妄想小説?と呼べるのか否か -2ページ目

妄想小説?と呼べるのか否か

艶が~るに関する内容です。

それを君が望むのならの詳細はこちらから


↑冊子のお申込みをしていただいた皆様、ありがとうございます!!

ただ今、鋭意製作中です。今週中にはご連絡できると思いますのでしばらくお待ちくださいませ!!

アメンバー限定記事ですので、ご興味があれば申請くださいませ。




さて。展示にも出させていただきました、花里主役のお話、『記憶』です。

こちらのお話にも、ナツミンさんが挿絵を付けてくださいました!!

描きこみ量もさることながら、私が説明不足だったとしても、それを全てくみとってくれているのか、想像通りの姿勢とか、情景が仕上がってきたときの私の喜びっぷりったら!!←


では、前置きが長くなりましたが、よろしければお楽しみください!

ついでに言うと、めちゃくちゃ長いです。夜のお供にでもどうぞ。


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『記憶』

  

 1


 私には、幼い頃の記憶がない。……ないと言っても、全部が全部ない訳ではなく、具体的に言うのであれば、この置屋に来る以前の記憶が全くと言っていいほど、私の記憶からは抜け落ちていた。
 禿として働いていた幼少期。その時に自分を可愛がってくれた姐さんや、いつの間にか―今となっては理由も分かるが―姿を消してしまった姐さん達の顔。それから、新造に至るまでの目まぐるしい日々。これらは全て思い出せるのに、自分が禿になった経緯を思い出そうとしても、何故か思い出せないでいた。
 自分がここに存在するという事は、もちろん私にも一般的な人間同様、両親がいるということだろう。その事実に気付いた瞬間、次に頭浮かんだのは、自分は両親に会いたいのか?という疑問だった。
 一時期、私は自分の生い立ちが気になって、躍起になった事がある。それこそ、番頭や若い衆を捕まえて、自分がどうしてここに来たのか、その理由を知らないかと聞きまわったほどだった。しかし、誰もかれもが口を閉ざし、何も話してはくれない。それは私を気遣ってなのか、本当に知らないのかは、その時には全く分からなかったが……後々になって、もし私が同じように問われたら、その子に気を遣うだろうと思うあたり、きっとあの時の皆も同じ様に考えていたのだろう。
 そうして、それでも当時、皆の想いにも気付かずに一人憤慨していた私は、姐さん達に、『自分の生い立ちを知ってどうする。ここには色々な事情がある娘達ばかりいる。ここに来る以前のことを思い出したくない娘だっている。忘れている方が、幸せということもあるんじゃないのか』と何度も諭され、そうこうしているうちに、いつしか私は自分の記憶探しを止めていた。
 昔はともかく、今となれば、『両親に会いたいか?』と問われたとしたら、私は迷いなく『いいえ』と答えるだろう。何故なら、両親が居ても居なくても、記憶があってもなくても、別に寂しくも思わなかったし、生きていく上では別段何の不便もなかったという事を知ったからだ。
 私の傍にいる、沢山の姉妹。両親の記憶はないけれど、時に母の様に、時に姉の様に叱ってくれる姐さん達。それから、父の様に大らかに受け止めてくれる、番頭さんや若い衆の人達。―そして、兄の様に、本当の家族のように何でも接することの出来る楼主、秋斉さんが居てくれたから。だから私は、今の今まで、寂しさを知ることもなく、生きて来られたのだ。

 そう。『あの時』が来るまでは。


  2


 最初は不思議な子としか言い表せられなかった。
 異国の服を着たまま、秋斉さんの元へと連れて来られた女の子。身元も正体も不明なまま、彼女はこの置屋で働くこととなった。
 秋斉さんもいまいち事情が呑み込めていなかったようで、大した説明もないまま、年の近い新造という理由から、私は彼女の世話係に任命された訳なのだが―…遠い所から来たと話すその子は、本当に不思議だった。何より驚いたのは、百歩譲って髪の毛の結い方は知らないのはまだしも、着物の着付け方を一切知らないというのだ。一体、今までどんな生活をしてきたのかと疑問を抱いたが、何故か触れてはいけないような気がして、敢えて聞くのをやめた。
 そうして、一から彼女に教えていくと―…彼女は意外にも、一度教えるだけですぐに着付けを覚え、その長い髪もあっと言う間に美しく結い上げた。元々、そういう才能があったのかと感嘆の声を漏らさずにはいられなかったが、彼女は「自分が居た場所で、髪の毛を弄るのが流行っていた」と何故か寂しそうにポツリと呟いていた覚えがある。
 そして、お座敷に上がった彼女もまた、社交辞令抜きで凄かった。
 何の指導もないまま、菖蒲姐さんの「笑って御酌するだけでいい」という言葉の元、即、名代に上がった彼女は、何とそのお座敷を何の失敗も犯さずにやりとげたという。彼女曰く、「あれはお客さんが幼馴染と、その幼馴染がお世話になっている人だったから、変に気取らずにできたせい」らしいのだが―…それでも後日、所作が美しかったと褒められていたと、新造仲間伝いに聞いた。
 見目の美しさと、どこか不安が残るけれど、一生懸命な姿や振る舞い。そして、本当にこの時代に生きている人間なのかと思うほどの不思議な雰囲気。そんな彼女に魅了される男の人はとても多くて―…その中に、うちの楼主が居たことは言うまでもない話である。

 だが、その裏で、彼女を妬む人間がいたこともまた、事実だった。


 3


 遊女は本気になってはいけない。
 お客様との駆け引きを楽しみながら、偽りの好意を示す。
 しかし、遊女の中には、偽りだったはずが、真実の好意に変わってしまった者も少なくはない。そうして、意中の人物の事しか考えられなくなると、結果として、周りが見えなくなり、その人以外はどうでも良くなって…ずぶずぶと泥沼にはまっていってしまうのだ。
 そんな自分の思い人が、いくら名代だからとはいえ、自分以外の女と楽しげに話しているのを目撃する。愛の言葉を紡いでいるのを耳にする。女の方にそんな気はないとはいえ、その現場を見てしまえば、疑心暗鬼、嫉妬に狂う鬼になるのも無理はないし、その気持ちも女としてわからない訳ではない。
 きっとあの子は裏表なく、ただ純粋に姐さんが来るまでの時間を心からもてなそうとしているだけなのだ。だがしかし、先程述べた通り、その姿に惹かれる人は多い。だからこそ、事実無根にも関わらず、自分の事は棚に上げて、『盗られた』と嫉妬する人間も居たわけだ。


 だが、彼女もまた、皆が言うほど出来た人間という訳でもなかった。私は後になって知ったのだが、彼女は初めて名代に上がったあの晩から、それこそ寝る間も惜しんで、着付け、髪結い、所作、お稽古事など自分が教わった事の全てを何度も反復練習していたらしい。らしい、というのも、それを目撃した番頭から聞いた話なのであって、実際自分の目で見たわけではないのだが、彼女の上達ぶりを見れば、それが真実であるという事は誰の目から見ても明らかであることがわかる。
 ……と、まあ、元々の潜在能力もあったのだろうが、寝る間を惜しんで行っていたからこそ、今の彼女が出来た訳なのだが―……その話を聞いた瞬間、妬んでいた遊女たちが一斉に口を噤んだのを見て、思わず心の中で、まるで勝者の様に拳を握りしめ、高く掲げたのは言うまでもない。

 それほどまでに、彼女は私の誇りであり、大事な親友だった。


 最初に出会ったあの時から、ずっと一緒にいて。一番近くで彼女を見ていて。沢山話して、喜びも悲しみも共有して。誰よりも身近な存在で、互いが互いを必要とする存在だと思っていたのに。


 いつしか彼女には、好きな人が出来ていたのだった。


 それこそ、最初は何とも思わなかった。私だってまかりなりにも女だ。こんな世界に生きていても、恋の一つぐらいはしたことある。だから、好きな人が出来た彼女の気持ちは良く分かっていたつもりだし、大事な親友が悩んでいれば背中を押し、幸せな事があれば、喜んでその惚気を聞いてきたつもりだった。
 私は彼女の事が好きだ。それは友情の意味で間違いは一つもない。なのに、そうやって背中を押し続けた結果、事あるごとに「花里ちゃん」と頼ってくれていた彼女の横には、今やもう、彼が居る。そして、既に一人前の遊女となった彼女には、万が一困ったことが起きた場合でも、彼でなくとも助けてくれる人が大勢いる。
 ―…今となっては、彼女が私を頼ることは、もうほとんどない。親の記憶もなく、幼い頃の思い出が一切なくても、一度も寂しいとは思わなかったのに……。
私は、初めて味わったその感情に、戸惑いを覚えていた。


妄想小説?と呼べるのか否か


  4


 今宵の空に、月はない。『二十六夜待ち』と一部の町や村では言うらしい。神仏の一種がどうこうと前に一度だけ聞いたことがあるけれど……結局のところ、遅くに昇る月を見るために、昇るまでの間、の目や歌えやを小高い場所でやる、というものらしい。そんな習わしを、ここ、島原でやろうと彼女を含む色々な人達で計画していたらしく、ここ数日の間、彼女は色々と走り回っていた。
 そして、当日の今日。彼女は頑張ったご褒美にと、彼と二十六夜の月見をしに出かけていった。
 部屋にある窓の障子戸を開け、空を見上げる。やはり二十六夜と言うだけあって、この夜空に月はない。そのかわり、月がいなくなった途端、自分はここにいるのだと主張するかのように、星々がいつも以上に煌々と光り輝いていた。
 それを見て、あの星はまるで自分のようだと思った。「私はここにいるよ」「傍にちゃんと居たんだよ」「気付いて欲しいんだよ」と月が居なくなってからしか、主張することが出来ない。いや、主張していても月の輝きが大きすぎて、月本体は傍にいる星の事など忘れてしまっているのではなかろうかとすら思う。とはいえ、私は彼女の横で、今回のことについてはそうやって自己主張すらしたことが無いので、星と重ねるなんておこがましいのかもしれないけれど。
 私の中で空を見上げる時間は、自分の頭と心を無にして、何も考えずにゆったりと落ち着ける時間だった。なのに、今は見上げれば見上げた分だけ、余計な事を考えてしまっている。
もう、これ以上何かを考えるのをやめよう。考えすぎると、彼女への態度にすら、それが漏れ出して、おかしな行動をとってしまいそうだ。
 そう考えて、私は障子戸に手を掛けると、音をたてないように、そっと閉じたのだった。


  5


 その時だった。障子戸を閉じて静まり返った部屋に、誰かの足音が響き渡る。どうやらその人物は階段を上っているらしく、足音は「トン、トン」と一定の拍子を刻んでいた。
 禿の子か、それとも新造の子か。はたまた姐さんか。とりあえず菖蒲姐さんは今日、特定の旦那さんと二十六夜を過ごすと言って、私達を置屋に帰したので、この足音の主ではないことは分かる。大方、先程上げたうちの誰かなのだろうと思い、大して気にも止めずに、私は自分の着物の帯を緩め、寝巻に着替えようと衿元に手を掛ける。
 しかしその瞬間―…先ほどの足音が突然消えたことに気付く。消えたならその代わりにどこかの部屋の戸が開け閉めされた音が聞こえてくるはずなのに、その音すら聞こえてこない。その事に不思議に思っていると――突然、この部屋の戸が叩かれた。

「…………?」
 こんな時間に誰だろうと、扉を見つめる。しかし、その向こうにいるであろう人物は、何も言わない。きっとこちらの様子を窺っているのだろう。
 そうこうしている間に、もう一度部屋の戸が叩かれる。そこで私は素早く身なりを整えると、「へえ」と返事をしたのだが―…そこで返ってきた声は、予想に反した、意外な人物のものだった。


  6


「花里。少し、ええ?」
「……っ!? あ、菖蒲姐はん!?」
 まさか相手がここに居るはずのない菖蒲姐さんだとは思わなくて、慌てて扉に駆け寄り、障子戸を開ける。すると彼女は寝巻のまま、申し訳なさそうに表情を曇らせていた。
「こないな時間に堪忍え」
「構いはしまへんけど……どないしはったんどすか?今日は、旦那はんと月見しはるって言うてはったのに……」
 言いながら寝巻姿の彼女を部屋に通し、部屋にあった座布団を差し出す。そうして、菖蒲姐さんが座ったところで私もまた、彼女の正面に座り込んだ。
「ああ、それは……相手の旦那はんに急用が出来てしもて、お帰りにならはったさかい。一人で月見してもつまらんし、わてもそのまま帰ってきたんや」
「せやったら、置屋に着いた時にでも声を掛けてくれはったら着替えとか……」
「ええんよ。……それは、他の子が手伝ってくれはったから」
(……他の子?)
 他愛もない言葉の筈なのに、何だか今の言葉が胸に引っかかる。今日は姐さんに言われて、姐さん付の新造は皆、置屋に帰ってきて、自室にいたはずだったから。なのに、他の子?
(もしかして、帰ってきて早々に、誰かと会うたんかな?)
「……せや、花里」
 そんな風に思案を巡らせていると、姐さんは柔らかい笑みを浮かべたまま瞼を伏せ、自分の袖の袂に手を入れる。そうして、次に彼女の手のひらが出てきた時、そこには小さな包みが一つ乗っていた。
「これ食べる?」
「……?なんどすか?これ」
「さっきの旦那はんから頂いたもんなんやけど……ほら」
 そう言って、彼女は包みの口をそっと開く。するとそこには―……。
「…………っ! わあっ、金平糖や!」
 白い包みの中に広がる、白や桃色、黄色に緑のお菓子。星の様な形をした小さな粒達は、今にも転げ落ちそうな程に溢れている。
「好きやったよね? 小さい頃から」
「へえ! ……って、覚えてくれはったんどすか?」
「何で忘れなあかんの」
 くすくすと笑いながら、彼女は自分の手元から一粒摘みあげると、懐かしげに眼を細める。
「……忘れてへんよ。花里が昔から甘い物に目があらへんことも、初めて花里に金平糖をあげた時に、『お星さまやー!』言うてはしゃぎまわった挙句、秋斉はんに怒られはったことも……」
「そ、それは忘れて欲しい内容で……」
「それに、そのお星さんが食べたらえろう甘くて。気に入ったんかなんや知らへんけど、誰にも気付かれへん様に文箱に隠しとったら、そこに蟻がようさん集ってしもて、皆に怒られたことも忘れてへんよ?」
「……もう、姐はん……」
 自分の阿呆な昔話をされて、顔から火が出そうになる。だけど、姐さんは意地悪そうな顔を向けながら、楽しそうに唇を動かす。
「……あと」
「……まだあるんどすか? もう、堪忍して下さい……」
 聞くに堪えられなくて、私は顔を俯かせる。幼少の頃とは違って、話されれば話されるほど鮮明にその記憶が蘇ってきてしまって……出来ることならば穴があったら入りたい気分だ。
 だが、姐さんはそんな顔を背けた私を見て、申し訳なさそうに軽く笑うと、そっと頭を撫でてきた。この年になって撫でられることなんて殆ど無いからか、何だか別の意味で気恥ずかしい。
 だけど、彼女はそれを止めることなく、言葉を続けた。
「……あと。何か落ち込んではったり、悩みがあったりすると、必ず一人で空を見上げとったことも忘れてへんよ」
 その言葉に、思わず、はっと顔を上げる。
 そこには、何もかも見透かしたような優しい目で見つめている、彼女の顔があったのだった。



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後編に続きます。

恋文企画はこちらから 

↑販☆についての説明がありますので、アメンバー公開です。

気になった方は、是非。



さて、三日目ですね。本日は月待講です。図録にも載せていただけました。


今だから言おう。これが一番大変だった……!

一番最初に書き上げた、月待講。これが、花里主役の超真面目な話、後日公開予定の「記憶」です。

これをノリノリで書いて、気付けば5000字を超えていて。あれ?規定1600字ですよね?っていう。

仕方なく一度没にして、再度花里主役の話を1600字で書く。

花里ちゃんの恋の話だったんだけど、なんとなく「う~ん・・・?」という感じが抜けぬまま、とりあえず提出。


しかし、ナツミンさんからの月待講のイラスト を拝見し、「ふおおおおおおおおお!!」と大興奮して、「これは!これは書かずにはいられない!!」と、再度花里を没にして書き上げ、締め切りぎりっぎりに最終稿を提出しました。


そんな話がこちら。イラストとリンクされているといいな。

ちょっと改変してあります。すみません。

完全翔太ルートのネタバレ含んでます。嫌な人は回れ右でオナシャス!!













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『同一情感』


 夜空にぽっかりと浮かぶ黄金色の丸い月。
 縁側に二人で腰掛けながら、私と翔太さんは黙ってそれを眺めていた。
 昔と違って、その無言の空間に、焦りや緊張といった物は全くない。ただただ、その時間が心地よくて―…いつしか互いに手を繋ぎながら、私達はその時間に身を委ねていた。


 そんな時、私は一つこの光景に既視感を覚える。それが何なのかを思い出した瞬間―…私の口から自然と笑みが零れた。
 それに気付いたのか、翔太さんは柔らかく微笑んで私に「どうした?」と問いかける。
 そうして、それに応えるように私は首を横に振ると、再び空を見上げながら、話し始めたのだった。


「…なんだか、懐かしいなと思って」
「懐かしい?」
「うん。…翔太さん、覚えてる?私達がこの時代に来て、初めて手を繋いだ時の事」
「…覚えてるよ。庭に面した部屋に二人で泊まった時の事だろ?…あの日もこんな満月だったよな」
「うん…だからね、こうして二人きりで縁側に座っていると、思い出して懐かしくなっちゃっ…っ!?」
 

 その時、繋いだ指先がきゅっと握りしめられるのを感じて、翔太さんの方へと顔を向ける。だけど彼は懐かしむかのように、夜空を見つめていた。

「…実はさ。今だから言うけど…あの日の翌日に俺、ほんの少しだけ後悔してたんだ。
どうしてあの時、手を繋ぐだけにしたんだろうって。もっと他に…」
「・・・・・・・・・。 えっ!?」


 その言葉の意味を深読みしてしまって、だんだんと顔が熱くなるのを感じる。
 だけどそれに気付いたのか、彼は慌てて否定してきた。

「いや、その、それ以上の事をとかじゃなくて…そりゃ確かに思わなかった訳じゃないけど…って、何言ってるんだろうな、俺…」


 彼は先程の私と同じぐらい頬を赤らめる。
 しかし、そんな顔を両手で隠すかのように覆うと、言葉を続けた。

「…まあ、だからさ。もっと他に、言わなきゃいけないことがあったのにって思ってた。
 あの時は、自分が生きている保証なんてどこにもなかった。…それに、そうやって考えあぐねているうちに、他の誰かに取られる可能性だってあったのに」
「翔太さん…」
「…でも、まあ、あの時はあの時で…何より龍馬さんのことがあったし。それに、例え思いが通じ合ったとしても、すぐに俺が死んでしまったら、結局悲しませてしまうし。だったら、他の奴と幸せになったほうがいいんじゃないかとか考えた結果だったんだけどさ。…だから、ほんの少しだけ、後悔なんだ」


 彼はようやく顔を上げると、自嘲気味に笑って私の方へと少しだけ体を向ける。そうして、もう一度掌を私の手に重ねると、再び優しく握りしめた。
 その手を見つめながら、思い出す。翔太さんの命が消えかかろうとしていた時、私も同じように後悔していたことを。どうして、あの時にこの気持ちを伝えなかったんだろうと。でもまさか、同じことを思っていたなんて…。
 ふと顔を上げると、彼と目が合って。それが何かの合図となったかのように、翔太さんの顔がゆっくりと近付いていく。
 そうして私もまた、これから起こることに胸を高鳴らせながら瞼を伏せた。


 耳に、甘く優しい声が響く。

「…あの日の続き、してもいい?」


 それに頷くと、私達はどちらからともなく唇を交わす。
 同じ後悔をしていたことを伝えたら、彼はどんな顔をするだろうか。そんな思いを胸に秘めながら。





 終わり。



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と、こういう内容でした。

いやあ、久々に文章をアップすると恥ずかしいもんだな!←


では、明日は、先ほど申した花里主役の物語、「記憶」についてです。

結構長いので、前後編でアップしようかな。


ではでは。

恋文企画はこちら

↑販☆の詳細もありますので、アメンバーのみの公開となっております。

いつでも申請ください。


さて、二日目の今日は「甘い嘘」と昨日販☆の詳細?を出した「それを君が望むのなら」のネタバレです。

ただ、「それを~」に関しては、お買い求めいただいた方に失礼ですので、先にも述べましたが、この先全文公開は致しませんので、よろしくお願いします。


……って言ってもね。もう、相方ナツミンさん が甘い嘘もそれを~も素敵に公開されているので、二番煎じもどうかなと思いまして。

甘い嘘に関してはノータッチで、それを~だけ、イラストと共に、セリフ公開したいと思います。


何がどう変わったのかは、見比べていただけるとありがたいです。こちらで※ナツミンさんのブログに飛びます


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妄想小説?と呼べるのか否か


「……なんじゃ、言いたいことがありそうだったからの。これなら、誰にも邪魔されんじゃろ?」




妄想小説?と呼べるのか否か



「……いいんですか?どうなっても知りませんよ」



妄想小説?と呼べるのか否か


「……あんな飴なんかで良ければ、いつでもあげるから。……でも、可愛いお前には別のものをあげようかな」



妄想小説?と呼べるのか否か


「どう扱っても良ければ、とっくの昔に、お前を放り出している。……この意味が分かるか?」



妄想小説?と呼べるのか否か


「阿呆。意識がない時やからこそやろ!……ほら、これをこうしてな……」


 どこから取り出したのか、花里ちゃんは筆を手に持つと、眠っている翔太くんの首元をつぅ……っと撫で上げた。すると、その筆の動きに合わせて、彼はぴくりと体を震わせながら、『ん……っ』と声を上げた。


「な、な、な、何してるの!?」


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……以上!

土方さん、秋斉さん、俊太郎様がないのはですね、土方さんはともかく、先に甘い嘘をお読みいただいた方ならわかるように、残る二人は完全にR18的な内容だったんですよ。

なので、購入者が18歳未満だった場合に、不適切だと思いましたので、今回はカットさせていただきました。土方さんはすみません、頑張りきれませんでした。

しかし、この三人。需要があれば書きたいとは思うけれど、果たして需要あんのかなっていうね!

あったら、どこぞのぐるで書こうかな。


以上、甘い嘘/それを君が望むのならでした!


明日は、月待講についてです。








という訳で、艶展無事終了したようで。
本当に主催の卯乃さん、企画の皆様、参加者の皆様、いらした皆様、お会いした皆様、お疲れ様でした!
そして、絵師様におかれましては調子こいてほんとすみません(。´Д⊂)その辺はまた後程。

さて。
私は相方ナツミンさんと16日に、紆余曲折有りながらも、伺ったんですが……。
いや、ほんと、なっちんには山程言ったんですが、あれですよ。

『行きたいけど、行きたくない、怖い』

だったんですw
どうしよう、はんを7冊しか出してないのに、6冊(1冊は買っていただけたことを聞いていたので。ありがとうございました!)売れ残ってたら。無配も一人だけ山積みだったら…あああ、見たくない((((;゜Д゜)))とガクブルしてまして。

しかし、蓋を開けたら、無事売り切れてました!良かった…本当に良かった…。
お買い求め下さった皆様、本当にありがとうございました!
中身は駄文なのに…誠にすみません(  TДT)

で、売り切れた後に、欲しかったと言ってくださった方がいたと運営様方から伺ったんですが……未だ欲しいという方、いらっしゃいますかね?
これで誰も居なかったら泣けるけど(笑)いや、いいんだ。それはそれで。

とりあえず、もう少ししてから、レポやら図録や展示に出した話やら、なんやらかんやら載せていこうと思います。

もう少し、自己満の世界にお付き合いくださいませ!

まずは、本当にありがとうございました!


Android携帯からの投稿

艶展―想―

日時:11/13(水)~11/18(月)PM12:00
※初日のお時間が変更になりました。

場所:町家ぎゃらりーほりかわ
※2Fは18歳未満立ち入り禁止、および、いらっしゃる方は靴袋をお持ちください。


    
艶展は有志で行う二次創作のグループ展です。
本家様とは何ら関係がございませんので、お問い合わせなどなさいませんよう、

よろしくお願い致します。
ならびに、会場への直接のお問い合わせもご遠慮ください。

詳しいことは艶展サイトへお問い合わせくださいませ。


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というわけで!発送も終わったので、展示品等々公開します!!

恋文企画とか、文香とか、もう色々参加させていただきましたが、

参加者全員で行ったものは艶展サイトをご覧くださいませ!!



①展示冊子



1.勿忘草前編

2.勿忘草後編


こちらはブログにて公開した、結城翔太花エンドのその後の話が前編。

翔太主人公です。

そして、前編のその後が、後編となります。主人公は、○○ちゃん。

一応、書き下ろしです。


3.如月蜜日


イベント「やきもちバレンタイン」結城翔太2幕の続きです。

こちらは、以前ナツミンさんとコラボさせていただいた代物なんですが、

なんと彼女、そのイラストをリメイクしてくださいました!必見!!


4.「甘い嘘~クラブ艶~」―前・中編―

5.「甘い嘘~クラブ艶~」―後編―


大人組ぐるで発祥したホストクラブ艶。そこにまつわるお話です。

大人組や個人のぐるで発表済みですのでお読みいただいた方はご存知でしょうが、

花里が腐女子化しております。

あと、完全に読みづらいです。ナツミンさんは、ブログで最高傑作wって言ってくれたけど、

実際そうでもないので、ハードルは下げめでお願いしますw

そんな駄作を補うように、ナツミンさんが新たに挿絵を書き下ろしてくださいました!!

後編に7人分載せてあります。


6、「記憶(寄集)」


お話2本組です。

1本は、以前ぐるで公開した、「秘めた思い」という翔太と主人公と、時々腐女子花里の話。

ナツミンさんの挿絵付きです。

もう1本は、「記憶」という花里の話です。こちらも書き下ろしました。

こちらのお話は、ものすごく真面目な花里ちゃんのお話なので、正直違和感もありましたw

が、お読みいただければ幸いです。

そして、「記憶」の方にはこれまたナツミンさんがイラストを書き下ろしてくださいました!!

2Fに展示もありますので、話に興味がなくても、いらしていただければと思います。



なお、メッセージ用ノートも付けましたので、コメントをいただけますと、幸いです。

でっかく「蟻」って書いてあるから、わかるはず。

っていうか、あれ作るの意外と恥ずかしかった…。なぜこのネームにしたんだ、自分。



②無料配布


A4サイズで、ナツミンさんとコラボさせていただきました。

「いつかの未来」という、結城翔太水エンドその後の話です。

今回は、表にナツミンさんのイラスト。裏にお話がプリントされております。

これを表に書いてある指示通りに、切ってたたむと、8Pの折り本が出来上がります。

畳まずに、ナツミンさんのイラストを愛でるもよし。

折り本の懐かしさに浸るもよし。それは皆様にお任せします。

……って、折り本ってわかるんだろうか。私も名称までは知らなかったんだけど……。

小学校のころによくやったなあ。


話がずれた。

ちなみに、部数は100です。カバンの隙間にでも忍ばせていただけると嬉しいです。




③冊子委託販(一冊400)


今回、1種類だけ出させていただくことになりました。

タイトルは『それを君が望むのなら』。

中身は、甘い嘘―後編―の自主リメイクです。……リメイクなんですけど、

ぶっちゃけこれが一番時間がかかりましたw


基本的に、「甘い嘘」は


花:「よろしゅうお頼もうします」

翔:「よろしくお願いします」


といった感じでセリフ感満載で全ページお送りするんですが、

今回のリメイクでは、きちんとした(いや、きちんとしてるかどうかはわかんないけど)

小説風に仕上げました。チラ見せはこの前のブログで。

なので、いちいちページが多いんですよ。本当にくどくてしつこい内容になっております。


登場人物は、基本の花里・翔太に加えて、


・龍馬さん

・沖田さん

・慶喜さん

・高杉さん


の高杉さん以外、普段は絶対に書かないであろう旦那様が登場します。

なので、キャラがおかしいことや話のくどさ等を気にしない方に読んでいただければと思います。



……で、先にナツミンさんのブログを読んでいただいた方なら、「あれ?」って思うかもしれないんですが。

甘い嘘では、特別に翔太のイラストも書き下ろしていただいてるんです。


そのイラスト。実は展示の方には入らず、この『それを君が望むのなら』のみに収録されております。

私自身、そのイラストに付随する話は、今のところ、どこかに公開する気はないので、ここだけの話となります。

イラスト自体の公開を、その後どうするかは、なっちんに任せたw

全ては艶展終わってからですね~。



そして、出展数は7冊のみです。我が家のプリンタが壊れたせいです。


素人の自主製本ですので、壊れる可能性もあります。

それでもいいよって方は、お手に取っていただけますと幸いです。


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よし、がっつりハードルは下げたぞww


そして、私事ではございますが、この度11月16日(土)に艶展へお邪魔しようと思います。

もし、16日にいらっしゃる方がおりましたら、遠慮なく声をかけてやってください。声を大にして喜びます。

あと、お会いできる方には、何か粗品をばプレゼントさせていただきたいと思います。

何かは未定。どうしようかな。諸々の事情からお蔵入りした冊子でも持っていくか……?←やめろ。


というわけで、よろしくお願いします!!




その3。『クラブ艶』。こちらは大人組で発足したスレを元に書かせていただきました。翔太と花里が主軸の話。

花里大崩壊です。腐女子化してます。パロディです。8人が揃ってこんなとこに居る訳ねえと言う方は、回れ右でお願いします。


大筋はぐるにあるの(ある、よな・・・?)と一緒なんですが、旦那様方とそのお相手とのストーリーを今、修正中です。修正っていうか、書き直しかな。

チラ見せオープン。これは龍馬さん編です。

ショットグラスに氷が入れられた音を聞いて、私はそこで初めて彼―龍馬さんに見とれていたことに気付いた。いつもは何もせずそのままなのに、今日の彼は髪の毛を一つに括り、普段ここに立っている少年―確か翔太といったか―と同じ、白いシャツに黒のパンツ、更に黒の長めのエプロンをしている。見慣れぬその恰好に最初は戸惑いを覚えたが、氷の音が鳴るまで見惚れていた自分に気付いた途端、自分自身が滑稽で、だけど、その分彼に夢中なのだと確信してしまっていた。

『今日は、他の予約はない』。そう、受付にいた人から聞かされて、心底驚いた。普段このお店は、完全予約制にしなければ、女の子で溢れてしまうぐらいの人気有名店であり、予約なしで入れたとしても、3~4時間待ち、もしくは最悪会えないなんてこともざらにあるぐらいだ。なのに、今日に限っては、予約がないなんて―…。

飄々としている龍馬さんの様子から察するに、これは間違いなく偶然。でも、きっと何かしらのチャンスなのだろうと思うと、カウンターの下で握りしめた掌に更に力が入り―…そこでようやく、掌が尋常じゃないくらい汗ばんでいることに気付いた。

―…そう。私は緊張していたのだ。今日これからの時間をどう過ごすのか、どうなってしまうのか。それに対する不安と、…僅かな期待に胸を膨らませながら。   』




その4。『短編集(寄集)』です。

今回は、「花里の記憶(友情物語)」+「微酔翔太」+「慶喜さんと秋斉さんのお話(再録)」を収録しようかと。

いや、まだわかんないけど。「微酔翔太」は時間次第で、ですかね。でも、書きたい。


『花里の記憶』冒頭。


私には、幼い頃の記憶がない。それを詳細に語るのだとしたら、この置屋に来る以前の記憶が全くと言っていいほど、私の記憶からは抜け落ちていた。

 禿として働いていた幼少期。その時に自分を可愛がってくれた姐さんや、いつの間にか―今となっては理由も分かるが―姿を消してしまった姐さん達の顔。それから、新造に至るまでの目まぐるしい日々。これらは全て思い出せるのに、自分が禿になった経緯を思い出そうとしても、何故か思い出せないでいた。

 自分がここに存在するという事は、もちろん私にも一般的な人間同様、両親が居たという事に他ならない。その事実に気付いた瞬間、次に頭浮かんだのは、自分は両親に会いたいのか?という疑問だった。

 一時期、私は自分の生い立ちが気になって、躍起になった事がある。それこそ、番頭や若い衆を捕まえて、自分がどうしてここに来たのか、その理由を知らないかと聞きまわったほどだ。しかし、誰もかれもが口を閉ざす。何も話してはくれない。それは私を気遣ってなのか、本当に知らないのかは、その時には全く分からず…まあ、後で考えると、若気の至りというやつだったと思いたいが、物凄く憤慨していた覚えがあった。そうして、姐さん達に、『自分の生い立ちを知ってどうする。ここには色々な事情がある娘達ばかりいる。ここに来る以前のことを思い出したくない娘だっている。忘れている方が、幸せということもあるんじゃないのか』と何度も諭され、私はいつしか自分の記憶探しを止めた。

 昔はともかく、今となれば、『両親に会いたいか?』と問われたとしたら、私は『いいえ』と答えるだろう。幼い頃の記憶が何もなくても、生きていく上で、別段何の不便もないという事を悟ったからだ。

私の傍にいる、沢山の姉妹。両親の記憶はないけれど、時に母の様に、時に姉の様に叱ってくれる姐さん達。それから、父の様に大らかに受け止めてくれる、番頭さんや若い衆の人達。―そして、兄の様に、本当の家族のように何でも接することの出来る楼主、秋斉さんが居てくれたから。だから、今の今まで、寂しさを知ることもなく、生きて来られたのだ。


そう。『あの時』が来るまでは。


こんな感じで。


微酔翔太は、未だ未定。書いたらまた、冒頭アップします。


慶喜さんと秋斉さんのお話は、ぐるかこのブログに上げたかな。確か。そちらの再録です。



あとは、現地に行かれた方用に、翔太×主人公のお話。『いつかの未来~水エンドその後~』を相方絵師のナツミン様の挿絵込みでプリントして置かせていただく予定ですので、よろしければお持ち帰りください。

しかし、字が細かいので、読みにくいです。でも、完成すると、嬉しいよね。


それから、一種類だけ販☆もさせていただく予定です。

発行冊子数自体少ないので、よろしければお願いします。

色々ついてくるよ!←



こんな感じで。また近くなったら上げますね~。



・・・って、ここまで書いて、欲しい方いるのかしらね。居なかったら、泣こう。

とりあえず、目下ナツミンさんと活動中です。

何が仕上げるのかは、行ってみてから、後日談ブログが上がってからのお楽しみってことで。


ではでは。蟻んでした。


煮詰まっております!

あ、蟻んです。こんにちは。


今回は個人的な艶展の事をちらりと。

はい、ものすごく早くから着手してたのに、煮詰まりに、煮詰まって・・・あああ・・・。


先月、艶展ブログの方で、SSを書き下ろさせていただきました。

こちらはめっちゃ楽しく書かせていただきましてですね。彩佳さんのSSとリンクするような話を書いたつもりなのですが…まー、キャラ崩壊が酷い!ww

本当にいいのか?と思案しましたが、神々しい挿絵まで書いていただきまして。受け入れてくれた運営陣を始め、皆様には感謝してもし足りません。

艶展にいるにゃんこのお話です。読まれてない方は、是非。いや、気が向いたらで・・・いいんで・・・読んでもらえると・・・←小心者。



それから、出品物の話。

全体として関わったものについては後程お話しするとして、個人的な出品物をば。


今回出品するうちの決定してる物のみ。しかし、減ったらごめんなさい。。


一つ目は、『如月蜜日』。

艶が一年目にあった裸イベント「やきもちバレンタイン」(だっけ?)の翔太三幕、四幕に当たる話です。

これは、イベント見てないとわからないかもしれないですが、とりあえず、他の男(菖蒲さんの事が好きな菓子司)といちゃいちゃしてる主人公(実は菖蒲さんとその菓子司の仲をとりもとうとしてた。で、そのお礼にと菓子司と一緒に翔太君へのバレンタインのお菓子を作ってただけ)を見て、妬いちゃった翔太君。でも、それは勘違いだったよ!的な話です。長いね。

ぐるにあるんですけど、こちらだけ登録してくれてる方の為に、冒頭だけチラ見せ。


安次郎さんにお礼を言って、頭をぺこりと下げる。

彼は翔太くんに言われたことを気にも止めない様子で、笑って見送ってくれた。

いつの間にか降りが強くなった雨の中、一つの傘をさして、二人で並んで歩く。

何から話したらいいのかわからなくて、黙り込んだまま置屋への道を急いだ。

ちらりと目線を翔太くんにうつすと、彼は何かを考えているかの様に眉間にシワをよせ、視線を地面に落としている。

そんな私達を知ってのことなのか、突如、更に雨の降りが強くなり、ゴロゴロと雷鳴が微かに鳴り始めた。

雨が地面から跳ね返って泥水となり、着物の裾を汚していく。

それに気付いて、慌てて着物をたくし上げてみるものの、逆に汚れていない部分が汚れてしまって。その間にも、雨は勢いを増していき、正に盆の水をひっくり返すという言葉を表した状態だった。

どうしようかと彼を見遣れば、私を濡らさないようにとしてくれる為か、既に肩がぐっしょりと濡れている。

いや、よく見ると肩だけではない。肩を中心に、雨が着物に染み渡り、段々と色が変わっていっているのがわかる。


「しょ、翔太くん…風邪引いちゃうよ!ちゃんと傘に入って……」

「……いいよ。もう、これじゃあ傘をさしてもささなくても一緒だし。○○が濡れなければ、それでいいから」

「でも……」

私の言葉を遮って、翔太くんは傘を私に差し出す。途端に彼の髪や着物はどんどん濡れていった。

一度は傘の受け取りを断ったのだが、手に柄を押し付けられてしまってはもうどうしようもない。

申し訳なく思いながらも受け取って、すぐに彼を傘に入れようとする。

だけど彼は突然、濡れた手で私の腕を引いてきた。

「このままじゃ、○○もずぶ濡れになるから」

それだけ言うと、翔太くんは藍屋への道とは違う方へ歩きだす。

その力強い腕に、私は自分の身を任せるしかなかった。』



はい、次。その2。『勿忘草』です。翔太花エンドその後のお話。

こちらはこのブログで公開しましたね。あれ?したよね?

で、今回は眠っていた続きを書いております。しかし、時間との関係で、決まり次第ですかね。


なので、ちょこっとだけ後編の冒頭披露。


真っ青な空。遠くに佇む入道雲。太陽の熱が肌を焼く、8月。夏休み。

ここ数日、外の気温は人の体温並みに上昇しており、外に居るだけで体中の水分が抜けていく気さえする。

そんな中私は、遊びの誘いには乗るものの、この暑さのせいで外に出るのも憚られ、それ以外の日は家で静かに過ごしていた。

京都から帰って来た日から、翔太くんとはいわゆる、「お付き合い」というものをさせてもらっている。だけど、学校ではいつもの5人で話し、行き帰りや休日は翔太くんが部活ということもあって、なかなか二人っきりになるということもなかった。

それでも、久しぶりに5人で話すということも、彼のバスケ姿も見ることもすごく懐かしくて……色々と話したいことはあったけれど、今はそれもいいと思って、夏休みまでの日々を過ごしていた。

そうやって過ごす日々の中で、一つだけ驚いたことがある。それは以前に比べて、はるかに携帯を使わなくなった事だ。

あの時代で毎日を生きてきて、いつしか『文を書く』ということが、私の中では当たり前のことになっていて。前はメールの返信が来なくて、「何か変な事でも書いたかな……」と不安になってしまったこともあったけど、今は大して気にも止めなくなっていた。

だからこそ、翔太くんとメールや電話をしなくても、あの幕末の頃よりも学校などで顔を合わせることが多くなった分、特に不安がることもなくて……と、こんな話をしたら、莉奈に、「熟年夫婦じゃないんだから」と突っ込まれた。……確かに、自分でもそう思わない事もないけれど。

話を戻す。

だから夏休みに入って、バスケ部の夏練習のせいで会えなくても、少しのメールと電話、後はたまに会えていれば、私にとってはそれでよかった。

事実、翔太くんとは、たまの部活の休みの日とかに外でデートしたりもしてて、その時にあの幕末での日々の事なども少しは話していたりもしていた。

だから、不満なんてものは何もない。

ただ、大好きな人と一緒にいることが出来る。私はそれだけで十分幸せだった。

だけど、この日だけは違っていた。








『明日、家に来ない?』

8月の最後の土曜日。私はリビングで一人、大きなソファーに腰掛けながら、携帯をじっと見つめる。そこに書いてあるのは、たった、その一行だけの文章。昨夜、突然、翔太くんから送られてきたものだ。

男の人からすれば、文章としてみれば十分に簡潔的で、何の問題もない物だったと思う。

だけど、彼からのメールとして見れば、あまりにも不可思議ではあるとも思った。

(……これって、どういう意味なんだろう?いや、でもきっと、深い意味なんてないはずだよね。……うん、翔太くんだし……)

携帯をテーブルの上に置き、言葉とは裏腹に五月蠅い心臓を落ち着かせるために、ソファーに横になる。だけど、無理矢理自分を納得させてみても、やっぱり気になるものは気になってしまうわけで。

もう一度手に取り、ボタンを押してディスプレイを見る。かといって、何度見返したところで文字列が変わるはずもない。

それに、こんなことをここで考えていても、正解が出るわけがない事も分かっている。

だからこそ、「行く」という返事と、時間的な事だけはメールしたけれど……彼が前後に何の前置きもなく、こんなメールのみを送ってくるということに、私は疑問を感じられずにはいられなかった。

(……でも、本当にどういう意味なんだろう。いや、でもあれだよね。多分、意味なんて本当にないし、期待してるようなことは何も……って、期待って!)

頭をぶんぶんと横に振って、一度大きく深呼吸をしたあとに、天井を見上げる。

目に入った時計が表示する時刻は、朝の10時半。待ち合わせの時間は13時。

残り時間は2時間半もあるのに、緊張のせいか、私の胸は一向に落ち着くことが出来なくて。

支度なんてものは、とうの昔に終わっている。

母から出されたお茶を飲んでいても味が分からない。延々と垂れ流される、いつかの再放送のドラマを見ていても、何の感情移入も出来ない。朝ごはんも中々喉を通らなかったし、お腹も空かない。だからといえども、このままの状態を2時間も続けている訳にはいかない。

(うーん……何かしてれば気がまぎれるんだけど……何か……何か…………?)

何かないかと思考を巡らす。だけど、緊張しきった頭では、何か案が出てくるはずもなくて。

仕方なく、携帯の代わりにリモコンを手に取り、チャンネルを適当に回す。

だが、そんな時。あるCMの最中に、一つの通販番組が私の目に入った。

(……あ、そうだ)

ソファーから立ち上がり、テレビの電源を切る。

私はそのままリビングに背を向けると、キッチンへと向かったのだった。』




どこがちょこっとだ、この野郎。とね。




長くなるので、後篇へ続く。


うわあ・・・何このブログ。更新してなさすぎる・・・。

というわけで、お久しぶりです。蟻んです。

更新したいものがたくさんあったはずなのに、時間が・・・時間が・・・といい訳です。

本当に申し訳ございません。



というわけで、告知です。l

この度・・・もう既にその名をご存知の方もいらっしゃると思いますが、


艶展


に参加させていただけることとなりました。

詳細は上のリンクから。

リンクなんて久しぶりすぎて貼れてるのかどうか・・・あああああ・・・。すんません。




豪華なメンバーの中に私が混ざっていいのかとマジで不安なんですが・・・。

とりあえず、皆様の足手まといにならぬように頑張りたいと思います。


というわけで、よろしくお願いいたしますm(_ _ )m



蟻ん