※妄想のお話です。
有言不実行でごめんなちゃい…
1年目は1日3投稿くらいしてたのに…
あのハイは何だったんだろ…(笑)
「…え、おいらと?」
「ええ…来月からうちの雑誌で新しい企画としてtortugaというブランドの服を取り扱い始めるんですが。
そこの社長がどうしても大野さんのエッセイの世界観と合わせた特集が欲しいと申しております。
それかキャッチコピーでも、と…。」
「おいら服とか全然わかんないよ?」
「服についてどうこうというよりは、世界観を取り入れたい様子でした。とにかくSakura先生にお願いしたいみたいで。
勿論断れますが!とりあえずお話だけでも通させて頂きたくて…。」
「…とるとーが…ん~それどっかで聞いたなぁ。」
大野さんが首を傾げる。
「お待たせしましたぁ?ココアとカフェラテでぇす?」
店主がことりとソーサーとシナモンを置く。
「あんがと。」
今日もドロドロのココアは健在だ。
俺もカフェオレシナモンスティック付き一択。
ご名答。どハマりしてる。
この店以外で見たことないけどね。
「tortugaは誰もが知る、とまではいきませんが、かなり有名なブランドになりつつありますから耳にしたことはあるかもしれませんね。」
…とは言いつつ。
あまり世間のことに興味無い大野さんがブランド名知ってるとは思ってなかったから驚いた。
(因みに家にテレビもないらしく、どれくらい情報を仕入れていないかと言うと東京オリンピックが来年だということも知らなかったらしい。信じられない。)
それほどtortugaの知名度が上がってきたということだろう。
結構次の部数は期待できるんじゃないか?
「ん~いいよ。」
「えっ、いいんですか?」
そんな二つ返事でOKもらえるとは思ってなかった。
「だって、そしたら雑誌売れるんでしょ?桜井さんの成績もよくなるんだよね?」
優しくへにゃりと笑われて、ドキッとする。
「…俺の…為…?」
「んふふ。」
優しく笑うだけのそれは、肯定…?
大野さんがちらりと俺を見て、目が会った瞬間そらす。
ねぇ、あなたはまた俺に恋に落ちてくれているのかな。
いつも決まった運命で、そうなんだと勝手に思ってるけど。
何度も何度も経験した両想い。
それでもあなたの好意を感じる瞬間は、一瞬で舞い上がってしまう。
もしそう言ったら、馬鹿だなって笑うかな。
だけどそれ程あなたが愛しくて、恋しいんだ。
だから俺は…この輪からいつまでも抜け出せずにいるんだよ。
本当は諦めたい。
傷付くだけの恋なんてしたくない。
あんな辛い想い、嫌だ。
もう、あなたのことなんて忘れたいのに──。
「ほんじゃ、どんなページか見てから…ふあぁぁ…。」
大野さんが大きなあくびをして、「打ち合わせ中なのにごめんなさい」と一言。
「いえ、そんなのは気にしないでください。…大丈夫ですか?寝不足…ですか?」
「そうなの…今絵の仕事2つと執筆3つ抱えてるんだけど、なかなかうまく進められなくて。」
俺は作家じゃないから5つと言われてもぴんと来ないけど…多くないか?
Sakura先生はただでさえ売れっ子で。
大手と契約せず、何にも縛られず色んなことを表現している人だけど…こんな簡単にまた新しい仕事を入れてしまって大丈夫なのだろうか。
「…大野さんは…どうしてそんなに仕事を入れるんですか?」
何よりうちの仕事が不可解だけど…何かに焦っているように見えて。
何に突き動かさてるのかなって、ふと気になった。
「ん~…自分の為、かな。」
「…自分の?」
「自分が残しておきたいことを、自分の為に書いてる。それだけだよ。後悔したくないから、自分で決めた目標を守りたいの。」
あなたは
どの時代でも、眠そうにしてるのに
どの時代でも、強い瞳をしていた。
頑固なそれは時に俺を困らせたけど
しっかりとした意思を持って曲げない姿勢は、いつも憧れて止まなかった。
「…本当に素敵ですね。努力家で…芯があって…。」
「何で?」
「何で…って(笑)」
きょとんとした顔で見られて、思わず笑ってしまう。
昔からそうだ。
自分のこととなるとてんで無関心。
どれだけの努力を重ねたか、絶対に見せないで。
ひょいとこなせてしまうように見えるから、周りは皆才能だと言う。
勿論、あなたは才能あふれる人だ。
…何より、『努力』の。
「これまでたくさん、頑張ってきたんでしょう?」
…って偉そうですね俺、と笑うと、大野さんが目を見開いた後照れくさそうに笑って「じゃぁ」と繋げる。
「…桜井さんも素敵だね。」
「…え?」
何で急に俺??
「だって、桜井さんだってものすごく頑張ってるじゃん。おいら知ってるよ。雑誌のコラム、読んでたら分かるよ。
すごく頑張り屋さんで、優しくて、他の人こと手助けしてるとか。」
そんな風に褒められるなんて思ってなくて、驚いてカフェオレを飲みながら咳込んでしまった。
「そ、そんなの…手助けとか…」
「分かるよ。ん~と…1月号の凧揚げとかの正月についてのコラム、著者の名前は有森さんって人だったけど、あれ桜井さんの文だったでしょう?」
…嘘だろ。
確かにそうだ。
有森が間に合わないからと半泣きになっていて、俺が埋め合わせにこっそり書いたのは間違いない。
だけどそんな話、編集長はおろか、有森と俺しか知らないはずで…。
「何回かそう感じたことがあったよ。あと…次号の予告文とかも毎回桜井さんなんじゃない?」
「…!どうして…!」
「んふふ、やっぱり。文章ってどうしても癖が出るから、すぐ分かるよ。」
…マジか。
ええ、そんなこと考えたことなかった。
現に編集長にもバレなかったし…
「凄ぇ…。物書きの先生は…そんなことまでわかるんですか?」
「…まぁ…他の人のはわかんないけどね。」
…え?
ぽつりと大野さんが言った言葉に、目が点になった。
「……それって……」
それって、俺の文章ならわかってくれる、ってこと?
それほど…あなたは、俺の文章を読み込んでくれたってこと……?
打ち合わせ中に大きなあくびが出てしまうくらい忙しいのに……?
「…何でもない。ね、早く飲も。冷めちゃう。」
大野さんは気のせいか顔を赤くして、ドロドロのココアを小さく啜った。
ねぇ、またあなたに心をかき乱されてしまうよ。
逃れられない運命は
何度も俺をあなたという沼へと突き落とす。
足を取られて出られなくなるそれは
心地よくて、夢みたいで、幸せを煮詰めたような甘ったるい場所で
この先『必ず来る闇』が分かっていても、俺はそこから逃げられない。
大野さんの書きかけの原稿に目を落とす。
『恋が終わる時を知っていますか?それはフラれた時でも相手を失った時でもない。あなたがその恋を、見捨てた時。
つまりどれだけ片想いをしていたとしても、あなたが全ての主導権を握っているのです。あなたの恋の未来は、あなたが決めるしかないのです。』
そう。俺は知っている。
突然無慈悲に相手を失っても、決して恋は終わらない。
大切な人が急に消えたからって、終われるはずが、ない。
──全て。
全てが同じだった。
お互い恋に落ちて想いあうのに
彼は必ず俺と歩む道を選んでくれない。
関係が進まず四苦八苦してる内に事故や事件で彼が先にいってしまって
俺が後を追う。
その繰り返し。
何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
俺は彼の居ない世界を味わった。
もう、限界だって
あなたに生きて欲しくて、あなたとの恋が始まらないように必死で回避したりしてたけど
そんなの到底無理で
俺は運命に身を任せるしか出来なくて……。
そう、何度だって諦めてきた。
だってあなたは覚えてないから。
だってそう運命が決まってるから。
そして何となく…変えちゃいけないって思ってしまうから。
この『決まった輪廻』を。
だけど…
──僅かでもさ。可能性があれば、俺は飛び込むよ。後悔したくないし
松本の声が蘇る。
──恋が終わるのは、あなたが見捨てた時。
大野さんの綺麗な文字が、俺の胸奥でずしんと響く。
今度こそは、って思ってもいいだろうか。
チャンスを掴むため…本当のことを告げてみても良いのだろうか。
そうしたら、少しは運命が変わるんだろうか。
あなたと添い遂げたい。
結ばれて、愛を口にして、確かめ合って。
あなたの横でしわくちゃの老人になって、それでも手を繋いで歩きたい。
移ろいゆく季節と時代を
一緒に感じて生きていきたい。
「とにかく、とるとーがの人に話通しといて。」
「ありがとう…ございます。…大野さん。」
「うまくいくといいね。」
「…はい。色々。上手くいかせてみせますから。」
「…?うん、頑張ってねぇ。」
大野さんがふわりと笑う。
言おう。
俺が経験してきた過去のことを。
あなたとの、たくさんの恋のことを。
運命を
変えたい。
俺は今度こそ彼と…
ううん
俺は、『今生のあなた』と
ハッピーエンドになりたいんだ。