密やかな想い番外編~12月25日の悲劇(2)~ | ななちのブログ

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馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

悪魔と契約を交わすはずが、気高く美しい王様にお姫様抱っこをされてしまった庶民の私。上機嫌の敦賀さんの言動に混乱することしかできない。



「いつでも来てくれていいからね?別に事前連絡なんていらないし。」

「いっ、いえいえ。そんな訳にいかないでしょう?」

「いつでも泊って行って?ここからなら事務所に行くのも苦にならないだろう?そうだ、自転車も買おうか。そうしたら君の行動範囲も広がるしね?」

「!?いえ、あの…敦賀さん!?」



 宝の地図を見つけた子どもや、秘密基地をこれからつくる少年のように…瞳を輝かせた敦賀さんは、私を置いて何やら妙な事を口走り始めた。

 おかしいわっ…!!単に敦賀さんの食事事情の改善と演技のお勉強のために受け取ったはずなのに、なんだかそれ以上のものを押し付けられている気がするっ!!



「さぁ、どうぞ。今日からここが君の部屋だよ?」

「……。え?」



 満面の笑みの敦賀さん。上機嫌なのは大変喜ばしいことだけれど、大魔王ではないその顔さえも恐ろしいと感じるのは私がおかしいだけなのかしら…?

 そんな恐怖に戦く私を置いて、敦賀さんはいつも私が泊らせていただく(と言っても、最後に泊ったのは『BOX-R』のモデルウォーク特訓の時だけれど…)ゲストルームの扉を開いた。



 その先には。…恐ろしい光景が、待っていたの……。







******



「つっ、敦賀さんっ!!後生ですからお願いしますっ!!」

「イヤだ。」

「いっ、嫌だと申されましてもですね!?」

「受け取ったのは君じゃないか。返品不可。」

「でもでもっ…!!受け取れないんです~~~!!」



 1226日。LME事務所内。24日が25日へと変わった深夜から始まった、(モー子さんや社さん曰く)不毛な争いは、この日もまだ続いていた。

 18年間生きてきたというだけで恐ろしい『悪魔の鍵』を手に入れた25日の私。その時点では、まだ今手に持っている『鍵』は私の命と対価交換し得るものだった。

 そう判断したからこそ受け取ったのにっ……!!



「君は一体何が気にくわないんだ?君の好みのもので埋め尽くしたはずなのに……。」

「好みとか好みじゃないとかそういう話じゃないんです~~~!!!!」



 ブルブルと震える手の中に握りこんだ物体。それは、18歳のバースデープレゼントとして彼から受け取った、彼の家の鍵なんだけれど。…プレゼントは…『鍵』だけではなかったのだ。



「何ですか、あの天蓋付きお姫様ベッドは!!メルヘンドレッサーはっ!!トキメキテーブル&椅子セットは~~!!!!」



 数回宿泊したことがあるので、私は敦賀さんの家のゲストルームの内装を知っている。…知っていた、はずだったのにっ!!



「あ、気に入ってくれたみたいだね。よかった、よかった。」

「気に入ってないです~~~っ!!今すぐ返品してください~~~!!」



 あの日。敦賀さんが私をお姫様抱っこして踏み入れたその場所は。

 モダンでいてシンプルな敦賀さんのマンションに相応しくない、ヨーロッパの王侯貴族の貴婦人の部屋を思わせる豪奢な家具が配置された、実にメルヘンチックな内装に大変身していた。



「だから、返品は受け付けないって。」

「受け付けてください~!!あのお部屋、改装費いくらしたんですか~~~っ!!」



 美しくて可愛くて…素敵な家具達。夢にまでみたお姫様のような部屋だけれど。…それにかかる費用は可愛くないっ!!絶対に可愛くないわっ!!



「…え?え~と、確か…「イヤ~~~ッ!!やっぱり聞きたくない~~~~~っ!!」」



 どこか呑気な口調で恐ろしい値段を口走りそうな先輩俳優の唇を、私は両手で抑えつけた。



「…何?朝から積極的だね。キョーコちゃんもそろそろ年貢の納め時かな?」



 途端に朝だと言うのにオーラが夜仕様になる敦賀さん。



「あっ…あわわっ、あわわわわっ…!!」



 時間軸さえもかえてしまえる帝王様に、もはや言葉もでない。



「今度、ちゃんと泊りに来てね?25日には渡せなかったけれど…君のために準備したものがあるから。」

「うえぇぇぇっ!!」



 「ちゅっ」と音を立てて掌に吸いつかれた私は、全身を熱くしていいのか冷たくしていいのかよくわからなくて、変な汗を流しながら彼の手から逃れようと必死になる。



 25日に受け取った悪魔の鍵は、『悪魔との契約の結果受け取れる鍵』ではなく『大魔王の部屋への鍵』だった。美しく、艶やかなお姿の大魔王様は、それはそれは美しい笑みを浮かべながら「逃がさないよ?」とすごんでみせる。



「誰か~~~~っ!!た~~~す~~~~け~~~~て~~~~~~~!!」



 朝っぱらからLME事務所内に響き渡った私の助けを呼ぶ声。…でも、それに呼応し、救助にきてくれる者は…なかった。



1225日の悲劇 FIN)





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