「後悔させてやるぜ、ガキが!」
部長はその体格に似合わず機敏に動き回り、ジャブで新入部員をけん制していた。
「先輩パワータイプに見えて意外と機敏に動き回るんすね。」
「見かけだけで判断すんじゃねぇよ!油断してるとあっという間に伸されちまうぜ!」
「いい勉強になるっす。けど、全然見えてるっすよ!先輩の拳!」
そう、部長が繰り出す拳は新入部員にかすりもせずに避けられていた。そして、次第に疲労の色が見えてくる部長。
「くそが!ちょこまかと。ちったぁ手ぇ出して来いや!」
「いいっすよ。先輩の動きにも慣れてきたんで、アップはこの辺にしてそろそろ本番開始っす!」
「なっ!?」
驚く部長をよそにすばやい動きで接近する新入部員。部長はガードを固め様子を伺った。
「(く、なんて切れのあるパンチだ。この俺が避けれねぇ。)」
「先パーイ、亀みたいに丸くなってちゃつまんないっすよ!今度は俺ばっかりじゃないっすかぁ。先輩も遠慮せずにうってきてくださいよ!」
「だったら、その無防備なボディいただくぜ!」
ドッボォ!!
「んぐ!?」
部長の放ったボディが新入部員の綺麗に八つに割れたボコボコの腹筋に拳半分ほどめり込み、新入部員の動きが止まった!
「これで寝ちまいな!」
動きが止まり、突き出た顎をねらって渾身の右アッパーが新入部員を襲う!しかし、すんでのところでアッパーをかわし距離をとる新入部員。
「へへ、今のはちょっと危なかったっすよ。」
「(こいつ、俺のボディが効いてねぇのか!?)」
「それにしても先輩見かけどおりすげぇパンチ力っすねぇ!俺の腹筋に拳めり込むなんてひさしぶりっす!」
「ふん。だったらその自慢の腹筋ぶっ潰してやるぜ!」
新入部員に肉薄する部長。再び部長のラッシュが新入部員を襲う、ハズだった。
バコォ!!!
「ぇ・・・!?」
一気に距離をつめた部長にカウンターのジャブ。部長は全くそれに反応できずまともに顎に食らってしまった。フラフラと数歩後ずさり、何とか構える部長。しかし、明らかにカウンターが効いており、力が感じられない。
「先輩油断大敵っすよ~。勝負ついちゃったかんじっすねぇ?」
ファイティングポーズすらとらずに部長に近づく新入部員。
「くっそぉ。」
「先輩ってボクシング初めて何年すか?」
「あぁ?中学のころからだから六年目だ。」
「なるほど。実は俺、物心ついたときにはやってたんすよねぇ。親父がジム経営してて。ま、先輩とはキャリアが違うんすよ。」
「くそ、がーー!!」
いまだにふらつく足で踏ん張り、無理やり力を籠めストレートを放つ!
ドッボォォーーー!!!
「がぼぉぉお!!!」
部長のストレートは綺麗にスルーされ、カウンターで新入部員のボディが部長のボコボコのシックスッパクに綺麗に決まっていた。
「がはぁ!!(お、俺の・・は、腹が・・・!?)」
「あれ?先輩の腹筋ボッコボコに割れてるのにめっちゃ柔らかいっすねw」
そういって部長の腹筋にめり込んだ拳を引き抜くと、部長は数秒ほど踏ん張った後、両膝をつき腹を抱え悶絶し始めた。
「うぐぉぉぉ・・・がっはぁ・・・」
「俺のかちっすね先輩。」
予想だにしない結果に静まり返った部室。誰もが部長の勝利を確信していた。それを意外なほどあっさりと覆した新入部員。今年の恒例行事はこれで終わったと誰もが思っていた。
「ワルイワルイ、ちょっと色々あって遅れてもーたわ。あれ?そういや今日やったなぁ、新入生歓迎会w」
「副部長!!」
そういって現れた、副部長と呼ばれた金髪ピアスのチャライ男。全員の目がそこに集中した。そしてリングを見てにやりとその口角を吊り上げた。