※BL妄想書庫です
苦手な方はお気を付けください
「俺が許すとか許さないとかじゃないんだよなー」
俺が責めるとか責めないとかでもない
大野さんが大野さん自身を責めている
違うアプローチを考えなくちゃ駄目だ
「さー、がんばろー」
励ます
美味しいご飯を用意する
笑える映画を借りて観る
泣ける小説を渡す
気分が変わりそうなことを一通り試した
三週間後
「大野さん、時間ですよー」
「…じかん?」
「会社に行く時間です」
「…そっか」
「雨なので傘持ってくださいね」
「…雨」
「今年はよく降りますねー」
「あぁ、だからか…」
「もうすぐプロジェクトの締めですね、俺じゃ役に立たないかもしれないけど、何かあったらすぐに駆け付けますから」
「景色が…霞んでる…」
「大野さん?行けますか?」
「…え?どこに?」
「会社です」
「…それは…行かなきゃだめ?」
「絶対ダメってことはないですけど、俺は行ったほうがいいと思うなー」
「…そう、分かった」
「行ってらっしゃーい!」
見慣れた寂しげな背中を見送って、廊下の壁に身体を預ける
効果が無いどころか、少しずつ悪化している気がする
「はぁー…」
恒例のため息も日々重くなる
「笹なんか飾らなきゃよかった」
なにが一緒に季節を感じよう作戦だよ
あれが無かったら誕生日を忘れたことにも気付かずに今も元気な大野さんでいられたのに
「いや、どっちにしろ同じ…か」
忘れた事実は変わらないから、どの道こうなっていたのかもしれない
「おめでとうが欲しいよーって、言えばよかったな…」
大野さんが大切にしているものを一緒に見過ごしてしまった
おねだりでもわがままでも言っていればこんなことにはならなかったはずだ
「あ、また雨…」
梅雨が長い
全身を湿らせるような雨とまとわりつくような空気は、沈んだ心を好むように離れない
「無力、だなぁ…」
内側からじくじくと腐っていく
「ごめんね…智…」
七夕から今日まで、大野さんの笑顔を一度も見ていない
辛うじて一緒に寝ているけど、ベッドに二つの身体が並んでいるだけ
肌の接触も、唇の接触さえ一つも無い
「ここも腐ってそー…あはは」
うつ向いた目線の先にも、元気の無い俺が居た
つづく