徐々に近づいてきた忍の全貌が明らかになってくる。逆三角形のシルエット、逞しく双丘をなす胸筋、その下にはボコボコと島のごとく敷き詰められた八つに割れた腹筋。肩は競泳選手のように盛り上がり、腕は丸太のように太かった。普通の忍よりも明らかに発達した筋肉。忍は本来身軽に動くため、必要最低限の筋肉しか付けない。それでもその質は並みのものではないが。それにしてもこの忍びの鍛えようは普通ではなかった。
「く。風遁 鎌鼬!!」
近づく忍に再び鎌鼬を放つ戒。しかし忍は避けるそぶりも防ぐそぶりもしない。そしてそのまま鎌鼬が体を切り刻む、ハズだった。
「そんなばかな!?」
鎌鼬は確かに命中した。しかし忍の体にはかすり傷ひとつついていなかった。
「その程度では我に傷を付けることなどできぬ。」
「はぁ!」
戒は背中の刀を抜き取り切り掛かった。忍はまたしても無防備に立ち尽くしている。戒はお構いなしに切り掛かった。
ガキンッ!!
「なに!?」
刀が忍の体に当たった瞬間金属同士がぶつかるような音がしたと思えば、刀は折れていた。
「無駄だ。今の我には生半可な攻撃では傷ひとつ付けることはできぬ。」
「これならどうだ!」
飛び退りながら苦無を投げ、再び急接近し肘に仕込んでいた暗器で切り掛かった。そしてそのどれもが金属音を立て、忍に傷ひとつ付けることができなかった。
「無駄だと言っておろう。これぞ我が奥義“土遁 金剛武神装”」
「金剛武神装?」
「この術は我が肉体を金剛石のごとく硬く強靭にすることができるのだ。もちろん動きに支障は出ぬ。」
「そんな術が!?」
「あるのだよ。おぬしが知らぬだけよ。」
「くそ・・・。」
「さあどうする。忍が任務を放棄して逃げるか?」
「あれをするしか・・・ないか。」
「ん?」
「なら俺の最終奥義をその身に受けるがいい!風火混合!!風林火山!!!」
突如として戒の周囲に竜巻のごとき風と、燃え盛る炎が舞い上がる!
「ほう。」
「くらえー!」
風と炎を身にまとった戒が忍に肉薄し、渾身の拳を打ち込んだ!!
ドッゴーーンン!!!!!
巨体が一瞬にして城の外に吹っ飛び、見えなくなった。部屋には焦げた家具が散らかるのみとなった。
「はぁ、はぁ・・・。やったか?すこし・・・いや、だいぶ派手にしてしまった。また日を改めるか。しかし警備が厳重になっても厄介だ。やはりやつに直接聞くしか・・・。」
「今のは少し驚いたぞ。」
「な!?」
なんと、そこには全くと言っていいほどダメージが感じられない忍がいた。心なしか拳を入れられた鳩尾付近にこげあとが残る程度であった。
「我に傷を付けるとは。なかなか興味深い。だが、遊びもここまでよ。我を任務を遂行するとしよう。」
「くそ。今のでしとめられないなんて。」
「ではこんどは我から行くぞ。」
と、戒の耳に届くと同時に背後に気配を感じた戒はすぐさまその場を飛びのいた。
バキャ!!!
今いた箇所に忍の拳がめり込んでいた!
どん!
「なに!?」
さらに、飛び退ったところにすでに忍。
シュ!
ガシ!
戒の裏拳を軽々とつかむとそのままつるし上げ足が床に着かない戒。
「この!」
がつがつ!ご!
鉄を仕込んだ膝蹴りや肘うちを食らわすむのの全く効果が見られない。そこに掬い上げるように金剛石の拳が戒の腹に打ち込まれた!
ドッヴォーーーーーン!!!
「!!!がほぉ!!!」
大きく目を見開く戒、鍛え抜かれたその腹筋は拳の進入を全く防ぐことができず、ボコボコの腹筋に手首近くまでずっぽりとめり込んでいた。
「かっほぉぁ・・・げふぉ・・・。」
斬撃にはめっぽう強い鎖帷子、しかし打撃や刺突などの攻撃には全くと言っていいほど効果がない。忍の拳は鎖帷子を歪にゆがめ、戒の腹筋をも押しつぶしていた。