master piece35 | 1年だけ先輩。(基本お山)

1年だけ先輩。(基本お山)

やま。いちご。そうぶせん。

理解した方だけしか読まないでください(笑)
ごにんに心奪われ続け、眠る身体も起き出す状態です。

脳内妄想を吐き出す場として利用しようかなと思ってます。
ご気分害されたらごめんなさい。
※主軸は21です!

※妄想のお話です。


1話が長い病は健在です。

切るところあるのに切らないから

わだとだよ?♡案件ですねごめんなさい








 

 

 

 

 

 

 

「………。」

 

どれだけそうしていただろうか。

 

ザザ、と波の音が静かに二人の影を包んでいる。

 

ふわりと智くんの髪を風が揺らす。

 

「…あんさぁ…」

 

智くんが小さく声を出す。

 

「…はい。」

 

正直、バックバク。

 

告白なんて生まれて初めてしたし、この答え次第では二度と会えない。

 

だけど…いや、だからこそ

 

一言も、一文字だって聞き逃したくなくて、ぎゅうと強く抱きしめ耳を寄せる。

 

 

「…ここに帰ってきて、って…ここ先生ン家じゃねぇし。

 

 

うっ…。

 

だから、もーちょいムードっつーかさ、空気っつーかさ。

 

ねぇ。

 

拍子抜けなんですけど。

 

これ以上肩下がったらどうしてくれんだよ。

 

「…俺の元に、って、こと!」

 

「んふふ、ありがとう。嬉しかった。」

 

智くんがいつものようにふにゃりと笑う。

 

「おいら、『自由に』生きる。この島も気に入ってたけど、やっぱ色々見てみたい。」

 

智くんが両手をめいっぱい伸ばす。

 

水平線は勿論それよりも長く果てしない。

 

世界は、広い。

 

そんな当たり前のことを、俺は忘れていたように思う。

 

「…約束して?もう、『役割』に囚われないって。」

 

「…わかった。もう誰とでも寝ない。」

 

「あなためちゃくちゃ愛されてるってことも、自覚してね。」

 

「…ふふ、あんさ、おいらちょっとわかった気がする。」

 

何が?と聞けば、智くんは優しく笑う。

 

「カズの気持ち。おいら、捨てられたと思ってたけど…そういうんじゃないんかな。

…おいらのこと想ってくれたんかなって。今この立場になったから、思える。

『信頼してるから歩き出せる』『絆があるからこそ外へ行ける』…みたいな?そういうのも…あんだなって。」

 

涙は出てないけど、智くんは鼻をグスッとすする。

 

智くんは俺や皆を『捨てて』行くんじゃなくて。

 

 

『旅立つ』んだ。

 

…お互いに。

 

 

「ほんでもおいら、待ってて、とか、絶対帰ってくる、とか言えねぇよ?自分でどうしたいかわかってないもん。」

 

智くんが不安げに眉を下げる。

 

うん、そう言うと思ってたよ。

 

「わかってる。じゃないと『自由』じゃないからね。だからこれは俺の勝手。あなたを待ってたい。あなたのことを想っていたい。

あなたへの愛情が変わらないって思いこんでるバカな奴がいる。それだけは知っててほしいから。…これも俺の『自由』でしょ?」

 

うん…と頷いたあと、ニヤッと笑う智くん。

 

「…カズんとこに帰るかもよ…?」

 

ぐっ…。

 

「それか、全然違う人と恋に落ちたりして?松潤みたいなんとか、一周回って相葉ちゃんとか(笑)」

 

うぅぅっ……。

 

それは…すげぇ辛いけど……。


めちゃくちゃ悲しいけど………。

 

「………あなたが思う幸せがそこにあるなら、俺は応援する。あなたが笑えるなら、自由に生きられるなら…俺は何でもいいよ。」

 

絞りだした答えに、そっか、と呟く声はどこか温かい。


 

俺の気持ちはあなたへ届いているのだろうか。

 

何億分の一でもいい。

 

あなたの心の拠り所とまでは言わないけど

 

辛くなった時にふと思い出してもらえて、少しでも気がまぎれたら、心が軽くなったら、と願ってる。

 

どこであっても、どんだけ時間が経とうとも。

 

あなたが疲れた時に、絶望した時に、心の奥底を照らす一筋の光になれるなら

 

あの夢の中の智くんのように、俺が手を差し伸べられたなら

 

それだけでこの想いは報われる気がするから。

 

「…じゃぁ…」

 

智くんはポケットからくしゃくしゃになった封筒を取り出す。

 

「返す。」

 

差し出されたそれを受け取り中を見ると、一万円札が4枚。

 

「…これは…?」

 

「先生が酔っ払った日にくれたお金。」

 

「…どうして?レッスン代なんだから智くんのだよ。」

 

「元々もらう気なかったんだ。だから先生が満足して帰る時に返そうと思ってた。」

 

智くんがふふ、と笑う。

 

「長居させちゃった。ごめんな。」

 

そんなことない、と強く首を振る。

 

「かけがえのない時間だった。ありがとう。…楽しかった。本当に。」

 

「…おいらも。楽しかったよ。先生も自由に生きてね。人の目なんて気にすんな。先生は先生の本と歌をつくりゃいーんだから。」

 

目尻に細めて笑う智くんは、やっぱり幼いのにどこか大人びて見える。

 

「…ありがと。智くんも…もう誰かのために生きないで。あなたは、あなたの人生を生きて。」

 

「…あんがと。…せん……翔、くん。」

 

 

智くんはやっぱり優しく笑って

 

最後に、引き寄せられるようにキスをした。

 

 

悲しくて胸を締め付ける程切ないそれを


 

俺は一生忘れないだろうと思った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「え、ヤバ!『桜大根』が新作出すって!」

 

「マジ!?あの超イケメン王子様!?絶対買わなきゃ!え、どっち?本?歌?」

 

「両方!マジ最近多くない?寝てんのかな?」

 

「この人絶対ワーホリ(仕事中毒)だよね(笑)」

 

「けどさぁ、ここ数年垢ぬけたっていうか…裏方じゃなくて自分で歌うようになってから急に歌が変わったっていうか…」

 

「わかる。何か期待したやつじゃないのにハマっちゃう。数か月失踪してから人が変わったようだってこの前テレビでやってた。

復帰後の『ありのままで』って曲、案外よかったし…けどマジださいよね名前w何なの急にw

『S』って名前からしてめっちゃクール系だったのにw」

 

「ね~!wでもさ~作品はなんか求めてるものと違うけどいいよね!染みるっていうか。MJとのコラボはもうないのかな~!」

 

「MJと言えばさぁ、演出家のDisco Starとかいう謎の人がチームに来てからなんか雰囲気ガラッと変わったよね!

めっちゃ親しみやすくなったし見ててすごい可愛いとか思っちゃう♡

今までクール路線だったのに!

専属の作詞家の二宮って人とトリオでなんか怪しい噂立ってるし…そっちも目が離せない♡」

 

「出たよ腐 女子(笑)でもさ~MJもいいけど、桜大根のあの曲、めちゃくちゃ好きなんだよね私!」

 

「あ~!あれでしょ!めっちゃバイト先で流れてる!!」

 

「ね~!『向かい合わせのキミと僕の瞳で めぐりゆく日々を見つめれば』~♪」

 

「『360度 見渡す限りの大きなパノラマになる』~♪、でしょ!超好き!!

あ~でも最新曲も好き!けど一番はあの切ないカップリング曲かなぁ~!名前なんだっけな~英単語のやつ!」

 

「あれね~超名曲だよね~!聴いてると泣きそうになっちゃう…あ~やっぱ桜大根、女いんのかな…」

 

「ぎゃ~やめて~!!!知りたくない知りたくない知りたくない!」

 

「けどそんな歌詞じゃない?遠距離っていうか、忘れられない人がいて~…って。」

 

「わかりみが深い…。は~こんな風に愛されてみたい~。」

 

「お前は無理だなw」

 

「うるさーいw夢だけ持ったっていいでしょ~!!」

 

「キャハハハ…」

 

 



 

街は、相変わらず酷く無感情に動いている。

 

喧騒はいつも通りで、耳障りだ。

 

それでも俺はこの音に慣れてしまっている。

 

雑踏。

 

噂話。

 

笑い声。

 

機械音。

 

怒涛に流れる音の洪水の中、俺は一人逆らって歩いているように錯覚することがある。

 

皆の進む方向に、俺は足を背けているのかもしれない。

 

過去を引きずっているのかもしれない。

 

この道は、『正解』ではないのかもしれない。


 

それでも足を踏ん張って歩けているのは、俺には光が見えているから。

 

あの夢の中で光を背負い微笑んでくれた、智くんが見えているから。

 

 

──せんせぇ。

 

 

舌ったらずな声が聴こえた気がして、振り返る。

 

勿論そこに智くんの姿はない。

 

いつも通りの人と音が溢れる街。

 

苦笑して向き直り、また一人、人並みを逆行して音を掻き分け進んでいく。

 

 

「そして 君の声で 我に返る…」

 

自分の曲を口ずさむのは恥ずかしいけど

 

ここ最近つい歌ってしまう。

 

「いつもの暮らしは続いている

何もかもが輝いてた あの日から…」

 

 

灰色の毎日にも慣れてしまった。

 

あなたがいただけでどれだけ色とりどりに輝いていただろう。


 

あれからどれくらい経ったかな。

 

一瞬な気もするし、永遠程長くも感じている。


季節がひとつ、またひとつ過ぎる度に苦しいほど締め付けられていた胸は、少しずつ現実を受け入れ始めている。


…なのに、彼のことを想わない日はない。

 

もう色褪せてくれてもいいんだけど。

 

全くその気配がなく、むしろますます思い出が美化されてしまうから困る。

 

 

「多分、あの時僕らは 歩き出したんだ互いに 違う道を…」

 

背中合わせで歩き出してしまったら、多分もう二度と会えないだろう。

 

けど歩みを止めることはできない。

 

あの島にとどまることも考えたけど、それはダメだと思った。

 

智くんがそれを望んでいない気がしたから、俺は東京に戻ってひたすら仕事に没頭した。

 

漫画しか読まないあなたに

 

民族音楽しか聴かないあなたに

 

 

俺の作品が──想いが。

 

届くように。

 

 

騒がしい街並み


すれ違っていく名も知らない人


みんなそう


大切な誰かがいて


胸を焦がしてる


 

そう思えた時

 

このくだらなくてつまらない世の中が、ほんの少し好きになれたんだよ。

 

ねぇ。

 

抱えたものの多さに潰れそうなその時には思い出してほしい。

 

短かったけど

 

繋いでいたその手は

 

共に過ごした時間は、絶対に嘘じゃないから。

 

そうでしょう?

 

 

二人の時間を過ごして

 

あなたのことを段々分かってったのに

 

突然の別れで散々泣いて。

 

けど後悔なんてしてない。

 

あなたのやりたいことが余すことなくやれるよう、全力で祈ってる。

 

だから

 

あの島では待たないよ。


 

だけど

 

これだけは忘れないで。


 

 

僕は尚、あなたに逢いたい。

 

 



 

 

逢いたいんだよ。