祐奈は窓際に飾ってあった赤星の息子の写真に目をやった。
「・・息子さんのこと。友達から聞いた。大変やったね、」
「まあ。おれの責任やし。どうやって償ってええかわからん。
ヨメにどれだけ責められても。しゃあない。」
アイロンがシューっという音を立てた。
「あたし。田舎嫌いやったー・・」
祐奈はふと笑った。
「都会に出たくて。神戸の大学行って、神戸とか大阪とかで仕事もしたかった。・・赤星くんの奥さんも。田舎を恨んだやろなあって、」
そしてうつむいた。
「うん。 きっと今も。恨んでると思うよ、」
赤星は彩乃のジャケットにあて布をしてさらにアイロンをかけた。
祐奈は部屋の隅でスマホの動画を夢中で見ている彩乃をチラっと見て
「神戸でアウトドア用品を扱う会社の社長やったん。」
おもむろに言った。
「・・元ダンナ?」
「うん。すごく手広くやっててね。アウトドアブームもあってすごく順調でね。海外に出店もして。でも。投資話に引っかかってね。あっという間に借金がかさんで。会社は倒産。傾き始めた頃から夫婦げんかが絶えなくてね。あの子もわかってたと思う。借金負わせられないように両親は離婚して戻ってこいって言って。」
・・ああいう人なら。ママ、りこんしなかったのかな。
さっきの彩乃のつぶやきを思い出す。
両親の諍いに小さな胸を痛めていたのだろう。
「あんなに田舎が嫌やったのにね。こっち戻ってきてホッとしてる。来週実家を出て近くなんやけど引っ越すの。彩乃と二人で暮らそうと思って。仕事も親のコネやけどなんとかなりそうやし。」
「そっか、」
ジャケットが乾いたのを確認するように手をあてた。
「最初はお母さんも『近所の人に体裁悪いわ』とか言うてたのに。孫と暮らせるのがほんまに嬉しかったみたいで。引っ越しほんまにせないかんの?とか言っちゃって。いつまでも親を頼りにできないし。兄夫婦にも申し訳ないしね。」
「でも。スッキリした顔してるやん。離婚したって母子で幸せやったらもう十分やん。きちんとした子やな。ほら、ドーナツの包みキレイに畳んで、」
YouTubeに夢中の彩乃の皿の上をちょいちょいと指さした。
「祐奈がきちんと育ててきたんやろ。二人で一緒に頑張っていけば。きっと幸せになれる、」
その言葉に祐奈は2度ほど頷いた後、ほろっときてしまいそっと指で涙を拭った。
「彩乃ちゃん。ほら。乾いたで。 このジャケットかわいいなあ。あったかそうやし、」
赤星はまだ暖かいジャケットを彼女に手渡した。
「・・どうもありがとう、」
その笑顔が本当にかわいかった。
祐奈も娘を抱えて頑張る決意をしました。。
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