※妄想のお話です。
「山は時空を超えて恋してる」
山友達さんからの名言です。
いやマジ名言。
ちょうどこの話をぼんやり練ってた時に言われて、爆発した(?)
「先生」
そう呼ばれて振り返ると、いつもあなたはふわりと笑っていた。
「おはよぉございます。」
「おはよ。今日は寒いな?」
「寒いですね~!あ、そうだ先生、昨日の授業のことなんですけど…」
登校中に一緒になって肩を並べて歩いた並木道。
『今』よりずっと木々は多くて、運動靴なんてものは存在しなくて。
教育機会均等法は整っていない明治のかなり初期あたり。
学校は下等小学校(4年)と上等小学校(4年)に分かれており、
俺は上等小学校の4年の担任をしていた。
彼は他の学校からやってきて、俺の学級の生徒になった。
転校してきたばかりの彼は学校に馴染めず、意図せず俺に頼るようになった。
転校生として彼が来た時は驚いて…だけどすごく嬉しくて
当然、決まっていたかのように二人の距離は急激に縮まった。
「この数式って…」
「ああ、それは…」
とん。
優しくぶつかる手と手。
一瞬二人が息をのむも、お互い気付いたそぶりは見せずそのまま会話を進める。
バレてはいけなかった。
歳の差は勿論、この関係は。
教師が生徒に手を出すなんて、誰かに知られたら大変なことになる。
そう、互いが理解していた。
だけど。
放課後自分のまとめた小試験の解答を落としてしまった時、彼はどこからともなく現れて。
「手伝います」
「あぁ…ありがとう。」
部活動なんてものは当時なかった。
だからしんと静まり返る校舎で、沈黙に妙に緊張したのを覚えてる。
その散らばった用紙を集めていると、手が触れた。
ドクン、と心臓が高鳴り、彼を盗み見た。
目が合って…生唾を飲み込んで。
…そのままキスを…
し、『かけた』。
そうだ。あの時。
彼は俺の唇に指を置いた。
「 」
…あの時彼は、何て言ったっけ…?
ぐしゃり。
自分が持っていた卵の落ちる音でハッとした。
縁側の窓は開いていたらしい、二人も俺を見て驚きの表情を浮かべる。
「…す、すみませんっ…俺…急に来ちゃって…!」
「え、さくらいさっ…ゲホッゲホッ!」
「ちょ、智!お前熱っ…!」
慌ててその場を逃げ出した。
智。
智、だって?
何故二宮くんが?
大野さんの家で、二人でどうして……
頭の中をぐるぐると疑問符が回る。
走っても走っても、頭はまとまらない。
おかしい、おかしいよ。
大野さんと俺は両想いのはずで
俺は大野さんが大好きで
彼は──。
…ああ、そうか。
そりゃそうだよな。
いつの間にか会社の前に戻っていて、俺は扉の前で足を止めた。
そうだよ。そうとしか考えられないじゃないか。
「…今世では…両想いになれなかったんだ…。」
当たり前だと思ってた。
彼に出会って
彼に恋して
彼も同じ気持ちになってくれて
彼と過ごして
先に彼が逝 ってしまうということが。
俺はその運命が変わることを望んでいたのに
好きになりたくないと、好きにさせるなと、そう思ってたのに…。
どこまで自分勝手なんだ、俺は。
好きなら後悔しないように動くと松本は言った。
素敵な子を前に何もしないなんてどうかしてると雅紀は言った。
その通りだ。
運命通りになるという保証なんてどこにもないのに
動かなかった俺が悪い。
出会った直後から言えばよかった。
愛してる、って。
初めまして、の代わりに。
俺は臆病で
自分だけが辛いからって悲劇ぶって
過去を言い訳に何もしなかった。
ただ現状を嘆きながら身を任せてるだけだった。
「…最低だな、俺…。」
こんなんじゃ好きになってもらえるわけがない。
彼の好意が他にいったって、何も責められない。
諦めなければ。
終止符をどこかで打たなければならない。
大野さんのこと忘れて。
好きな気持ちに蓋をして。
これまでのことをなかったことにして。
だって、二宮くんと大野さんがそういう関係なら、俺にどうこうする権利……。
──恋が終わる時を知っていますか?それはフラれた時でも相手を失った時でもない。
──あなたがその恋を、見捨てた時。
ふと、Sakura先生の流れるような文字が脳裏に浮かんだ。
見捨てる?
俺が…大野さんを…?
ずっと一緒に生きてきた、あの人を……見捨てる、だって?
…んなこと
出来るわけがねぇ。
この積み重なった膨大な恋心を簡単に手放せるわけがねぇ。
この時空を超えた大きすぎる恋が
こんなところで終われるわけがないだろ。
俺の恋心が
たかが失恋ごときで、なくなるなんて
有り得ない。
「…なめんなよ。神様。」
戻ろう。
手遅れになる前に。
身体を壊している大野さんの元に。
でなければきっと後悔する。
くるっと踵を返すと、
「翔ちゃんっ!!」
雅紀が事務所から慌てて飛び出してきた。
「よかった、会えて!今なぜかニノちゃんから事務所に電話があって…!」
階段を駆け下りたのか、息が切れている。
二宮くんということは、さっきのことの説明があるのかもしれないけど。
俺は一刻も早く大野さんに直接会いたいんだ。
「わり、今それどころじゃ…」
「Sakura先生、庭で倒れて石で頭打ったみたいで!血出ちゃって、今病院に運ばれたって!」
あ
今回の別れは
俺のせいかもしれない
そう、反射的に思った。