新しい経営学の息吹 1 | いろは

難しい時期に入り、私自身の経営学に対する考え方の古さを痛感するようになりまして、少し書くことから離れておりました。現時点において、これまで私の頭に入れてきた経営学の知識は突如として古くなり、それだけではなく、通用しなくなってしまいました。しかし、ある日突然に、ある時点を境として突如として大きく変化したことで、心の入れ替わりも早く済んだことは不幸中の幸いであると、プラスに考えております。

 

さて、最近ではリモートワークであるとか、ショーシャルディスタンスであるとか、つまり、たとえ人が集まる集団の中でも「物理的距離」を保つことが重要となってきており、職場へ出勤しても相手はマスクをし、しかも距離を保つ状況となり、とりわけ組織の在り方が大きく変わってきております。これまでは人をある空間に集めて密にすることが前提となり、そのうえで人とのつながりをタイトにするかルースにするか、ヒエラルキーを作るかなど、様々な工夫が行われてきましたが、密になることが許されない今日において、密を前提とした組織の在り方に大きな変化が現れ、現場は混乱するという状況が表面化してきております。

 

企業における組織は他のこととも密接につながっておりますので、当然、私の専門とする経営戦略にも影響を与えるものと思われます。かつてチャンドラーは「組織は戦略に従う」と論じましたが、この法則にしたがうと、組織をうまく動かすには戦略の変更を余儀なくされるとなります。戦略を変えないのであれば組織を変えねばならず、チャンドラーの理論は崩れます。さて、こう書きながらもこのようなステレオタイプの考え方でよいのか?という思いがありまして、どちらかを立てるとどちらかが立たずというのでは面白くないと考えておりまして、この新しい時代には戦略も組織も時代に合うように両方を変えてゆくというのはどうでしょうか?というのがこの連載での狙いであります。

 

これまでの経営学は戦略論や組織論は個別に論じられてきました。その時代はさかのぼって、平井泰太郎博士の頃から既に学問のデジタル化は本格化しており、平井博士は逆にこの傾向に懸念を寄せていた当時では革新派の教授であったのですが、それはともかく、社会全体としてはアナログの時代のときに学問はデジタル化しており、逆に、社会全体がデジタル化している今日において、学問は逆にアナログ化が必要となってきており、こうやって時代の転換期に私が研究者として活動できていることに感謝している次第であります。

 

つまり、新しい経営学とは、これまで個別に論じられていた専門分野を一つにまとめてゆく作業が必要になるのではないかというのがこの連載のテーマであります。

 

しかしながら、全ての業種においてこの経営学が必要であるとは限りません。例えば、コンビニや大手スーパーの総菜や菓子などをを製造する食品加工の工場は、そもそも衛生管理が徹底されており、人と人との物理的、心理的距離は公衆衛生が非常に重要となってきている今の時代よりもっと前から実行されていることであります。

 

工業内の作業場に入るときは専用の防塵服、マスク、手袋は2枚重ねて使用し、外観はその人の「目」以外に何も露出していない状況を作り出します。完全防備であります。よって、名札がない限りその人が誰だかわかりません。工場の外でも付き合いのある人たちはあまり問題はないかもしれませんが、かといって、この作業服を着用しているときにしか接触することがない人もあります。その場合、相手の目だけが頼りとなり、その目の表情のみで相手と接触してゆかねばならないのですが、それが次第に慣れてくると現場はスムースに回りだすのであります。この原理を抽出すれば、一つの新しい経営学の仮説を作ることができるかもしれません。

 

いずれにせよ、時代はデジタルですが、学問や企業の内部はアナログ化が進んでおり、これに対応する経営学が急務となってきていると感じております。コロナ禍の影響の中で学問も変わろうとしております。そして学者も変わってゆかねばならないかと思っております。私自身が新しい時代に対応してゆくべく、本シリーズをそれへの問題意識とすることができればと思っております。そしてそれが皆様方のお役に立つことができれば幸いであります。

 

ご高覧、ありがとうございました。