喉の奥絡まる毛玉

飲み込んで消化不良

タネを明かせば 浅ましく

乗除は苦手で 消去法



鈴を鳴らして

手招いて





 ただ欲しいのだ

 情にあやかり残飯食らい

 果てるまで舐めとって

 耳を越えたら ふたりは大雨





頭を撫でる大きなてのひら

いつにないご馳走 消化不能

そこじゃないの知ってるでしょう?

我関せずと 絡まぬ目線



鈴を鳴らせど 

手をこまねいて





 ついに帰らぬご主人様

 忘れた振りの大あくび

 毛並みを這う舌は涸れ涸れ

 耳を越えたら ひとりの大雨

はためく白は 羽状の雲に溶け合って

どんな大地を見るのでしょう

盲目の目に 眩しい光

けれど "果てはあるね" とうそぶいた



ぬかるむ地面は心地よく

試みもせず あきらめた空



  泥にまみれた 白と呼んだ

  ひきずる足を 羽音と刻んで

  それはとても美しく

   彼方に揺らぐ空耳奏でて

   いつか曝(さ)れても 忘れぬようにと




遥かな青への憧れは 自由に似せた光る影

幼い鎖をほどいてみても

愛しい空は どこまでも平行に伸び

ここは寒いと 手招いた



あなたがそこで揺れるなら

ここが私の空でしょう




  泥を拭って 白を纏った

  ずれた羽軸を 繕いながら

  それはあまりに滑稽で

   明けゆく空を 逆さに廻った

   霞む羽音に いつか届けと

暗らかな森くれ惑う目と

朽ち果てかけ足入りに伸ばした

木々の紡いだ檻 深く

神々が月に隠れた頃


 淡淡(あわあわ)と咲(わら)いましょう

 貴女が迷い込むように




  花吹雪 細裂(こまざ)く風の染め色は

   十月の恋桜

  卯(う)の花月(はなづき)の別離見据えず

  手招くように拡げる散光

   赫(かかや)きながら




枯れ木立 枯る草(も)の嗤(わら)う背に

(ひと)え重ねた一重桜

寂々降り下(お)る毀(こぼれ)れ月に

願意伝えば 火(あこ)は灯され


 明々と嗚呼 昇りましょう

    ココヘオカエリ



  花筵(はなむしろ)敷き詰め飾る

   十月の狂い桜

  卯(う)の花月(はなづき)の幻 懐(うだ)いて

  枯れ井戸の酒息に霊香(れいきょう)

    果たせたのですね



  花吹雪 細裂(こまざ)く風の染め色は

   無季の徒夢(あだゆめ)織る桜

  願ほどきて偃月(えんげつ)と舞い昇り

  手招く腕(かいな)に 貴女は白んだ

   赫(かがや)きながら 

澄んだ空に落とした 灰色の絵の具と

 こらえたはずの滴 急いで拭ってた

届かないのに叫んでた 甘く淡く愛しい時

 きっと眩しすぎて

 つらかったんだね



だけど残るのは

楽しい記憶(おもいで)たち

 ねぇ どうしても

 祈ってしまうよ





  真っ白に冷えた 冬の街の匂い

  寝ずに話した夜

  きっとずっと 忘れたりなんかしないって

   待ちくたびれた公園も

   急ぎ足のあなたも

  愛した記憶を 悔やまないで

    もう歩き出せるよう・・・





もう何もいらないや

何が私を満たすの?

 後ろ向きに歩くけれど

 戻らない景色



だけど 残ったのは

優しい思い出たち

 そろそろ時間だね

 重い足をあげて





  青白い夜に切れた波の音も

  あずけたぬくもりの儚さも

  届かない空に放り投げて

  ”愛してる”とつぶやいた

   痛むはずの心は

   ただ温かいから





止まらなかった時間も

 終らない愛しさも

消えないから ねぇ 今 ここから

 

あなたが いない季節もぎゅっと

受け止めて行くため

愛して行くため

 抱き留めた記憶から

 もう 歩き出すよ

嗄らした声を浸した箱に

壁時計は2時を指した


 数秒おくれで届く『今』を

 先回りして 去った人


時の死骸を重ねた部屋に

逆さに刻む 針だけ残して



 ここはどこからも遠く在って

 干乾びた影をただ横たえた

 この孤独は復讐なんだろう

 甘んじて飲み干したグラスが笑うよ

 “ここにはもう 何もない”と




散らした雑誌と擱いたペン

かびた明かりは4時を射した

“途切れることは 嫌いなの” と

 タバコ代わりに 愛した人



手持ち無沙汰 紛らすそれを

愛なんて 呼んだりしたね・・・



 そこはどこからも遠くなって

 綻びた言葉だけが廻った

  壊れた振りは 飽きただろう?

  もう一度 ねぇ 噛んでみせてよ



心だけが 転がる部屋



 ここはどこからも遠くなった

 青褪めた舌を逃がした日から

 独り善がり 空振りばかり

 かろうじて 回る針は歌うよ

 “ここにはもう 何もない” と



壁時計は5時を指した

どこよりも遠い君を 懐いたまま・・・
万遍なく散る紫から

望んだ赤を 手繰り寄せた

さぁお飲みなさいな こぼさぬようにと

老いた女狐 手慣れたお酌で



毒なんか入っていないわと

優しく抓んで 終わらせてあげる



 舐め合う蜜で焦がした舌を

 転がる夢に 酔いしれましょう

 まじない儚む幼さを

 愛と名づけたお遊戯ごと




飾り立てた言葉から

意味を曲げた罪を馳せる

執拗な指先は 枯葉をにぎり潰すように

甘く砕いて 赦(ゆる)すと言った



もうすぐ肌は削げ落ちて

露わになったその尾に巻かれ こときれましょう



 寄せ合う熱にも終りが来るわ

 時より正しく波打つ鼓動

 潮の満ち引き 憂う心が

 愛と化かした お遊戯ごと