半夏生 〜ハンゲショウ 2022〜 | 嵐好き・まるの ブログ

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まるです。

Over50の葉担櫻葉erです。
徒然におはなしを書き、投げ込んであります。
基本は読み手。
色々なブログに顔を出しては、叫ばせていただいております。

どうぞよろしくお願いいたします^ ^


 今年もまた、
この季節がやってきた。

 半分白く化粧した幅広の深碧色の草が、
あちらこちらで群生する。
 初夏というにはあまりにも陽射しが強いきらきらとした空気に、
古来より稀なる砡のように静かに趣を持って蔓延る。


 「今日も暑いね。」


マサキと初めてあった
あの少年の時のように、
額から滴り落ちる汗を腕でぬぐいながら、
太陽を眺めれば、



「うん。」

少し不安な影を落としつつ、
マサキも空を眺める。



今の俺も、マサキも精霊の姿で、
気に溶け込む。


実体はどこにも朧げで掴みどころがないながらも、
己を動かすものは確かに存在する。

一言で
魂と、言ってしまうのには、
大雑把すぎるが、
この日の本の風土にあった心地が、
ここにもかしこにも溶け込んでいる。




「おーい。
今日は ハンゲが出るから、
外で遊んじゃだめだぞぉ。」



遠くから聞こえるどこかのじっちゃんの声。


古くからの言い伝えはえてして正しい。


農作は半夏生の前に終わらせろとか、
半夏生には、大雨が降るとか、
半夏生に、農作物がきちんと育つように、
小麦のものを食べろとか、
穀物の根がちゃんと根付くように蛸を食べるといいとか。




人は、
自然のめぐみとともに、生きてきた。


こんな世の中になっても、
どうあがいても、
人は自然に逆らえぬ。

としたら、
自然とともに生きる。
昔ながらの智慧は、大切にしなくてはとも思うのだ。



「ショウ。帰ろう。
のんびりしよう。


そろそろサトシの出番。
半夏雨が降る。」



空(くう)に溶け込み、
この村をゆうるりとながめる俺に、
マサキが声をかける。


今年は、
俺が初めて火を掌り、
マサキが木の精より、空を眷属としたこともあり、
季節の流れも変化させてしまった。

人の営みが、
自然の移ろいを変化させてしまったのもあるが、
それを止められず、
助長させたのは俺だ。

反省し、精進せねば。
心しながらも、
マサキの魂に心を添わせる。


「大丈夫だよ。ショウ。
人は強い。
古くからの言い伝えは、
自分達を守る先人からの贈り物だと知ってる。

翔もそうだっただろ?」


「まぁな。」


風が吹く。
カズがその生温かさで、
雨が来るぞと皆に伝える。

それを肌で感じられる人こそ、
その自然の恵みを享受できる。



「さ、帰ろ。ショウ。」


「ん?帰ってどうするんだ。
店開けるのか?」


空より森に降りたてば、
巻き起こる風とともに人の姿をまとう。


雅紀がにっこりと俺の手を繋ぐ。


「何言ってんの?翔。
今日は、先人より物忌の日。
農作物やら、
何やら仕事をしてはいけない日と決められている日だよ。

先人の言いつけは守らなくちゃね。」


俺の家にと続く砂利道は、
既に乾いて白い。
歩くだけで白く埃が舞い上がる足元は、
既に暑い。

ましてや、
これから大雨が降るとなれば、
普通の人も外には出ないはずだろう。

「せっかくのお休み。
翔の体も、
隅の隅、奥の奥までメンテナンスしないとね。」


「ばか。」

握り返す手はすでに熱く火照っている。

これから、
水の精であるサトシが降らす大雨に、
多少の声はかき消されるはずだ。


雅紀とマサキ。

二人に会えた幸せを噛み締めながら、
俺は爺ちゃんの遺してくれた古屋敷へと急いだ。






⭐︎つづく⭐︎