あれから二日後がたち、蓮の風邪も治り、

「ありがとう、キョーコちゃん。おかげで助かったよ。」

社の風邪もようやく治って復帰した。

「そういえばお前、風邪ひいたって聞いたけど、大丈夫だったのか?」

キョーコから隣に立っている蓮に顔を向けて聞けば、

「大丈夫ですよ。最上さんが看病してくれたので。」

にこっと彼は笑って答える。

(…さどかし、いい思いをしたんだろうなお前…。)

何となく社はそんな気がした。

「あ、そうだ。キョーコちゃん、高校に入るんだってね?」
「はい、ずっと行きたかったので嬉しいです。」
「でも、大変じゃない?女の子が高校の受験料とかそういうの払うのって。」
「それが…思いのほか凄く安くて。私もびっくりしてるんです。」

こんなに安くていいんでしょうか、とキョーコは受験料などの金額を述べると社もびっくりして、

「確かに凄く安いね。」
「ですよね?」
「むしろ安すぎて、なんだか不安だな…。」

本当に大丈夫なのかと疑うと、

「大丈夫ですよ。社長の知り合いの高校らしいので。」

蓮がにっこりと笑って言う。その笑顔に社は悟った。

彼はこの件に関して一枚何か噛んでいると…!

(ツッコミたいっ。ツッコミたいけど…ダメなんだろうな…。)

そうしないほうが己のためであり、キョーコのためだろうと自分に言い聞かせた。

その後、キョーコは見事に編入試験に合格したらしく、

「今日から学校らしくて、早めに学校にいきました。」

マンションにいけば、出迎えたのがキョーコではなく蓮で、キョーコちゃんは?と尋ねたら、こう答えてきたのだ。

「その高校は制服なのか。」
「ええ。」
「へー。可愛かったか?」
「はい。それはもう。」
「そうか~。俺も見たかったな~。」

キョーコの制服姿を想像して素直にそう言ったら、ぴきっと蓮が固まる。

「…社さん?まさか、そう言う趣味があるんですか?」
「は?」
「だから、そう言う趣味があるんですか?」
「なにをだよ?」
「だから!社さんは制服姿に欲情する趣味でもあるんですか!?」
「はぁ~!?あるわけないだろう!!」
「さっき、見たいって言ったじゃないですか!!」
「そう言う意味で言った覚えはない!!むしろ、そう言ういかがわしい趣味が出来そうなのはお前のほうだろうが!!」
「最上さんだけです!!」
「開き直るな!!」

息をする暇もなく口論したせいか、そこで二人は息が荒くなり、一生懸命に息を整える。

「…って、朝から何て話をしてるんだ…。」
「まったくですね…。」
「そろそろ行くか…。」
「はい…鞄をとってきます…。」

中へと引き返し、蓮は荷物をとりにいき、一分もしないで戻ってきて、ドアに鍵をかけた。

「そういえばさ。」
「なんですか?」
「お前に言わなきゃいけないことがあるんだけどさ…。」
「何です?改まって…。」
「いや…正直言いたくないんだが…後々大変だから言うぞ?」
「…?」
「社長からの伝言でな?お前の母君がお忍びで今日、来日するらしい…。」

社が言い終わるのと同時に蓮は持っていた鞄を落とし、

「…は?」
「いいか?もう一回言うぞ?お前のは母君が来日するらしい。しかもお忍びで。」
「な…!?」

これでもかと言うくらいに目を見開いたのだった…。






「こんなにあるんだ、参考書って。」

ローリィから高校の話を聞き、編入試験を受けることになったキョーコは本屋に来ていたのだが、沢山並べられた参考書に蓮が感想を言えば、

「いっぱいありすぎて、なにを買っていいのか逆に分かんなくなっちゃいました…どれにしよう…。」

キョーコは途方にくれる。店員さんに聞くのも考えたが、蓮がいるのは止めた。帽子とサングラスをしているから遠目では分からないだろうが、近くでよく見れば分かってしまうだろう。騒ぎになったら本を買えなくなるに決まっていた。

「…って!敦賀さん、何を買う気ですか!?」

何となく蓮のほう見たら、彼が“サルでも分かる、ことわざ集”とサルの絵が表紙の参考書を持っていたため、ツッコミをいれる。

「え?参考書だけど…。」
「それは見れば分かってます!でも、どうしてサルなんですか!?」
「一番、分かりやすそうだから。」

俺、国語苦手だよねと参考書をパラパラと捲りながら言う。

「敦賀蓮のイメージがあるんですから“それ”だけは、やめてくださいっ。」

他の客に聞こえないように出来るだけ声を小さくして彼女は彼を止める。

「えー。俺、これがいい。」
「ダメです!」
「これがいいのに…。」

止められた蓮は気に食わないのか、頬を膨らます。まるで子供のよう。

「…ぷっ。敦賀さん、子供みたい。」

そんな彼に、ふふとキョーコが笑うと恥ずかしくなったのか蓮は頬を赤くし、

「そう?」
「そうですよ。俺は風邪なんてひいてないって言い張ってたじゃないですか。」
「だって、本当にそう思ってたから…。」
「ふふ、そうですね。そんな子供な敦賀さんには、こっちのほうがいいですよ。」

そう言って彼女が差し出したのは、小学生用のことわざ集。

「小学生って…。」
「サルよりはマシです。サルよりは。」
「そうだけど…。」

じー、と参考書を見つめた蓮は溜め息をつき、

「それで最上さんは何を買うの?」
「適当に良さそうのを買うことにしました。」

彼女を見れば、既に何冊か物色しており、数分くらいで良さげな全科教科の参考書を見つけ、購入した。

その夜中の三時。

良い子はすっかり夢の中だと言うのに、キョーコは未だにリビングで勉強していた。

蚊の羽の音くらいに小さな声でブツブツと言いながら、参考書を広げてノートに問題を解いている。

「…最上さん。」
「ひっ!?」

よっぽど集中してたのか、蓮がリビングに入ってきたことに気づかなくて彼女は悲鳴を上げてしまった。

「ご、ごめん。びっくりさせるつもりはなかったんだけど…。」
「い、いえ…私が気づかなかっただけなので…あの、なにか用ですか…?」
「用はないけど…。」

ちらっと蓮はテーブルの上にある参考書とノートをみて、

「そろそろ寝たらどう?」
「でも、まだ勉強が…。」
「…その台詞、俺が寝室にいく前にも聞いたけど?」

はぁ、と溜め息をついて呆れる。

「そ、それは…。」
「それとも、こんなに必死にならないと受かる自信がない?」

違うだろ?と聞けば、キョーコは黙りこんだ。

「君は頑張りすぎだよ。」
「え…?」
「何事にも一生懸命なとこは君の良いところだと思う。でも…。」
「…!」

突然、片目を触れられてキョーコは反射的で目を閉じると、

「目が赤い。」

瞼にキスを落とされて、リップと共に離れていき、キョーコは頬を染める。

「頑張るのはいいよ、もちろん。でも頑張りすぎると逆にミスになって結局ダメになる。無理をして風邪をこじらせたり、徹夜でやってテスト中に朦朧したり…。」
「そ、それは…。」
「最上さん、君が今しているこの勉強は誰のため?もちろん、自分のためだ。母親に褒めてもらうための受験じゃないんだよ。」

キョーコは目を見開いた。あ、と声を上げる。

「…あはは、可笑しいっ。」

そして彼女は笑い出す。

「私、無意識に100点をとらなきゃいけない気になってました。あはは、バカみたい!」
「…最上さん。」
「はい?」
「一緒に寝ようか?」
「…はい。」

こくんと頷くと、おいでと招くように蓮が両手を広げたため、キョーコはゆっくりと彼に抱きつき、彼も彼女を抱きしめた。

その仕草はとても優しく包む込むようで…。

(…ありがとうございます、敦賀さん…。)

また、古傷を癒やそうとしているようだった…。



゜・:,。゜・:,。★゜・:,。゜・:,。☆


あとがき

貴方の隣で私は密かに咲く、60話目です。

すみません、最後のところは少しわかりにくいかもしれません(^_^;)

とりあえず、このシーンは絶対に入れたかったので目的達成です。

次回、風邪ひき編は完結し、ある人物が登場します。お楽しみに(誰も楽しみにしてないかもしれないかもしれませんが;


ローズ





その後、ローリィは帰っていき、蓮の撮影が終わるまでキョーコはローリィから渡された編入試験に必要な書類などを確認していた。

「このくらいなら大丈夫かな?」

試験内容が思ったよりも簡単そうでキョーコはホッと息をつく。

「でも、不思議ね。授業料こんなに安くていいのかしら?」

何だか異様に授業料が安いのだ。不思議に思いながら、キョーコは首を傾げれば、

「最上さん。」
「へ?あ…お疲れ様です、敦賀さん。」

撮影が終わったのか、蓮がこちらにくる。

「お腹すいてない?お弁当もらったから、タクシーの中で食べようか?」

彼の手にはお弁当があり、キョーコに笑いかける。

「はい。でも、敦賀さんは食べますか?食欲いつもよりないんじゃ…。」

通常でも蓮は食欲が無いと言っても等しいため、彼女は心配そうに聞けば、

「…やっぱり食べないとダメ?」
「ダメです!やっぱり食べないつもりだったんですね!?ダメですよ!食事をとらないとお薬のめないんですから!!」

やはり蓮は食事をとるつもりがなかったらしくキョーコは怒る。

「…分かった。できるだけ頑張って食べるよ。そのかわりにしてほしいことがあるんだけど…。」
「はい!なにをすればいいでしょうか!?」

食べてくれると聞いて、笑顔で内容を聞けば、蓮はにっこりと笑い、

「食べさせてくれると嬉しいな?」

と仰せられた。

「…はい?な、何をでしょう?」
「これを。」

これと言うのは、もちろんお弁当のことである。

「な…なな!?」

理解してキョーコは顔を真っ赤にした。そしてすぐに、

「む、無理です~!!」

首を振って嫌がった。

「じゃあ、食べなくてもいいよね?」
「ええ!?ダメですよ!!」
「じゃあ、食べさせてくれる?」
「そ、それは…。」
「別に食べなくても俺はいいんだよ?」
「良くありません!!」
「じゃあ、食べさせてくれるよね?」
「っ…。」
「ね?」
「わ…わかりました!!やります、やりますとも!!」

ヤケになったのか、キョーコは羞恥心を捨てる。

そんな彼女を蓮は面白そうにクスクス笑っていた。

「ど、どれが食べたいですか?」
「卵焼きが食べたいかな?」

荷物をもった後、タクシーを拾った二人は早速、お弁当を食べることになり、キョーコは捨てきれなかった僅かな羞恥心で箸が震えながらも、卵焼きを箸でつまんで、

「く、口をあけてください…あ、あーん。」
「あーん。」

蓮の口元へ運べば、彼は口をあけて口内に卵焼きを招き入れた。

「美味しい。」
「そ、それは良かったです。」
「今度は最上さんが食べないとね。はい、あーん。」
「え…ええ!?」

彼がコロッケを箸でつまんでキョーコに差し出すため、彼女は驚愕するのと同時に羞恥心が戻ってくる。

「じ、自分で食べます!!」
「でも、君は俺に食べさせるのに忙しいだろう?」
「じゃ、じゃあ!敦賀さんが食べ終わった後に食べます!!」
「でも、そんな時間はないのは最上さんも分かってるよね?」
「そ、それは…。」
「食事はちょっと穫らないダメだよ?」
「う゛う…。」
「はい、あーん。」
「あ、あーん。」

恥ずかしさのあまり、涙目になりがらキョーコは口をあけてコロッケを口内に入れた。

「美味しい?」
「お、美味しいです…。」

もぐもぐと噛んで飲み込むと、今度は俺ね?と言われて彼にご飯を食べさせ、その後に自分も蓮に食べさせられると言う状態が続き、食べ終わるころには長いタクシー移動は目的の場所へと着いたのだった…。






「馬鹿やろう!!お前、熱があるのにやる気だったのか!!」

雷が落ちるように怒鳴ったのは、ローリィだった。

いつものように大変、嫌でも目立つ煌びやかな衣服をお召しである。

何故、ここに彼がいるのかと言えば、キョーコに話があったらしく、このロケ場にきたらしいのだが、蓮を見た途端に彼が調子が悪いと気づいた。

『聞いてください、社長さん!!敦賀さん、熱があるのに雨で濡れるシーンをやろうとしてるんですよ!?』
『なに!?』

と言う具合でキョーコが事情を話せば、ローリィは蓮に雷を落としたのである。

「そうですよ!!もっと言ってください、社長さん!!」

雷を落としたあと、キョーコも加わる。実は彼女はローリィが来る前から蓮に雨のシーンを止めるように説得していたのだが、自業自得だからだと聞いてくれなかった。

そんな蓮だが、流石に二人に怒られたせいか、気まずい表情を浮かべている。

「風邪が悪化したらどうするんですか!?」
「そうだぞ、蓮!!お前が仕事が出来なくなったら、困るのはお前だけじゃないんだ!!」
「す、すみません…でも…。」
「でも、じゃないですよ、敦賀さん!!」
「最上くんの言うとうりだ!反論は認めんぞ!!」
「う゛う゛…。」

反論もさせてくれないので、だんだんと小さくなっていく蓮。

結局、このシーンはキョーコとローリィが監督に事情をはせば、監督は渋りながらも、今後を考えて、人工雨で降らせる予定だった雨を取り消しにしてくれた。

ちなみに監督がローリィに少しばかりビビっていたのはここだけの話である。

「それじゃあ、俺は帰るぞ。」
「あ、はい!!あと高校の件ありがとうございます!!」

ぺこりとキョーコは頭を下げてお礼を言う。

どうやら話の内容は高校についてらしい。

「礼は及ばない。それよりも編入試験に受からなきゃな?」
「はい!!」
「あと、俺よりも蓮に礼を言ってやれ。こいつが最初に言い出さなきゃ俺は動いてねぇしな。」
「…え?」

そう言われて彼女は蓮を見れば、彼は苦笑いし、

「約束したからね。知り合いに聞いてみるって…。」
「あ…。」

そういえば…とキョーコは思い出す。

「…ありがとうございます、敦賀さん。」

本人すら忘れていたのに覚えていてくれてキョーコは嬉しく感じた。

「お礼なんていいんだよ?俺は何もしてないし。」
「…ほ~?」
「社長。」

にっこりとローリィに笑う蓮。

「…お前、性格が悪いよな。」
「人聞きの悪い。」

そんな彼に頬をひきつらせるローリィ。

「…?」

二人の会話の意味が分からないキョーコは首を傾げたのだった…。




くだらない短編「どうしてこうなった」の魔王様視点で、ついでに魔王ってことで魔人のリク罠「1行お題」の「大魔王の初恋」にハマろうかとw
まぁ、元がくだらないのでこちらもくだらないです。それでもよろしい方はどうぞw


゜・:,。゜・:,。★゜・:,。゜・:,。☆


俺が彼女に初めて彼女に出逢ったのは、まだお互いに子供の時。

魔界と天界の狭間だった。

ツインテールにした綺麗な黒髪。琥珀の瞳。

そして何よりも、何事にも一生懸命で一途な彼女。

気づけば、俺は彼女に恋をしていたから、

「大人になったら、結婚してほしい。」

彼女にプロポーズした。

俺は魔界の王子だったけど、魔界の王が天使を娶ることだって少なくないから問題ない。

「結婚?レンと?」

当時、俺は王子と言うことで刺客に狙われていたから、髪も目も魔力で黒に染めていて、名前も偽っていた。

「うん。嫌かな?」
「ううん!結婚ってずっと一緒にいるってことだよね!?」
「そうだよ?」
「じゃあ、レンと結婚する!」
「…!本当?じゃあ、誓いをたてようか?」
「誓い?」
「そう。こうやって…。」

俺は彼女の両頬を両手で包み込んで、その可愛らしい唇にキスする。

同時に俺は魔力を彼女に流し込んだ。俺のモノだから、誰も手が出せない魔法をかけるために…。

その後、俺は彼女を…キョーコを娶るために本格的に魔王になるための修行に出た。

「行かないでっ。」

と泣きはらすキョーコは可愛くって、胸が痛んだけど、魔王にならなきゃ彼女を娶るのは基本的に難しい。

別れを惜しんで別れたけど、それを今は後悔している。

キョーコは俺が去った後、天使としての仕事中に事故にあい、俺との記憶を忘れてしまったのだ。

しかも、挙げ句の果てに人間の男なんかに一目惚れして人間のフリなんてする始末。

俺ははらわたがひっくり返そうな気持ちだった。唯一の救いは、俺以外が彼女に惹かれないと言うこと。

そのせいでキョーコは傷ついて堕天使になってしまったと言っても過言じゃないけど、俺のことを忘れてしまったからお互い様だ。

「彼女をください。一生かけて幸せにします。」

何もかも既に知っている神に彼女を娶ることを願い出る。

「いいだろう。ただ、お前の愛に彼女が逃げ出さなきゃいいな?」
「逃がしませんよ。逃げても追いかけます。ずっと。俺が死ぬまで。」
「…相変わらず、お前の愛は重いな。」
「何を今更。」

本当に今更だ。俺はキョーコなしでは生きていけない。

「それじゃあ、頼みましたよ?」
「ああ。」

こうして、キョーコはリボンを結ばれた状態で俺の前に現れた。

まるでプレゼントのよう。

俺は早速彼女にキスして、そのまま、俺の奥さんにした。

え?彼女は承諾して結婚したのかって?

当たり前じゃないか。

「嘘です~!!私は承諾した覚えなんか…。」
「なんか言ったかな?」
「ひっ!な、何も言ってません…っ。」
「そうか。じゃあ、一緒にお風呂に入ろうか?」
「え。」
「隅々まで洗ってあげるよ。」
「ちょ、ちょっと待っ…。」
「行こうか?」

ひょいと俺はキョーコを肩に担いで浴室に連れていく。

「い、いやぁああああああ!!」

城に彼女の可愛い悲鳴が響いたけど、俺を止められる奴なんて、この魔界にはいない。

「たっぷり可愛がってあげるよ。」

今日も俺は幸せです。


゜・:,。゜・:,。★゜・:,。゜・:,。☆


あとがき

はい、発言どおりにくだらないモノになりました。

魔人さん、こんなくだらないものでゴメンナサイm(_ _)m


ローズ