「撤退宣言」 | 日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

日々是ねこパト (sakki が繋ぐ地域猫活動)

野良猫1匹を巡って、いろんな人が関わっている。
それを繋げていくと、町がそのまま「形のないシェルター」になるよ。
小さな町で、sakkiが紡いだ“猫を巡るコミュニティ”のお話


雷パインハウスとKープランニング、隣り合う2つのマンションの間に、猫の糞が山となっているのが発見され、

リカコさんは大家さんに、敷地内での餌やりをやめるよう勧告されてしまいました。

私は単身、大家さんに会いに行きましたが、Kープランニングのオーナー夫妻まで登場して玉砕。

リカコさんは、これを機にきっぱり餌やりをやめることになりました。


考えてみれば、大家さんの作戦は見事でした。


この地域の野良猫と人との問題に、私がひとり奔走しているのを知って高く評価して見せながら、

それでも、「賃貸マンションのオーナーとしては敷地内での餌付けを認めることはできない」ことを、

自分ではなく隣のマンションのオーナー夫人に、きっぱり宣言させたのです。

さすがは年の功、人の心や仕組みがよくわかっています。一本取られましたガーン


このまま尻尾を撒いて逃げ帰り、引きこもってしまおうか?…とも思いましたがそれもシャクでした。

前年の7月以来、私は淡々と15匹のTNRをしてきましたが、出会う人出会う人曲者ばかり。

その中で、地域住民としての社会性を感じさせる相手は、大家さんが初めてでした。


私は疲れ切っていました。

でもよく考えると、大家さんは私をケムに巻きながら、ひとつだけヒントを残してくれたことに気づきました。


何とかそれを、ものにできないか…?

ダメ元で、やってみよう。それがダメなら、きっぱりこの現場から撤退しよう…。


諦めの悪い私のクセでした。最後のひと仕事のつもりで、その晩、一通のメールを仕込みました。


手紙K-プランニングさま

先日パインハウスの大家さんと猫のお話で伺ったsakki と申します。

あの節はお仕事中に申し訳ありませんでした。

実は折り入って、地域の猫事情のことで、教えて頂きたいことがございます。

近いうちに、少しお時間を頂けないでしょうか?

お返事をお待ちしております。


自分がやり込めた相手に呼び出されたのです。きっと警戒するでしょう。返事は来ないかもしれない…と思っていました。

何日も音沙汰がなく諦めかけていた頃、

手紙お返事遅くなってすみません。聞きたいことと言うのは、メールでお答えするのはダメですか?

では明日なら、仕事が終わった時間に並びのカフェでお会いできます」と返事が来ました。


内心、ガッツポーズをしましたグッド!


でも、微かな希望を見つける度に、何度も手痛い思いをさせられてきた現場です。

私は、「冷静に。冷静に」と自分を抑えながら翌日を待ちました。



            地下室生まれの4兄弟のオス猫。

            彼が一番最後まで母猫(チカちゃん)のそばを離れなかった。見れば見るほど、面白い顔だ


夜の街 K-プランニングの社長夫妻は40代の働き盛りでした。

設計士集団らしい、中層の素敵な賃貸マンションを建て、その1階をオフィスとして使っていました。

この若さでこのビルを建てたのです。きっと今までも、今も、死にもの狂いで働いているのだろうと思いました。


ご主人は、長い髪を後ろで束ねた額の広い方で、若い頃のトヨエツを彷彿とさせるので、トヨエツ氏(仮名)

ハッキリと意見を言う強さと聡明さを備えながら、人懐こい顔立ちの奥さまは、貴子さん(仮名)とでも呼びましょう。

(これがわかる人は同世代人ですねべーっだ!


約束のカフェで落会うと、仕事を終えたばかりのご夫婦は生ビールをオーダーし、私も相乗りしました。

このご夫婦相手に腹の探り合いなど不要です。私はすぐに本題を切り出しました。


「去年、裏の遊歩道でたくさんの猫を見つけてしまったのが運の尽きでした。

以来ご近所の皆さんの協力を得て、15匹のTNRと、3匹の保護をしました。

今年は9匹も子猫が産まれましたが、全部手術が終わっています。これ以上、野良猫が増えることはないと思います。


先日お会いした時、貴子さんは、

”可哀想だと餌だけやるのが一番無慈悲だ。だったら最初から餌なんかやらなければいいのにプンプンビックリマークと言いましたよね。

猫を飼っていらっしゃるのですね。だから尚更、野良猫に無責任に餌をやることが許せないんですね?


でも、野良猫のひもじい様子を見るに見かねて餌をやる。それは人間として、間違いとは言い切れないように思うのです。


ただし今の時代、餌をやるのなら覚悟をしなくてはいけません。

いつか家に迎えてやることを考える。迎えられない事情があるのなら、捕まえて手術をして、一代限りの命を最期まで見守ってやる。

それは、ウンチを拾い、周囲の人に頭を下げて、この猫で最後ですから、どうかご容赦を…と、猫の代わりに泥をかぶることです。

この大都会で、外の他に生き場所のない猫が生きていくために必要なのは、餌だけではないのです。

だから餌やりさんには、

”この猫に餌を下さって、ありがとうございます。でもやる以上、一生この猫を守ることを考えてやって下さい”話します。

餌やり行為に意味と社会性を見出すと、多くの場合、餌やりさんの姿勢が変わるんです。

同時に、糞尿被害などで憤慨している地域の方に、一代限りの一生です、どうぞ許容して下さいと、具体的な手助けをする。


…そういうことが地域ぐるみでできれば、無慈悲なやり方ではない、猫と人との共存のもうひとつの道が見つかります。

私がやってるのは、そのためのボランティアなんです」


「地域猫って奴ですね?そんなこと、本当にできるんですか?」


「できます。

実際に私は猫崎町で、いくつか地域猫の現場を作っています。

周辺に住む皆さんに話をして、カンパを集めて、手術代や治療費に充てました。公認の餌場もあります。

嫌われ者だった猫たちはすっかり落ち着いて、あの猫は大きくなったとか具合が悪いとか、ご近所同志が立ち話しています。

厄介者だった猫が、今は地域の皆さんを繋ぐかすがいになっています。なかなか、良いものですよ」


「どこからか野良猫が流れて来て増えたりしないんですか?」

「置き餌をせず、決まった猫に対面で給餌する。給餌管理と個体管理をきちんとすれば、新顔の野良猫が居つくことはありません。

たまに、親とはぐれた子猫や捨て猫が来た時は、里子に出します。


猫崎町のどの現場も、最初は猫だらけでした。

でも6年経って、死んだり、家に迎えられたりして、どの現場もあと数匹です。

マイナスはあってもプラスは無い。地域猫活動にも、ちゃんと終結宣言はあるんです」


                        鶴亀さんのお庭でこちらを伺う地下室育ちのメス猫

初めて聞く話に、トヨエツ氏も貴子さんも驚いたようでした。

2人は、この現場で出会った誰よりも理解が早いと感じました。

この世代の受けた教育もありますし、ご夫妻の動物に対する感覚は、私の見込んだ通りでした。


「私は、この遊歩道沿いの猫たちもそうしてやりたかったのです。

今年生まれた子猫たちを、この町の最後の子猫にする。そしてこの10匹の猫たちはね、この地域みんなで飼っていのよと、

この辺の皆さんに言われるようにしてやりたかったのです。

そうすれば、鶴亀さんのように、見るに見かねて餌を与えている人の立場も、守ってあげられます。

でも、今まで必死にこの町を駆け回って来ましたが、一番大事なパーツがどうしても見つけ出せませんでした。


かつて猫崎町には、

「野良猫が1匹もいない街なんて面白くもない。せっかく居てくれるのだから、大事にしてやってもバチは当たらないだろう」

そう言ってくれる男性がいました。彼がいつも、地域の人たちをひとつの方向へ引っ張ってくれました。

一番大事なパーツというのは、地域の意志 なんです。

たとえ問題が起きても揺るがない。間違ったことはしてないよと、住民の意志を引っ張る人が、地域に必要なんです。


実は、先日猫のウンチのことでお会いした時、ああ、このご夫婦ならきっとできると思ったんです。

ウンチのことで怒られながら、私は勝手に、お2人のことを値踏みして、見初めていたんです。すみませんべーっだ!


だから今日は、この辺りの地域猫活動のまとめ役を引き受けて下さいと、お願いするつもりでお呼び立てしたんです



思ってもいなかった展開に、トヨエツ氏はいきなり、ガタン!と音を立てて立ち上がってしまいました。

「私たちがですか!? そうか、そういう話だったんですか…。うーん。困ったな…あせる


貴子さんは苦笑いしてトヨエツ氏を座らせて、

「そういう話でしたか…。でもね、うちにはちょっと、問題があるんだよね。お話したら?」とトヨエツ氏を促しました。


トヨエツ氏は椅子に座り直しました。

「多分この町で、私の言うことを聞いてくれる人は、誰もいないと思うんですよ…むっダウン


今度は私が驚く番でした。それは、私が薄々気づいていたこの町の問題を、リアルに裏付ける内容でした。



           同じく地下室で育った白い兄弟の一方。

           母猫は白い綺麗な猫だったが、最近姿が見られなくなった。死んでしまったのだと思う

最初に驚いたのは、今マンションの建つ場所は、元々、あの鶴亀商会の倉庫があった場所だと聞いたことでした。


地元の有名な商店の土地を、若い夫婦が買い取るらしい…。

そう聞いて、ご近所は沸き立ちました。古い町に、若くて有能な人材が流入することを歓迎したのでしょう。


ところが、賃貸マンションの設計図が出来上がり、建築許可を取る段階になって、風向きが変わりました。

日照権を口実にした反対運動が起こったのです。

向かいの道の家々に、「建設反対爆弾」ののぼりまで立ちました。誰かが先導したのです。

そして、泥沼のような訴訟となりました。


中傷が飛び交い、ついに、トヨエツ氏が和解金を支払って、決着が付きました。

しかし何年もの間、計画はストップし、ご夫妻は虚しい時間を耐えたのです。


設計士が日照権のことを疎かにするなど、最初から考えられません。

やっと、ビルが出来上がると、地域はまたしても掌を返しました。

いいわねえ、立派ねえと言ってすり寄って来る人がいて、それがまた、ご夫婦を苦しめました。

パインハウスの大家さんだけが、最初から変わらぬ態度で接してくれたそうです。



この出来事が、若いご夫婦にどれほどの傷痕を残したことでしょう。

ワケの分からないまま、集団に袋叩きにされるような恐怖や、村八分にされた感覚はどうしても忘れられず、

今でもこの町の人を信じることができない。今はただ目立たず、賃貸人だけは守らなければと思いながら、

淡々とこの場所で仕事するだけですと、トヨエツ氏は苦しそうに打ち明けました。


「だから、地域猫をやろうとこの私が言い出したら、私というだけで、反対する人がいるでしょう。無理です。…申し訳ないですガーン


私は、暗澹たる思いでこの話を聞いていました。

そんなことがあったのか…。この町でずっと感じていた違和感の正体が、わかった気がしました。


もう、迷う気持ちも吹っ切れました。

「…分かりました。 この話は取り下げましょう。

実は私も、もし今夜お2人に断られたら、この町での地域猫活動はきっぱり諦めようと、心を決めてここへ来たんです。

これで、踏ん切りがつきました。

この5月の末に、我が家はこの町を引っ越して、猫崎町に戻ります。

この町に3年暮らしました。

前半の1年半をある現場に(→「老姉妹と猫たち」)、 次の1年半をこの地域に張り付いて、必死で走り回りました。

でも、この町は難しかった…ガーン。一体なぜなんでしょう?」


「そう。この町、おかしいですよねプンプン


「多分、ねたみなんでしょうね。

向かいのあの巨大マンションができる時に、地上げがあったんでしょう。

昔ながらの街道沿いに突然凄い計画が持ち上がって、等価交換に乗っかって労せずして地下室付きの豪邸を手に入れた人もいる。

でも、恩恵に預かれなかった人や、借地権で細々と暮らしている人や、昔ながらの商店さんの気持ちは、穏やかではなかったでしょう。

そこへ、こちらのマンションの計画が持ち上がり、みんなのやり場のない気持ちが沸騰したんじゃないでしょうか?

スケープゴートにされたように思います。本当にお気の毒でしたね…」


「なるほど。そうかもしれません。sakki さん、そんなことを考えながらやっているんですか?」

「猫を見てると、町が見えて来るんですよ。というか、私のは元々、猫のためというより人のための活動ですから。

きっと、この町の人の気持ちは、その時バラバラにされたまま、まだ、立ち直っていないんですよ。

みな自分の暮らしに必死で、猫どころではない…。そこに私が現れたというワケです。ああ、失敗しましたしょぼんダウン


すると、黙って聞いていた貴子さんが、

「いえ、sakki さんはよくやってくれたと思います。ただ、場所が悪かった…。

そうでなければ、私はこの話、ぜひともうちのダンナにやらせたかったです。お役に立てなくて、すみません」と言いました。



ご夫婦は、生ビールをおごってくれました。別れ際、

「でも、5年も経てば町も変わります。

苦い記憶も必ず薄れて行くでしょうし、若い人がどんどん入って来て、世代交代も進みます。

あなた方なら、いつかきっとこの町の屋台骨になりますよ。そうしたら、お祭りでもやって下さい。面白いですよ~。


それまで、お仕事を頑張って下さい。私はこの町を出ますけれど、後はお願いしますね。

そうそう、実はたった1匹、多産の母猫を取り逃しているんです。引っ越しても、最後までやることはやりますからパンチ!

そう言い残して、先にカフェを出ました。



こうして私は、この町の猫を地域猫に変えるという夢を、この日、きっぱりと諦めたのでした。


…「撤退宣言」でした。



             ヒマワリ                   ヒマワリ                     ヒマワリ



晴れ生ビールの会合から4か月経った7月29日、1年以上追い掛けていたチカちゃんを、私はついに捕まえました。


地域の人に囲まれて、今度こそ本当に全頭TNRが完了しましたと報告していた時、そこへトヨエツ氏が通り掛かったのです。

ビックリするような偶然の再会でした。


トヨエツ氏は、通り過ぎてから私と気づいて戻って来てくれました。

私は、「とうとう、最後の1匹を捕まえました。これでやっと、私の任務は完了です。

貴子さんは元気ですか?どうぞよろしくお伝えください」と言いました。




私たち3人が気づいてしまった、この町にポッカリ口を開けた、大きな穴…。


それが時間とともに、少しずつ埋め直されて、

穏やかで、他者の命に思いを馳せる余裕のある町に、再生して行きますように…。


この時私は、心の中でこっそり、トヨエツ氏とエール交歓をしたように感じていました。           (続く)






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