重い役目でした。


けれど、リカコさんが「良い人」と連呼する大家さんは、一体どんな人格者なのでしょう?

一度お会いして、リカコさんがペナルティを承知で庭の猫に給餌をしていた本当の理由を、

この私がお話しなければ、と思いました。



               2015年4月鶴亀邸の庭の猫たち。

               左は、育ちの悪かったひとりっこ。リカコさんや鶴亀さんのおかげですっかり大きくなった


パインハウスの最上階の踊り場からは、例の地下室のある巨大なマンションや、新しいビルや、建設中のマンションや、

その間に埋もれる、再開発の波に乗り遅れたような小さな古い民家が、一望に見下ろせました。


裏の遊歩道で、尋常でない数の猫を見てしまって以来、私はこの現場に張り付いてきました。

なんとか全頭TNRを終えましたが、出会う人はみな曲者で、壁にぶち当たってばかりでした。


この町は、一体どうしてこうなのだろうむっはてなマーク

その答えが、とても贅沢な新しい建物と、古い民家がちぐはぐに並ぶ眼下の景色に、隠されているような気がしました。



最上階に住む大家さんは、70代の好奇心旺盛な、聡明な女性でした。


玄関の叩きに椅子と飲み物を用意してくれて、

「上がってもらうワケにも行かないから、どうぞここに。座ってお話しましょう」と、あちらも、私に興味があるようでした。

私が来ると聞いて、「おばあちゃんは、この間はカラスと闘っていたのに、今度は猫にひひ?」と孫に言われたと笑っていました。


昔、この場所でお父様が開業医をしていらしたそうです。

相続して、賃貸マンションに建替えてここに住んで居る。名刺には(有)パインハウス代表取締役とありました。

「私は古くからのお付き合いを大事にしているのよ。ご近所とは仲良くしないとね」と大家さんは言いました。


私は、この地域に猫が大繁殖しているのに偶然気づいてしまい、鶴亀さんに協力してもらって全頭TNRをしたこと。

しかし、この町にはあちこちに餌をやる人が潜んで居て、道理を説いて聞かせても空回りが多いこと。

鶴亀さんが餌やりを続けられなくなり、それを知ったリカコさんが引き継いでくれたおかげで、猫たちが命拾いしたこと。

迂闊にも、敷地内に糞が溜まっていることにまったく気づかず、この度は大変なご迷惑を掛けました、とお詫びしました。



大家さんは聞き上手でした。


野良猫に餌を与えて手術をしないとどうなるか?

増えすぎた猫と、人とが共存するためにはどうすれば良いか?私がどんな活動をしているか? 次から次へ、質問攻めでした。

しかし、多岐に渡る話題を楽しんでいるだけで、肝心の話に辿り着きません。私は心のどこかで用心していました。


すると、大家さんはこんな話をし始めました。

「そういえば、去年の7月位だったか、子猫を1匹助けたことがあったのよ。

マンションの電気室は奈落みたいになっていて、そこへ落ちたらしくて、”ずっと子猫が鳴いている、大家さん真夜中にすみません”って、

居住者さんが私を起こしに来て。深夜に消防を呼んで助けたのよ。ここの人は良い方ばかりで」と言うのです。


サンボンだ、と思いました。

サンボンは、地下室を出てあちこち冒険しているうちに、誤ってパインハウスの電気室に落ちたのです。

消防隊はレスキューしたものの、健康状態を見ずにそのままリリースしたのでしょう。

その時、後ろ脚は神経を痛めて、真後ろを向いてしまいました。引きずっているうちに、壊死するほどに悪化したのでしょう。

思いがけないところでサンボン受傷の理由がわかりました。


「その猫は、不妊手術の時に後ろ足を1本、断脚しました。リカコさんのベランダの箱にいたのはきっとその子です。

3本足になりましたが、おかげで他の猫と変わらず元気でやっています」と言うと、驚いたようでした。


「お金を払ってそこまでしたのね…。

あなたにしてもリカコさんにしてもお隣の鶴亀さんにしても、皆さん猫が好きで好きで仕方ないのね。

だから庭に猫が来たら、可哀想で餌をやったり箱を置いたりしちゃうのかな?

私には、その気持ちがわからないのよ。


でも、リカコさんが何匹か庭の猫を引き取ったのも、鶴亀さんが庭で餌をやるのも知っているけど、

昔からのお付き合いがあるから、私はなるべく、とやかく言わないようにして来たの。

ご近所付き合いは大事にしないとね」と言いました。


私はちょっと抵抗を感じました。


「いえいえ、私は別に、猫が好きでも嫌いでもないんですよ。最近まで猫を飼ったこともなかったんです。

私がやっているのは、猫のためというワケでもないんですよ。

せっかく縁あってこの町の住民になったのだから、数年でも住んで居る間に、自分でできることはしたいと思って。

それだけなんです。お節介も甚だしいんです。

でも、目の前に困った人や猫が居たら、見て見ぬフリができないのが人間じゃないですか。

電気室に落ちた猫を助けて下さった気持ちと同じです。

リカコさんもそんな感覚で、食べられなくなった猫たちに手を差し伸べてくれたのだと思います。

決して、猫が好きで好きでついやっちゃった、と言うのではないと思いますよ」と返しました。



「猫に餌をやる人はみな、猫が好きで好きでたまらない」。

町で生きる野良猫に、興味も関心も無い人には、そうとしか思えないのかもしれません。


その裏に、消えそうな命に手を差し伸べるために、社会人としての葛藤を背負う覚悟をする人もいれば、

小さな命を慈しむためにこの年まで生かされているんだと、家族と対立しても通そうとする人も居る。


タダの猫キチガイなんて、そうそう居るものではないのです。それぞれに、人間として、切ない事情と感情を抱えている。


だから私はその人達のために、何とかならないかと駆け回って、一緒に道を探して居るんだと、

珍しくムキになって、言いたくなったのです。


「どうでしょうか? リカコさんは、敷地内のウンチを自分が拾うと言って下さっています。

それと引き換えに、猫への給餌を、今まで通り黙認して頂くことはできないでしょうか?

賃貸マンションのオーナーさんに、とんでもないことを言っているのは承知しています。

でも、そうしないと猫たちは行き場所を失ってしまいます。

あの猫たちはこの町で生きて行けるように、繁殖能力を奪われました。せめてこの後、飢えることのないようにしてやりたいのです」



大家さんは、困った顔をするだけで答えませんでした。


その代わりに、そうそう、せっかく来てくれたんだから、隣のビルのオーナーさんをご紹介するわ。まだ若い素敵なご夫婦なのよ」

どうぞご一緒に、と突然誘われて、私は導かれるままに大家さんの家を出ました。


しかし、階下へ降りる螺旋階段の途中で、先を行く大家さんは急に立ち止まりました。そして、

「あなたの心の中は、毎日、猫や、人への思いで満ちているのね。

…羨ましい。

私なんか、このマンションの経営と、自分の行く末のことしか考えていない。心がガサガサの、鬼婆だわ」と、ポツリと言いました。


思いがけない発言でした。

健康で、聡明で、セレブな老後を満喫しているような大家さんの心のうちが、一瞬透けて見えた気がしたのです。


今思うと、長いお喋りの中であの一言だけが、彼女の本音だったような気がします。



             サンボン。左後ろ脚を断脚したのち体重も増え、毛並みも良くなった。

             リカコさんのベランダのハウスの一番上でいつも寝ていたというから、

             足が一本なくても運動能力に問題は無いのだろう

             傷付いた足のまま、出産や育児をせずに済んで良かったと思う


大家さんに案内されたのは隣のビルでした。


中層の綺麗な居住用賃貸マンションで、1階が設計事務所になっており、K-プランニング(仮称)と社名が掲げてありました。

大家さんが親し気に声を掛けると、40代と思われるオーナー夫人が出て来ました。


「こちらが、この辺の猫の手術をして下さったんですって。でもうちの1階はウンチが酷くて…。こちらはどう?」と聞くと、

オーナー夫人は憤懣遣る方無いという顔をして、

「もう、そこらじゅう凄いですよ。植物を植えてもたちまちトイレにされて、夫はウンチ拾い専属です。

正直、頭に来てますプンプンと言い切りました。


すると、デスクで仕事をしていたご主人が立ちあがって、みんなをビルの裏側に案内してくれました。


ちょうど、パインハウスとの隣接部、ウンチの山が発見された通路でした。

「あそこにウンチをするみたいで…。パインハウスさんの1、2階の人は堪らないんじゃないですか?」

「そうなのよ、段ボールに2箱もウンチがあったんだって!もうビックリよ!

2階の人は、大家さんに悪いと思って言えなかったんだって。我慢してたのね。うちの皆さん、良い方ばっかりだから…」


それから、大家さんは饒舌になり、私に話した通りのことを、オーナー夫妻に繰り返し始めました。

私の意見がまったく反映されていないので、私は少し虚しくなりました。


オーナー夫人は黙って聞いていましたが、

「鶴亀さんと向かいの地下室のおばあちゃんが、昔から餌をやってるらしいですね。

車道で何匹も轢かれているし、ここの猫は本当に可哀想。

一度、怪我した子猫を連れて行ったら、地下室の男性はお礼も言わずむしり取るように行ってしまってそれっきり。

…餌だけやって、あとは生きようが死のうが知らんぷり。そういうの、猫にとって一番残酷なやり方だと思う。

だったら最初から、餌なんかやらなければイイのにプンプン と、厳しい顔で言いました。

すると、

「こちらはね、ウンチを拾うから、1階の人の餌やりを黙認してほしいっておっしゃるのよ。猫が好きで好きで堪らないのね…」と、

大家さんの口癖が、絶妙なタイミングでまた始まりました。


オーナー夫人は、

「それはムリビックリマーク オーナーが餌やりを認めるなんて、考えられない。

私たちは皆さんから、高い家賃をもらっているんだから!!」 と言いました。


途端に、パインハイツの大家さんは私に向き直って言いました。

「そういうワケでね。リカコちゃんの餌やりはどうしても認めて上げられないのよ。ごめんね」



…どうやら私は、大家さんのシナリオに載せられたようでしたえっ

大家さんは、最初から「今回リカコさんには絶対に餌やりをやめてもらう」と決めていたのです。


あのウンチ発見事件の後すぐに、隣り合うビルの女性オーナー同士は、散々猫の話をしていたのでしょう。

とりあえず私の話を聞くだけ聞いて、最後はK-プランニングの若いオーナー夫人の口から、

「それはムリ!!と決めゼリフを言い渡してもらう。


そう筋書きを書いていて、大家さんは私をここに連れて来たのだと思いました。


…やられましたガーンでも別に、腹も立ちませんでした。

これが、「ご近所とは仲良くしないとね」とおっしゃる、大家さん流のやり方なんだと思うだけでした。


「その大切なご近所のためにも、

何十年も続いた餌やりと虚しい繁殖の歴史にピリオドを打ち、この町に、猫との共存の新しい仕組みを作り出そう。

その旗頭を、この私が引き受けようじゃあないのビックリマーク

…有能で聡明な大家さんにそう言わせるだけの力が、私にはなかったということですダウン



疲れ果てて帰宅して、メールを打ちました。

手紙リカコさん。ごめんね。やっぱり玉砕でした。私の力不足です。

おかげさまで、猫たちは大きくなりました。きっと自力で食べる道を探すでしょう。

リカコさんも辛いでしょうが、ご自分の生活を第一に。大家さんとの関係も大事になさって下さい。

今まで、本当にありがとうございました」



星空数日後、リカコさんからメールが来ました。

手紙今日、大家さんに挨拶に行ってきました。

餌やりはきっぱりやめ、ベランダの猫ハウスも棄てました。

外が見えないように、カーテンを閉じたまま過ごしています。

見てしまったら涙が出てきそうなので我慢しています。

本当にお役に立たずごめんなさいしょぼんダウン



その日の朝、パインハウスのゴミ集積所に、古びたキャットタワーが出されているのを、私は見ていました。


ペット飼育不可のマンションの集積所に棄てられた、使い込んだキャットタワー…。

それを棄てた人が誰なのか? 私にはわかりません。


でも、何となく物悲しいストーリーが絡んでいるように思われて、つい自転車を停めて、見入っていたのでした。



「私、餌やりをやめます」 と言って本当にやめたのは、私の知る限り、リカコさんが初めてでした。         (続く)







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