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Commentarii de AKB Ameba版

AKBとかその周辺とか

words

 

 3巡入場最前列随喜の涙からの半年音沙汰無しの後、やっと届いた返事は例の悪文でありました。 

 

 以下の公演の抽選からはもれてしまいまいましたが、

 「キャンセル待ち」となります

 

 クソ番だろどうせ。

 と思いきや何と一桁。本日めでたく繰り上げ当選が決まりました。ぱちぱち。

 

 呼ばれたのは村山彩希さんプロデュース「レッツゴー研究生!」公演。

 前回のお呼ばれも研究生公演だった。

 そのあと「よすす公演」をオンデマで見てヨコちゃんにぶちのめされて、かなり無理して応募をしたんだけど「よすす公演」これが全く当たらず。やっぱお前研究生ちゃんと見ろよ、という上層部(雲の上関係)の思し召しなんだろ。

 

 あれ16期ってあらかた昇格したんじゃねえのと思ったら発表だけだったのね。そんなことも知らないくらい、AKB縁遠くなっていた。フレモン辞めちゃうし。アベマは台北行っちゃうし。

 みんな昨日まで知らなかった。

 

 16期研究生と言えば、初見

 …何かこう、しっくりこないというか、「研究生」らしさというか、初々しさというか、そういう成分がちょいと足りない、というか。

 慣れてる、と言ってしまったら言いすぎなんだが、「下手くそながらガンバリました」とはちょっと違う感じがした。

 なーんてナマイキな印象を書いちゃったと思いきや、それが後半のダークサイドでアヤシイ花が咲いてひっくり返るという、研究生にあるまじき展開だった。

 

 で、今度の「レッツゴー研究生!」公演。

 

 セトリを見るとまあ初心者ぽかーんのヲタ選曲だ。そりゃそうだ、おそらく日本一の現役公演ヲタが選んだセトリだもの。

 かろうじて「High School Days」はあるものの、「LOVE修行」も「黄金センター」も「強い花」も「蕾たち」もない。

 あたしたち研究生をよろしく、なんて愛嬌など全くないのがむしろすがすがしい。

 

 極めつけは「孤独なランナー」。

   目の前に/続いてる/希望への渋滞

   ライバルは/全力で

   競って/道を進む

 ユニット開けの1曲目。

 オリジナルはSDN唯一の公演「誘惑のガーター」EN1。

 不確かな栄光を目指して、息が苦しくなるサバイバルゲームをライバルと競う歌。「黄金センター」も似たようなテーマだったが、あっちには、あっけらかんとした諧謔と根拠のない希望があった。でもここにはそんな余裕は微塵もない。

 

 これほど研究生に似つかわしくない歌もなかろうに。

 

 最初にこの曲について触れたのは2011年、震災の余塵さめやらぬ10月だった。

 もう7年近く前。

 「希望への渋滞」という余りにもつらい現実は、SDNという酸いも甘いもかみ分けたお姉様たちだけにしか歌えないフレーズだと思っていた。その時は。 

 SDNそのものが「なかったこと」にされることが決まった時のことだった。

 シングルにすらなっていないこの曲が、リクアワ2012で第3位に選ばれた。

 まだ「奇跡」が起こせることを、メンバーもヲタも信じていられた時代。

 

 その曲が今、年端もいかない研究生たちによって歌われている。

 

 この曲を選んだ「シアターの神」彩希さん。

 「AKBと言えば誰?」と尋ねられたとき、AKBを深く知れば知る人ほど彼女の名前を挙げるだろう。

 

 彩希さんとはつまるところ、

 「テレビやグラビアにはほとんど出ないけど、シアターに行けば会える、いつでも全力で頑張っている人」だ。

 

 うん。確かにAKBそのものだ。

 その彩希さんがこれからのAKBを支えるであろう研究生にこの歌を歌わせる。

 その意味をじっくり噛みしめている。

 

 7年前、AKBのメンバーは少なくとも表向きは「仲間」だった。

 「ライバルではあるが、支え合う仲間」という擬制がその頃はまだ生きていた。

 「つらくはあっても、孤独ではない」という物語に僕らは酔ったふりをしていた。

 

 それが今や。

 Teamとは名ばかり。いつメンバーが入れ替わるかわからない仮初めの間柄だ。

 その名を冠した公演で欠員が出ても、チームの中で埋めることはない(それどころかTeamのメンバーだけで公演を成立させることすらできない)。

 

 それでも組織が上げ潮の時だったら苦にもなるまい。先輩や同僚がつぎつぎに新しいステージに上がっていくのを見ていれば、苦しいことも耐えられるだろう。でもそこに導いてくれるべき人は、坂道ばかり見上げているようにみえる。もう古いオモチャに飽きちゃったかのように。

   私は走り出す/最後のチャンスだ
   ここで抜け出さなければ/敗者になるよ 

 それでも走って抜け出さなきゃ進めない。

 研究生に最初から「最後のチャンス」を突きつけなければならないのが今のAKBの現状、ということなのだろうか。

 そしてそれを誰よりも強く実感しているのが、シアターのステージに立ち続ける彩希さんというわけだ。

 

 16期研究生は現在18人いる。以前見た「16期研究生公演」は、18人全員がステージに上がることができた。

 だが彩希さんはこの「レッツゴー研究生!」公演を、16人構成の本寸法にしつらえた。すこし工夫すれば18人編成だって組めたろうに。その結果公演に出られないメンバーが必ず出ることになる。

 しかも初日、

「できない子をできないままステージに立たせるのは16期のためにならない」と16人で予定していた公演をまさかの15人でスタートさせた。

ORICON NEWS 2017-07-28

  と来たもんだ。

 

 おいおい、こんなの他の大人の仕事だろ本当は。

 まあ、「他の大人」が仕事をしてないから仕方ないのだろう。

 いや、むしろもうAKBへの愛が失われた大人には、指一本触らせるべきではないのかもしれない。

 僕らには(ってずいぶん僕もご無沙汰なんだけどさ)、彩希さんがいる。 

 

 公演の掉尾を飾るのはなんと「家出の夜」。

 大人を起こさないように/足音を殺した

家出の夜

 大人は黙って寝ててくれ、ってことなんでしょ、ゆいりー。

 うん、僕らには確かに彩希さんがいるし、シアターは今でもそこにある。

 

words

   君の心にも/川が流れる
   つらい試練の川だ
   上手くいかなくても/時に溺れても
   繰り返せばいい/あきらめるなよ
   そこに 岸はあるんだ
   いつか 辿り着けるだろう

 功成り名を遂げたおっさんのいつもの説教ではあるのだが、やはりこの曲はいい。

 目をつむると夕闇せまる夏の日を思い出す。額が輝く彼女たち。上がる花火。ソバージュのあっちゃん。

 行った訳じゃ無いけどね。

 

 そう。

 目の前にあって行く手を阻んでいるように見える「川」は、ホントは君の心の中にある。渡れないと思っているのは、君自身だ。

 僕もおっさんだからそのことは骨身に沁みてわかっている。

 

 「それを越えられるかい?」

 

 おっさんはそう言って川の向こうに立っている。

 岸に向かって、たくさんの少女たちが泳いでいる。

 見ていることしか出来ない僕は、せめて祈ろう。

 僕の大切な彼女たちが、途中で溺れることなく、その夢が少しでもかないますように。

 

 でもおっさん、坂道ばっか見てるといつか罰が当たって転がり落ちるぜ。

 たまには溺れかかっている子たちのことを思い出してくれよな。

 

--

 

 16期研究生の「RIVER」、よかったよねえ。へったクソばっかだけど。

 可愛らしくも初々しくもない研究生達。最初は区別がつかない彼女たちが、徐々に身近になって行き、ついには後ろ姿でも、フレーム端っこでも(柱の向こう側でも)わかるようになっていく過程を、久しぶりに味わっていく予感。

 山内(瑞)をとっかかりにしばらく動画を漁っていました。

 

 長らく触ることも無かったDMMのブックマークもクリック。 

 月間サービスを申し込んじゃったよまた。一時は秋葉栄難波博多全部の月間サービス申し込んで、片端からダウンロードしてたんだよなあ、これ。見きれるわけないのに。こんどは本店だけだって。まじで。

 

 で、よすす公演。見ちゃいました。そりゃ見るよ。よすすだもの。

 田野ちゃん後藤出るし。彩希さんがいないのは残念だが。

 

 幕が開いて初っぱなの「RIVER」。

 正規メン、それもパフォーマンスについてよすすが折り紙をつけた精鋭たちの「RIVER」は鳥肌もの。比べちゃ悪いがちょっと前に見た研究生のそれはお遊戯発展途上としか言いようがない。

 

 センターに立つのはは岡田(奈)と小島(真)だ。ひとり欠けた「三銃士」。

 そして田野。彼女を深く知るスタッフとメンバーの中で水を得たように生き生きと踊る。後藤、ちょっとの間にぐっと存在感が増した。アノレキ風味だったのがどっしりとした、というか。古畑、みぃちゃん、みんな気合いが入っている。

  

 そんな中、見慣れないメンバーが気になった。

 端や後列で、ちらっとしか映らないのだが、見えた瞬間のダンスがすごい。

 顔はよく見えない。長い前髪が顔の左半分を隠している。俗流心理学を引用するならば自信のなさや劣等感の表れだ。

 だがその動きはどうだ。髪を振り乱し一瞬見える隠したはずの表情は、自信のなさなど欠片も感じられない。それどころか、法悦の笑みとともに見る者の視線を力尽くで奪ってやると言わんばかりだ。

 

 「私を見ないで」というメッセージと「さあ私に食らいつけ」というパフォーマンスの奇妙な同居。 

 

 横山結衣と名乗った。

 

「訛ってもアイドル」。

 自己紹介での彼女はまず「私が訛ってもと言ったら一緒にアイドルって言ってくれたら嬉しいです」と言った。「私の呼びかけに客の反応がなかったらどうしよう」という、心細さの表れだ。

 直前に自己紹介した博多の坂口理子が、恐らく初見が少なくないであろうシアターの客のコール&レスポンスを見事にコントロールしたのと対照的だった。

 踊っていない彼女は、やっぱり自信がない。

 

 Team 8に抜群のダンススキルを持ったメンバーがいる、という噂を聞いたことがあったが、さして気にも留めていなかった。僕には西野がいたし、あと田野ちゃんや彩希さんがいるのだから。

 

 そもそもTeam 8の公演には一回呼ばれたきりで、その後出会うチャンスがなかった。公演で会えないメンバーは、僕にとっては、残念ながら存在しないに等しい。

 オンデマでTeam 8の「PARTY」公演も見ていたのだが、それは要するに横道侑里を見るためであったので、他のメンバーはほとんど憶えていない。

 2015年3月にはシアターで横山(結)の生誕祭が行われた。

 横道も出演していたのでたぶん見たはずなのだが、全く印象に残っていなかった。

 

 

 

 今見かえして見れば、まあ可愛らしいと言えなくもないが、なんとも垢抜けない。

 この子が今日見た彼女と同一人物とはどうしても思えないのだが、その訛りとがちゃ歯はまごうことない横山(結)だ。

 この数年が彼女(たち)にとっていかに濃厚な年月だったかがうかがわれる。

 

 後半。

 「カモネギックス」から「Escape」までは横山(結)の独壇場だった。田野ちゃんや古畑もすごくいいのだが、横山(結)の存在感が圧倒的だ。みずからダンスアレンジした「UZA」は、メンバー全員を手のひらの上で踊らせた。

 

 圧巻。

 

 でも音楽が止むと、横山(結)はMCのみぃちゃんが出す「お題」に手を挙げることすらも出来なくなってしまう。まるで魔法が解けたかのようだ。

 

 お前は三只眼吽迦羅のパイか。最終兵器彼女のちせか。古いねどうも。

 普段は地味な子が一旦緩急あれば超人的な力を発揮するアニメのヒロインを見ているようだ。

 

 横山(結)が出ている動画や画像をネットで漁る。こないだまで山内(瑞)を探し回ってたのに、なんとも申し訳ないなあ移り気で。

 

 それにしても、「桜の花びらたち」のあの子が数年で、

 

 

http://ngt48matome2ch.net/archives/8060740.html

 こうなっちゃうんだもんなあ。

 女子別れて三日なれば刮目して相待つべし

 

 現場で一度も会ったことのないメンバーに、こんな心惹かれるのは初めてかも知れない。うーん、呼んでくれないかなあ、よすす。

 

 

 

 

words

   傷つくたび/大人になるよ

   涙流して/胸痛めて

   それでも夢をあきらめない

   最初のうさぎになろう

 目をつぶると光景が浮かぶ。

 広い草むらを一心不乱に走り続ける子うさぎ。

 それを狙う飢えた狼や鷹、銃を構えた猟師の存在を知ってか知らずか、子うさぎは駆ける。

 先頭を走る「ファースト・ラビット」とは、最初に犠牲となるうさぎでもある。流れるだろう血は、夢を見る代償。

 かわいらしい振付と裏腹に、この曲からは残酷な匂いが微かに漂う。

 それは決して楽しいことだけではないであろう世界を一心に走り続ける彼女たちへの、秋元先聖先生からの教え。

 それでも、最後まで走れ。飛べ。駆けろ。

 

--

 

 抽選、まさかの3巡。

 3年前、4巡で呼ばれたときは駆け出しそうになってお兄さんに止められたんだっけ。下手最前に座って、渡辺と見つめ合った(と思ってる)夜だった。

 注意されないように逸る足をぐっとこらえて、がらがらのシアターに入る。

 

 上手最前。

 目の前には鉄のバーとカーテンだけ。

 すげえ。やっぱりこの景色はすげえ(ああ、3年前にはこのバーはなく、最前の椅子はもう少し前だった、何て嫌みなことは言いますまい)。

 

 目の前の幕が開き、マシンガンのようなビートが胸をぶち抜き、はじまった

   PARTY!

 それからの2時間。やっぱり人生最短の2時間でありました。 

 

 Only today。

 なんか琴線に触れるんだよなあこの曲。いろんな場面が頭に浮かぶ。大画面で見たリクアワのTeam 4。不遇だったTeam BII。奇しくも前回下手最前に座ったときにもセットリストに入っていた。あの時は不意にこみ上げるものがあって、思わず泣いちゃったんだよなあ。今回はまさかなあ...

 ってやっぱりじわっと涙ぐんでくるから不思議。最前+Only todayの組み合わせは鬼門と憶えておきましょう。

 

 前回はほとんど名前も分からなかったので、今回は全員の姓とアー写だけは憶えて行きました。おかげで個体識別がかなり効く。

 浅井稲垣梅本黒須佐藤庄司鈴木田口田屋。

 長友播磨本間前田道枝武藤安田山内山根。

 安定して可愛い浅井。まるで首の長いお人形のような本間。べっぴんだがKSGK臭のする田口。ちょっと西野を彷彿とさせる田屋。ちょっと相笠を彷彿とさせる通枝。

 やっぱり写真よりみんなずっとずっと魅力的だ。しかも目の前。これは補正がかなりかかってるぞ。

 額から飛び散る汗のしずくまで目の当たりした日にゃ、細かいこたどうでもいいんだよ、って事になりますよ。

 

 だから「スカひら」のひらりが足りないとか、「ガラス」でスカートの巻き付きが決まってないとか、そうゆうことは言わない。

 あと研究生なんだから恥ずかしがらずに自己紹介でちゃんとキャッチフレーズやれとか、もっとヲタを信じて前置きなしでふってこいとか言うのも止めときます。

 

 それよっかすごいの見ちゃった。

 

 僕前回何を見てたんだろう。

 生意気にも、

 こういう時は誰かを見る、のではなく焦点を深くする感じで、全体を見る。幸いステージのセンターがほぼ全て見られる位置だ。視界の中に見るべきメンバーがいればセンサーが反応するはず。

 Team 8の時は、M1、PARTY!の初っぱなで「誰だありゃあのポニテは?」ってのが横道だった。誰を見よう、と迷う間もなく、視線を奪っていった。

 

 うーん。

 そういうメンバーは、どうやらいなさそう。

 だって。「いなさそう」じゃねえよ。節穴かお前の目は。

 

 山内瑞葵を見ろよ。 

 

 いや、ホント前回どこを見てたんだろう。すごい子いたじゃん。

 立ち見2列めだったから?

 そんなの言い訳にならない。

 

 いや、何かを感じてはいたんだって。一応初見で目に付いたメンバーで、

 後半おろおろしていたら、にっこり微笑んでくれてほっとした。

 とだけ書いているんだから。今となっては何が言いたかったのか、自分でもわからん。わからんが、何かを感じてはいたんだって。

 

 今日は場所がよかった。最前で、かつ上手は彼女のポジションのようだった。

 後半、「小池」は山根を見てたんだよ。トロンとしてちょくちょく釣ってくるずんちゃん。でもちょいちょい目に飛び込んでくるんだよ何かが。コミカルな動きの端々に引っかかる何かが。

 で、「制服」から「涙売り」ではもう目が完全に奪われていた。

 

 動きのダイナミックさ。

 止まった姿の真っ直ぐさ。

 次の動作に移るまで、ぎりぎりまで動かずにいるその余裕。

 過剰なジャンプと制止。しなやかな筋肉への信頼感。

 

 そしてその表情。

 「涙売り」の薄暗闇の中で、彼女は笑った。

 「涙売り」の深い深い絶望のさなか、笑っている彼女を確かに見た。

 

 何度か書いたけれど「涙売りの少女」とは、少女売春のメタファー。

 Dark sideの極北のような曲である。

 自分を「売る」ことでしか真っ暗闇から逃れることのできない少女を、山内は一瞬であるが笑顔で表現した。絶望を表す冷たい笑顔。

 

 目が合った気がした。 

 

 直感的にわかった。時間にしたらほんの数分だった。

 これを、この場所でこうやって見ることは、もう恐らく二度とないことを。

 息がかかるほどこんなに近くで、まなざしを交わしながら彼女を見ることは決してないだろう。

 その数分、心臓を掴まれていた。

 

 田野ほど完成はされていない。西野ほど無邪気ではない。石田ほどエレガントではない。横道ほど切実ではない。都築ほどクレイジーではない。

 (あと茉夏ほどかわいくはない)。

 でも何か間違いなく別の何かだった。

 

 この人をもっと見たい。「UZA」とか「Beginner」とか。

 と思ったらもうあるんでやんの。まあみんな思うことは一緒だわね。

 

 でそれら見て思った。やっぱこいつらかわいくない。

 とくに16期の「や行」。

 

 ああ、やっぱりそこに行かなきゃ会えない人が今でもそこにはいっぱいいるんだねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

words

   ハート型ウイルスに/やられてしまったみたい

 うわあ。まさかの3巡。上手最前列。

 やっぱ空の上の誰かさんにもっと研究生を見ろその目で見ろしっかり見ろと言われているみたい。

 いっぱしの公演ヲタぶって論評してる場合じゃなかった。

 やられた。完全にやられた。ちょっと壊れた。

 words

   傷つくことを恐れはしない/何があっても怯まずに

   自分の夢を探しに行く/最初のうさぎになろう

 

 朝顔を育てている。

 

 植物の栽培なんて何十年ぶりだろう。早起きして水をやって、蔓を誘導してわくらばを摘んで。

 帰宅後風にそよぐ葉をじっと見て、飽きることがない。いったい何を見ているのか自分でもよくわからないのだが。

 変わり朝顔の種も手に入れたが、これはこれで手がかかる。小さな種の背中の部分をひとつひとつヤスリで削り、苗床に植え、温めた保冷バッグで出芽を待つ。バッグは温水を入れたペットボトルを入れておくのだが、朝夕交換しなくてはならない。

 本格的にやっている人から見れば児戯に等しい手間なのだろうが、「手塩にかける」ってこういうことなんだ、と実感する。

 

 これだけ手をかけても出芽しない種や、せっかく芽生えても途中で止まってしまう種もある。出芽したけれど、種の殻がなかなか外れず、2枚ある子葉の1枚が取れてしまった苗もある。本葉を育てるための光合成がほとんど行えず、このまま立ち枯れてしまうのかと思ったけれど、残った1枚の子葉の脇から、ちっちゃな本葉がちょろっと出て来て、何とかまだ生きている。

 

 数日前に、先に撒いた鉢が大きく育って、小さな花をつけた。なんてことはない、ごくごく普通の朝顔の花なのだが、見ているとよくぞ咲いてくれたと、いとおしい気持ちがこみ上げてくる。

 

 それを言うと家人からは「年をとった証拠」と笑われるのだが。

 

 なあんて、ステキな随筆みたいな書き出じゃん。

 でも花作りっていいよね。暇があればもっといろいろやりたくなる。

 

 そんな時届いた招待状。2度目の「16期研究生公演」。

 研究生公演と言えば、こないだ栄のを見てきたばっかりなのに、こんなに早く次が呼ばれるとは思わなかった。空の上の誰かさんが、僕に「研究生をしっかり見ろよ」とおっしゃっているんだろう。

 

 研究生。

 

 13期14期の研究生と、僕は幸福な時を過ごした。そういやこんな事を書いたこともあったっけ。

 栄の6期研究生とも強い絆を(まあ勝手にだが)感じている。まあ松村先輩のおかげなのだが。

 1回だけ見た博多も研究生公演だった。

 2013年には研究生だけの武道館コンサート、2014年にはアップカミング公演@舞浜アンフィシアターにも行った。

 

 うっすいヲタ活だけど、こうやってみると研究生と縁が多いなあ。別に移り気な研ヲタだってわけじゃないんだよ(多分)。 

 

 ていうか、研究生活動こそに48グループの本質があるんだよ。

 歌えて踊れて、べっぴんさんぞろいのアイドルが見たきゃ坂道とか行けばいいんじゃんねえ。こう書くとまるでAKBグループが歌えなくて踊れなくて、おへちゃぞろいみたいだけど、ま、それも当たらずとはいえ遠からずなんだがっておっと自粛。

 

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 たくさんの種たち。

 ある種はすぐに芽生えて、すくすくと育つ。

 別の種はなかなか芽が出ず、やきもきさせる。

 芽が全く出ない種。葉っぱのちっちゃな種。

 せっかく芽が出ても、いじけちゃっていつのまにか立ち枯れちゃうこともある。

 嵐が茎を折る。虫が付いて食い荒らす。

 いろんな苦労を経て、やっと咲いた花はちいさくて平凡なものかも知れない。

 でもその花のひとつひとつがたまらなくいとおしい。

 

 朝顔の話だぜ。

 

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 2度目の16期研究生公演。出演メンバーは前回と一緒。

 あれから次の芽は出たか? 

 小さくても花は咲いたか?

 楽しみであるし、心配でもある。

 僕は僕で、せめて今回は全員の名前だけでも憶えていくことにしましょう。

words

 

    君が星になるまで/夢をあきらめない強さを持て!

 

 仕事がらみの出張だったので前泊。宿は3ヶ月前に予約した。劇場から徒歩5分。仕事は地下鉄で20分以上かかるところだったのにね。

 

 前夜。

 栄って一歩入り込みといいね。あんな店やこんな店でむふふな感じになって、めでたく泥酔。宿酔いぎみの朝を迎えて、仕事を速攻で片付けて、劇場の前に立つ。

 1年半ぶりの栄。

 

 今日は同伴者がいる。これまた4年前に博多でご一緒したA君。

 この数年ですっかり偉くなってしまったのに、ヲタ魂は忘れていない頼もしい後輩。推しはこじはるとぱるるとみるきーという、ちょっと切ないラインアップ。

 SKEはほとんど知らない。知っているのはJとだーすーだけだって。前者はともかく...

 

 17時15分劇場着。A君はちょっと興奮気味。こんな姿部下には見せられないよなあと思ったが、お前もそうじゃんなあ、俺。

 

 抽選は14順。それでも十分座れた。きれいな劇場だよなあ、ホント。

 座ってからトイレに行く余裕があるもんなあ。

 

 そしてオバチャ。おなじみMIXは打たないが、SKEコールは全力。

 一体感は秋葉のシアターよりは強いかも。

 

 そしてはじまった「青春ガールズ」。

 その瞬間、僕らはあっという間に lazy boys に逆戻り。

 そうか、この曲は、こんなにも楽しい曲だったんだ。

 

 --

 

 恐るべし栄の研究生たち。

 知ってるメンバーいない時の僕のやり方は、とにかく広く見て目に飛び込んでくる子を探すのだが、次から次へと飛び込んでくる。おいおい、忙しいなあ、おい。

 もちろんばらつきはあるのだが、誰もが前のめり。流している子は一人もいない。

 

 最初のMCもいい。

 全員がちゃんとキャッチフレーズを作っていて、客を巻き込むような仕掛けになっている。他のメンバーもきっちりあわせてくるし。

 「知っている人はいっしょに言ってくれれば嬉しいです」とか、

 「私が○○と言ったら、XXと言ってくれますか」など、客に遠慮するような前置きは一切なし。

 「お前ら知ってるよな。当然合わせてくるよな」。

 「え、え、私あなた誰だか知りませんから」などというぽっと出遠征組のことなんかお構いなしだ。

 でもそれでいいのだ。軽い疎外感はスパイス。ここがどれだけ親密な空間なのかを肌で知ることができる。なに、口を動かしてうにゃうにゃやってりゃいいんだから。

 予習したけりゃ入場前に配られる出演者一覧を見れば、顔写真とキャッチフレーズのコール&レスポンスがしっかり載っている。親切だね。

 上に行くためには愛されなければいけない。

 愛されるためには名前を憶えてもらわなければいけない。

 そのためだったらなりふりかまわず何でもする。

 その努力を、本店の研究生が(いや、正規メンバーもだ)どれくらいしているんだ?

 「中学3年生15歳の...」だけじゃいつまで経っても覚えてもらえないぞ(いや、覚えるんだけどさ。それがいけない)。

 

 この中の何人が「星」になれるのかそれはわからないが、間違いなく全員が「夢をあきらめない強さ」を持っているように見えた。

 松村先輩のようなメンターが存在しないのがハンデキャップにならないのか心配していたが、どうやら杞憂だった。この子たちがきっと「次の(別の)SKE」を作って行くに違いない。

 

 また会いたい。

 A君も僕も強くそう思った。

 

 --

 

 倉島杏実

 最初に視界に飛び込んできた。

 お! こどもがいるぞ! 

 そして動く。多動児なみに動く。後ろでも端っこでも、ちっちゃな体を大きく見せようと動く動く。そして表情。全ての歌詞に表情をつけようとして過剰。

 全く注目の集まらないところで,ロボットダンスしてやんの。脈絡無く。

 いいぞいいぞ。動け飛べ跳ねろ。

 で、かわいい。プロフィールのアー写よかずっとかわいい。ロリ成分はないつもりなんだが、いい。

 惜しむらくは存在感とツヤが足りない。「Don't diturb !」のフラは盆踊りに見えたし、「打ち上げ花火」の浴衣は着るというより着られてた。

 しょうがない、11歳なんだもんなあ。と考えたところでJのことを思い出す。Jの劇場デビューも11歳だったんだ。うーん、改めて恐るべしJ。

 序盤客席がMIXを打つ時、彼女の口も打ってた。間違いなく打ってた。ヤツはヲタだな。

 お見送りで激励を、と思ったが小学生は定時退社してました。

 

 岡田美紅

 連れのA君が見惚れた子。何だかかわいくて鈍くさそうなおっとりしてそうなところがいいって。

 そんなこと言ってると化けた時びっくりするぜ。それが研究生を見る醍醐味。

 なんせメトロさんも大注目してるんだもの。

 この子もアー写よかずっとかわいかった。

 

 矢作有紀奈

 「青ガ」の鬼門はフラとフラメンコなんだが、それがどちらもきちんとできてた。

 「シンデレラ」は歌唱メンではなくダンスメンをみるべき、と勉強しますた。

 この人もアー写以上だった。

 

 深井ねがい

 うるせえにぎやか。

 島田と谷を足して踏んづけたみたいな子。

 実物よりアー写の方がかわいい。

 でも嫌いじゃないぜ。

 

 

 

 

 

words 

 

青ガ1」を書いたのは、何ともう6年前田敦子。

 奇しくも同じ季節。

 

 僕と彼女たち、ずいぶん遠くへ来たような、何だか成長のないような。

 あの頃は現場に行くなんて、夢のまた夢の話だったのに、今は当たり前のように栄の劇場に立っている。

 

 SKE48 研究生公演「青春ガールズ」。

 

 栄の研究生にはずいぶん楽しませて貰った。自慢じゃないがアップカミング公演は全部見た(アンフィシアター以外全部オンデマだけどね)。思えば幸福な日々だった。

 名前ばかりで報われない、「終身名誉研究生」。

 スタベン制度のせいで、出番のない研究生たち。

 誰よりも公演を愛する栄のヲタども。

 みんなのエネルギーが集結して渦を巻いて、栄のステージを震わせた。

 「来るべき者(アップカミング)」 の名のもとに。

 

 あれからもう2年。

 栄の新たな研究生たちは、僕に何を見せてくれるんだろう。

 

words

   制服が邪魔をする/もっと 自由に愛したいの
   そういう目で見ないで/たかが女子高生よ

 オバチャが終わってステージが明るくなって、そしておなじみの、

 

 PARTY!

 

 なわけだが、いつものPARTY! と勝手が違う。

 

 PARTY!と言えば、センターとボトムにフリルがついてて、白襟でちょっと上品ロリータなお揃い制服風コスチュームなのだが、今夜の彼女らは、色とりどりカラフルで、帽子も被っている。研究生らしいっちゃらしい格好。

 なるほど、この方が個人識別はしやすい。名前はわからないけれど、「赤い衣装で短い髪の子」がいいじゃん、とかね。

 

 さあ、誰を見ようか。

 こういう時は誰かを見る、のではなく焦点を深くする感じで、全体を見る。幸いステージのセンターがほぼ全て見られる位置だ。視界の中に見るべきメンバーがいればセンサーが反応するはず。

 Team 8の時は、M1、PARTY!の初っぱなで「誰だありゃあのポニテは?」ってのが横道だった。誰を見よう、と迷う間もなく、視線を奪っていった。

 

 うーん。

 そういうメンバーは、どうやらいなさそう。

 そうしたら今度は、よく見える位置に来たメンバーを見る。

 正直なところ、姿だけで心を鷲づかみにするような、とびっきりのべっぴんさんはいなさそう。まあそれは仕方ないことなのかもしれない。美しさは人に見られることによって磨かれるものだが、彼女たちにはまだそれが足りない。

 

 M1 PARTY!、M2 DMT。頭の中に一瞬「毒リンゴ」のイントロが流れたが、聞こえてきたのは、チャリンコのベル、そしてベース。そうそう、これはそういうセトリなんだっけ。M3は「会いたかった」。ステージを駆け回る彼女たちはとても楽しそう。

 

 あの空間で僕らが喜びを感じるのは、あそこで彼女たちと「楽しさをシェア」するからだ。

 そのためにはまずパフォーマーが楽しくなければいけない。もちろん、実際に楽しくなくても楽しさを表現できればいいが、恐らくそれだけの技量を持った人は、そうそうはいない。

 だから彼女たちは、あそこに立てることを楽しめなければいけない。

 うん、みんな楽しんでいるね。よかったよかった。

 

 そしてM4「Only today」。僕の大好きな、おなじみのスカ調の明るい曲想に切ない歌詞。それだけで表現が難しい上、公演の頭のノンストップ4曲めにしちゃ、こいつは何とも体力のいる曲だ。

 ラインダンスは揃えにゃいけないし、サイドステップは大きく高くあって欲しい。それも笑顔を絶やさないまま。

 ここまで来ると、足が上がらない子、苦しそうな顔の子がちらほら出てくる。

 「よし、ガンバレ、もうちょっとだ」と、軽く手に汗握っているのは既に術中にはまっている証拠だ。

 走って走って、全員でゴールになだれ込むような、そんな終わり方だった。

 うわあ、疲れたね。

 

 M4まで終わった感想は、もちろん「楽しかった」。

 でも何かこう、しっくりこないというか、「研究生」らしさというか、初々しさというか、そういう成分がちょいと足りない、というか。

 慣れてる、と言ってしまったら言いすぎなんだが、「下手くそながらガンバリました」とはちょっと違う感じがした。

 

 なんだろう、これ。

 とずっと感じていたものが吹っ飛んだのが後半。

 

 A dark side of AKB。

 

 AKBには、世の中の人が余り知らない暗い部分がある。

 明るくって、カワイクって、かわいいかわいい女の子の内側に潜んでいる暗闇。

 

 研究生には荷が重い楽曲のはずだったのだが。

 

 「制服が邪魔をする」と「涙売りの少女」。

 どちらも黎明期のヲタを震撼させた dark sideの曲。

 前者は自分を守ると同時に縛り付けている「制服」の二面性に抗う少女の内面の歌だ。そして後者はあからさまに言えば「少女売春」の歌だ。

 こんなの年端もいかない研究生にやらせてるんじゃねえよ。

 

 だが現実は全く違った。 

 研究生たちは、この「心の暗闇」を何の違和感なく、ステージの上で生き生きと表現していた。彼女たちはたぶん、1期生2期生よりも歌の心を理解している。

 

 うわ、なにこいつら。

 

 予兆はあった。

 ユニット曲の「スカひら」「あなクリ」「ガラスのI LOVE YOU」まではいいのだが、その後が「黒い天使」。

 境界性パーソナリティの匂いがぷんぷんするヤバイ女の歌。 

 これもまたこどもにやらせる曲じゃない。

 それを研究生の3人は(下手くそだが)全く借り物ではない表現でやり終えた。

 

 こいつら、ちっとも可愛くねえ。初々しい研究生じゃえねえ。

 ヤバイぞ。

 

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 目についた人。

 

 武藤小麟

 姉同様ヘンテコな名前。でも姉より存在感がある。サイドステップが一番大きかった。姉より柔和な顔立ちのくせに、時折見せる視線は姉より鋭い。

 

 山根涼羽

 最初は目だ立たなかった。でもどんどん綺麗に見えてくるから不思議。16歳って嘘だと思うよ。

 

 浅井七海

 安心して見ていられるべっぴんさん。みんくそ田名部からおっさん成分と酒を引いて、カワイらしさを足した感じ。

 

 黒須遥香

 一瞬ヒラリーに似てると思った。全体曲ではそんなに印象は強くなかった。でも「黒い天使」でびびった。

 

 山内瑞葵

 後半おろおろしていたら、にっこり微笑んでくれてほっとした。

 

 梅本和泉

 右目を病んでいるとMCで言っていた。「目病み女に風邪引き男」という諺を思い出した。

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

words

   PARTY! /すべてを忘れて! 

   PARTY!/ 体 動かしちゃえ!

   PARTY!/ さあ 楽しみましょう!

   PARTY!/ 夜はこれからだよ!

 またまた呼ばれたッ!

 やっぱPARTYだッ!

 

 というわけで当選したのは、16期研究生公演。

 セットリストは「AKBの本流」にして「古参ホイホイ」。

 そう、酸いも甘いも、黒いもあるのがホントのAKBだもの。

 知った顔は一人もいないけれど、19人も採用したのは、誰かが何かを企んでいるとしか思えない。もう一人辞めちゃったけど。

 

 早めに仕事が終わったので、久しぶりに銀座。伊東屋さんで万年筆のメンテを頼みに行くついでに、話題のGINZA SIXを覗いてこようか、と。

 で、感想。

 なんだい松坂屋ちゃらちゃらしやがって。ダメありゃ。銀座の渋みがない。「どうです高級でしょ」って構えが強すぎて、お下品。

 さりげなく置いてあるモノの値段が二桁違ってびびるのが銀座だよねえ。

 

 やっぱ銀座は松屋。靴とボウタイとポケットチーフを買って裏の司でお茶。見上げれば名残の藤が曇り空に揺れて綺麗だった。

 

 17時買ったばかりのボウタイを締めてシアター着。

 チケットを購入してお賽銭箱を探すがない。AKBは誰かのためにプロジェクトをやめたのかおい。ちょっと探して目立たないところにあった、誰のサインも書かれていないやっつけの箱を発見。これじゃ光宗大明神も泣いてるぞ。

 

 18時整列。

 並んでいると、隣のヲタに話掛けられた。

 「あの警備員さん、こないだの公演でメンバーの卒業を聞いて泣き出したんですよ」。

 「それを見てもらい泣きしちゃいました」と。

 毎日毎日公演に入ることはできるけれど、その公演を守るために決してステージを見ることが出来ない彼。

 ずっと背中で聞き続けてきた彼女が、突然告げた「卒業」に、涙をとどめることが出来なかった彼。

 そう言えば昔、「深呼吸」って歌があった。

 なんだか遠い昔のようだ。

 それもまた、シアターだけの物語。

 

 18時15分抽選開始。

 いつものことながら、一巡で呼ばれることを確信しながら待っていたのに、結局呼ばれたのは後半立ち見確定となってから。立ち見は久しぶり。センター2列目下手寄りに場所を確保して待つ。

 少しして聞こえる鐘の音。

 

 今日は誰に会えるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 中学2年生の時に引っ越しをして、10年以上住み慣れた町を離れた。

 本当だったら転校をしなければいけなかったはずなのだが、どういうわけか僕は転校することなく、もとの公立中学に通学することを許された。

 慌ただしい日々の後、引っ越ししたわりには、以前と変わらない日常が続くようになった。

 ただ、電車(正確には電車とディーゼル機関車)を乗り継いで帰らなければいけないという事情ゆえ、前みたいに学校帰りに友だちとだらだらと時間を無駄に過ごすわけにはいかなくなった。

 日が傾いても遊んでいるともだちに軽く手を振って、僕は先に帰途についた。

 

 少しさびしくはあったが、生まれて初めての電車通学は心おどるものがあった。手には特別に許された腕時計。学校にいる間は鞄にしまっておいて、校門を出たら装着! そこからは少しだけ大人のセカイに足を踏み入れた僕がいた。

 

 行き帰りの車中で読む本を買うために、毎日帰りに駅ビルの本屋に寄る習慣がついたのもこの頃だった。中学生の小遣いで買える範囲の本を探すため。

 そして出会ったのが、鶴書房のPeanutsコミックスシリーズだった。

 後に角川が引き継ぐのだが、訳者は谷川俊太郎だった。

 

 Good grief! 

 

 「よい悲しみ」っていったい何のこと?

 やれやれ、それがわかるのはもう少し後の話だ。

 

 確か一冊290円だったと思う。当時の物価からしたら、そして中学生のお小遣いに鑑みると、そこそこの値段だった。だから最初に買った一冊を、ほぼ暗記するくらい読んで、僕はPeanustの(そしてスヌーピーの)友だちになった。

 

 きっと余りに僕がPeanutsとスヌーピーのことばかり言っていたからだろう、ある日東京で働いていた姉が僕に教えてくれた。

 「スヌーピーのミュージカルがあるけど、行く?」。

 

 それが坂本九主演の「君はいい人、チャーリー・ブラウン」だった。

 

 調べてみると1977年のことだ。

 ヤクルトホール。どういうわけか、一番前の席に座ることができた。

 正直、内容は憶えていないが最前列で目が合った僕に、スヌーピー役の役者は笑いかけてくれたのはしっかりと憶えている。招待してくれた姉に「スヌーピーと目があった!」と興奮して姉に報告したっけ。なるほど、昔から釣られやすかった訳だ。

 

 実家のどこかにこの時買ったスクリプトがあるはずだ。40-50冊の鶴書房版Peanutsコミックス、「月刊スヌーピー」全巻、映画「A Boy named Charlie Brown」サントラ版LP、その他いろいろ。きっともう死ぬまでに繙くことはないのだろうけれど。

 

 今でも全集が出る度買っているし、六本木のミュージアムには何度か足を運んだ。でももう一度ミュージカルを見に行くことになるとは思わなかった。

 

 もちろん、彼女のおかげだ。